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本編
第十二話 野馬追部的年越し準備
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十二月二十日。そろそろ次の年を迎える準備が始まるころだ。
「じゃ、俺は先に池月で行ってるから、みんなはあとからそれぞれの馬に乗ってきて」
狼森先輩はそう言うと、池月の腹を蹴った。
「ヴヒヒヒヒヒヒヒヒーン」
池月が、厩舎にいるほかの仲間にいななきかけて、歩き出す。
『ヒヒヒヒヒヒ~ン!』
ほかの馬たちも、それぞれの馬房の中からいなないた。
今日から学校は正月休み、いくら部活動が盛んな南相馬高校でも、無人になるときがある。
この時期に家族旅行に出かける部員も多いから、休み期間中は狼森先輩が家で預かってくれるそうだ。今日は、馬たちを狼森家に移動させる日。
出発の時間が近づいた。各部員がそれぞれの馬に馬装を施す。光太は摺墨に、小梅ちゃんは雪華に、友里恵はルルに、わたしは天照に。
先頭を行くのは、わたしに決まった。その次に小梅ちゃん、友里恵、結那と続き、光太がしんがりを務める。
みんなの馬装が終わって、事前に打ち合わせておいた順番にならぶ。
「じゃぁ、行くよー。ハイよっと」
天照の腹を蹴る。
カポッ、カポッ
二馬身くらいの差を開けて、みんなも動き出したのがわかった。
わたしの普段使いの鞍は、ソメスサドルという会社に特注で作ってもらった軍用鞍だ。日本軍騎兵用のものをもとにして、一部に小学生のころ使ってたランドセルの革を使って作ってある。
鞍の前後に着けている鞍嚢の前側のほうから、先輩に渡された地図を取り出した。
(学校の前の道をズバーッと行って、二番目の角をクイッと曲がって、しばらく歩いたら見える塀・・・・・・けっこうおおざっぱだな~)
とりあえず、地図に書かれた通りに進むと、T字路になってしまった。目の前には、煉瓦塀。えーっと、これはどうすればいい?
「あ、なんだ、ここにいたのか」
『うわぁっ』
急に塀の上から顔を出した先輩に、一同ビビる。
「ちょっと待ってろ、今池月といっしょに行くから」
先輩が来るまで、三十分近くかかった。しかも、やってきた先輩の格好ときたら。着物に袴姿なんだもん。
「先輩、それ、どうしたんですか・・・・・?」
「あ、これ?俺の普段着」
「・・・・・・・・・」
言葉が出ない。いったいこの先輩は、なんなんだ?
「表門まで、案内するよ。なにしろ、この狼森屋敷は広いからな。迷子になるかもしれない。」
(お屋敷・・・・・・?)
わたしたちの頭のなかが「?」で埋め尽くされる。
十五分後、わたしたちは、表門の大きさに圧倒されていた。東京にいたころ、毎日のように見ていた赤門より一回りも二回りも大きい。表面には、黒漆と螺鈿細工が施されていた。
「優太郎です!開門してください!」
先輩が叫ぶと、ギギギギギギ・・・・・・・という音がして、門が開いた。
「おかえりなさいませ。お坊ちゃま」
中で控えていた黒服の人が頭を下げる。
「うちの執事の晴彦さん。晴彦さん、この人たちは部活の後輩です」
「それはそれは、よくぞいらっしゃってくださいました。ごゆっくりお過ごしください」
本物の執事だ~!なんか緊張する~。
「ど、ども」
先輩の後について中に入ってさらにビックリ。狼森屋敷は、すごい広大だった。
学校二つ分はゆうに超える広さの敷地には、人口の池が掘られた庭。その周りに、たくさんの建物が建っている。
白砂が敷き詰められた道を進むと、片側の壁が取り払われた建物が見えてきた。まわりには、土が盛り上げられている。
「弓の練習場だよ」
狼森先輩が説明してくれた。その向こうに、厩舎はあった。
狼森家の厩舎は、一般的な西洋式の厩舎。どちらかというと、北海道の馬産地にあるようなものに近い。
「グフフフフ、グフフフフ」
飼い主の帰還に気づいた馬たちが鼻を鳴らす声が聞こえる。
厩舎の入り口で下馬。手綱を引いて中に入ると、尾花栗毛のハフリンガーがいた。人懐っこそうな顔をしている。
「こいつは太郎。うちの馬だ」
池月を太郎のとなりの馬房に入れながら、先輩が言った。
「天照はそこの一番、摺墨は二番、雪華は三番、ルルは四番の馬房に入れて」
ここの馬房は、繁殖牝馬用に広めに作られている。採光や通風にも考慮した設計になっていて、人間でも居心地がよかった。
「はい、お疲れさん」
指示された馬房に入れると、馬をつないで、馬装を解いた。
「よし、じゃあ、そこの物置にある鞍掛にかけといて」
物置のなかも、上にあいた天窓から差し込む光であふれている。ここでずっと日向ぼっこをしていたい気分。
「あさひ~、どこ~?」
「はーい、今行く~」
結那の声がした。声のほうに向かう。
馬たちは、冬の昼下がりの日を浴びて、気持ちよさそうに目を細めていた。
「じゃ、俺は先に池月で行ってるから、みんなはあとからそれぞれの馬に乗ってきて」
狼森先輩はそう言うと、池月の腹を蹴った。
「ヴヒヒヒヒヒヒヒヒーン」
池月が、厩舎にいるほかの仲間にいななきかけて、歩き出す。
『ヒヒヒヒヒヒ~ン!』
ほかの馬たちも、それぞれの馬房の中からいなないた。
今日から学校は正月休み、いくら部活動が盛んな南相馬高校でも、無人になるときがある。
この時期に家族旅行に出かける部員も多いから、休み期間中は狼森先輩が家で預かってくれるそうだ。今日は、馬たちを狼森家に移動させる日。
出発の時間が近づいた。各部員がそれぞれの馬に馬装を施す。光太は摺墨に、小梅ちゃんは雪華に、友里恵はルルに、わたしは天照に。
先頭を行くのは、わたしに決まった。その次に小梅ちゃん、友里恵、結那と続き、光太がしんがりを務める。
みんなの馬装が終わって、事前に打ち合わせておいた順番にならぶ。
「じゃぁ、行くよー。ハイよっと」
天照の腹を蹴る。
カポッ、カポッ
二馬身くらいの差を開けて、みんなも動き出したのがわかった。
わたしの普段使いの鞍は、ソメスサドルという会社に特注で作ってもらった軍用鞍だ。日本軍騎兵用のものをもとにして、一部に小学生のころ使ってたランドセルの革を使って作ってある。
鞍の前後に着けている鞍嚢の前側のほうから、先輩に渡された地図を取り出した。
(学校の前の道をズバーッと行って、二番目の角をクイッと曲がって、しばらく歩いたら見える塀・・・・・・けっこうおおざっぱだな~)
とりあえず、地図に書かれた通りに進むと、T字路になってしまった。目の前には、煉瓦塀。えーっと、これはどうすればいい?
「あ、なんだ、ここにいたのか」
『うわぁっ』
急に塀の上から顔を出した先輩に、一同ビビる。
「ちょっと待ってろ、今池月といっしょに行くから」
先輩が来るまで、三十分近くかかった。しかも、やってきた先輩の格好ときたら。着物に袴姿なんだもん。
「先輩、それ、どうしたんですか・・・・・?」
「あ、これ?俺の普段着」
「・・・・・・・・・」
言葉が出ない。いったいこの先輩は、なんなんだ?
「表門まで、案内するよ。なにしろ、この狼森屋敷は広いからな。迷子になるかもしれない。」
(お屋敷・・・・・・?)
わたしたちの頭のなかが「?」で埋め尽くされる。
十五分後、わたしたちは、表門の大きさに圧倒されていた。東京にいたころ、毎日のように見ていた赤門より一回りも二回りも大きい。表面には、黒漆と螺鈿細工が施されていた。
「優太郎です!開門してください!」
先輩が叫ぶと、ギギギギギギ・・・・・・・という音がして、門が開いた。
「おかえりなさいませ。お坊ちゃま」
中で控えていた黒服の人が頭を下げる。
「うちの執事の晴彦さん。晴彦さん、この人たちは部活の後輩です」
「それはそれは、よくぞいらっしゃってくださいました。ごゆっくりお過ごしください」
本物の執事だ~!なんか緊張する~。
「ど、ども」
先輩の後について中に入ってさらにビックリ。狼森屋敷は、すごい広大だった。
学校二つ分はゆうに超える広さの敷地には、人口の池が掘られた庭。その周りに、たくさんの建物が建っている。
白砂が敷き詰められた道を進むと、片側の壁が取り払われた建物が見えてきた。まわりには、土が盛り上げられている。
「弓の練習場だよ」
狼森先輩が説明してくれた。その向こうに、厩舎はあった。
狼森家の厩舎は、一般的な西洋式の厩舎。どちらかというと、北海道の馬産地にあるようなものに近い。
「グフフフフ、グフフフフ」
飼い主の帰還に気づいた馬たちが鼻を鳴らす声が聞こえる。
厩舎の入り口で下馬。手綱を引いて中に入ると、尾花栗毛のハフリンガーがいた。人懐っこそうな顔をしている。
「こいつは太郎。うちの馬だ」
池月を太郎のとなりの馬房に入れながら、先輩が言った。
「天照はそこの一番、摺墨は二番、雪華は三番、ルルは四番の馬房に入れて」
ここの馬房は、繁殖牝馬用に広めに作られている。採光や通風にも考慮した設計になっていて、人間でも居心地がよかった。
「はい、お疲れさん」
指示された馬房に入れると、馬をつないで、馬装を解いた。
「よし、じゃあ、そこの物置にある鞍掛にかけといて」
物置のなかも、上にあいた天窓から差し込む光であふれている。ここでずっと日向ぼっこをしていたい気分。
「あさひ~、どこ~?」
「はーい、今行く~」
結那の声がした。声のほうに向かう。
馬たちは、冬の昼下がりの日を浴びて、気持ちよさそうに目を細めていた。
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