いざ出陣!! 南相馬高校 野馬追部!

七日町 糸

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本編

第十三話 初詣

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 畳の上に置かれた和紙。墨汁をつけた筆をその上に滑らせる。
「よしっ、できた」
 和紙の上に大きく「愛馬精神」。
 みんなもぞれぞれ書初めを終えたらしくて、大きく伸びをしたり畳に寝っ転がったりしている。
 結那は、「不撓不屈」。光太は「前進」。狼森先輩は、「武道を律する」だ。
「よし、みんな書き終わったところで、初詣にでも行きますか」
『はーい』
 わたしと結那は、自分の部屋に戻って着替える。
「どうせだからおしゃれしないとねー」
「そうだね。晴れ着用意したんだしね」
 結那が赤い矢絣の秩父銘仙を着た上から、紫色の袴をつける。わたしは、水色に矢絣模様の秩父銘仙に、下は結那と同じ紫色の袴。
 袴の下に乗馬用のブーツを履いて、厩舎に向かう。
 友里恵と小梅ちゃんは、すでにルルと雪華に鞍を置いて待っていた。二人とも、わたしたちの色違いのような服装をしている。
 わたしと結那もすぐに天照と鬼鹿毛に鞍を置いて、ハミをかませた。
「お疲れー」
 先輩と光太が最後に準備を終わらせて、全員スタンバイオッケー。
「よいしょっと」
 鞍の前の部分と手綱をいっしょにつかむと、鐙に足をかける。

 ポスン

 鞍に腰を下ろし、反対側の鐙に足を入れた。
「じゃ、行きますか」
 天照の腹を軽く蹴り、狼森先輩の池月を先頭に歩きだす。

 カポッカポッ・・・

 蹄の音が新春の街に響いた。
「いってらっしゃいませ」
 晴彦さんに見送られて正門を潜り、相馬小高神社に馬を向ける。

 すっ・・・・

 狼森先輩が「速度を上げる」という手合図を送る。それと同時に、池月が並足から速歩に歩様を変えた。

 ポンッ

 隊列の二番目を進むわたしも、天照に足で合図をし、少しだけ腰を浮かせる。速歩は馬の背の上下動が激しく、座ったままだとお尻が痛くなるから。

 カッカッカッカッ・・・・

 蹄の音の間隔が短くなる。

 ヒョウヒョウ・・・・

 朝の澄んだ空気がわたしの顔を洗い、髪を後ろになびかせた。

 パっ

 狼森先輩がさらに合図を出す。

 ポンッ

 天照の腹を蹴り、速度を速歩から駈歩に変える。それと同時に、鞍の上に腰を下ろした。

 ダカッダカッ・・・・

 蹄の音が少し重くなり、天照の背の揺れが少し穏やかになった。
「信号だ!」
 狼森先輩がこちらに向かって手のひらを向ける。

 キュッ

 手綱を絞り、池月から一馬身ほどの差を開けて止まる。

 ブロロロロロロロ・・・・・

 目の前の十字路を車が通り過ぎていった。
「そろそろだぞ」
 狼森先輩が言うと同時に、横にある歩行者用信号機が点滅を始めた。

 ピピッ

「信号ガ、青ニ変ワリマシタ」
 信号機が音声と光で進行を示す。

 すっ

 手綱を緩めると同時に、足で天照に指示を出した。
「ブルルルルルル」
 馬たちの吐く息が白く輝き、冬の澄んだ空気に舞う。
「寒いね~」
 最後尾で鬼鹿毛の手綱を取る結那が言った。
「そうですね」
 小梅ちゃんが首を大きく振る雪華を抑えながら言う。
「大丈夫?馬っ気出てない?」
「もう、この子騙馬ですよ。平常運転です」
 結那が笑いながら言い、小梅ちゃんが同じように笑いながら返した。

 ダカッダカッ・・・・

 駈歩の足跡を響かせ、馬たちは軽快に街の中を進んでいく。
「そういえば、狼森先輩は進路とか考えてるんですか?三月から三年生ですけど・・・」
「う~ん、そうだね・・・・」
 わたしが訊くと、狼森先輩は少しだけ考えて言った。
「とりあえず、進学しようとは考えてるよ」
「狼森先輩の家、馬の生産牧場ですけど、継がないんですか?」
「いや、最終的には継ぐつもりだけど、色々と学びたいことがあって・・・・」
「そうなんですね」
 わたしが言うと、狼森先輩は少しだけ笑いながら言う。
「とりあえず、今は大学の獣医学部を目指している」
「さすが優等生ですね」
 わたしが言った。事実、狼森先輩は頭がいい。常に定期テストでは上位にランクインしているし、それ以外の知識も多く持っている。
「一応うちの牧場に獣医はいるけど、一人でも多くいた方が万が一の時に対処できるからな」
 狼森先輩はそう言うと、池月に左に曲がるよう指示を出した。
「あさひはそんな進路に進みたいんだ?」
「そうですね・・・」
 わたしは少し考えてから、口を開く。
「とりあえず、馬に関わる仕事をしてみたいです。競走馬でも乗馬でも」
「ふーん。騎手とかにはなりたい?」
「騎手ですか・・・・。食事制限とか嫌なのであまり考えてないですね」
「じゃあ、厩務員とか?」
「厩務員もいいですね。馬たちといっぱい仲良くなれそうです」
 わたしはそう言いながら、天照の首をなでた。
「結那はどうだ?」
「そうですね。福祉系の大学に進みたいです」
 結那がはやる鬼鹿毛を抑えながら言う。
「意外だね」
「福祉とかを学べる大学で、ホースセラピーとかについて学んだり、研究したいな・・・」
 わたしが言うと、結那は微笑みながら言った。
 馬には人を癒す力があり、人間が馬と触れ合うことでストレス解消につながるんだそうだ。
「で、それを利用したのがホースセラピー。ドイツとかでは医療保険も適用されるんだって」
 面白そうに語る結那。
 それと、馬に乗るというのは楽なようでいて結構体を使う。大けがをした後や病気になった人のリハビリにも最適なんだそうだ。
「へぇー、なんか面白そうだね」
「興味出た?あさひも一緒の大学に行く!?」
 結那が嬉しそうに顔を輝かせて訊いてくる。
「うーん、もう少し考えてから決めたいかな?」
 わたしの言葉を聞きながら、先輩が口を開いた。
「ところであさひ」
「なんですか?」
「今年の夏、北海道に行ってみないか?」
「え?」
 思考が少しの間止まる。
「北海道・・・ですか?」
「ああ」
 わたしが問うと、狼森先輩は短く答えた。
「七月の初めに、『セレクトセール』っていう競走馬のセリがあるんだ。もし予定が空いてるんだったら、狼森牧場で育成する馬を買いに行こうと思ってるんだが・・・・?」
 サラブレッドを買いに行くんだ・・・・。
「野馬追が七月末だから、まあまあの強行軍になると思うんだけど、移動手段は馬運車をうちで出すから、交通費はかからないと思う。宿泊場所も、うちの新冠分場に部屋を用意できる」
 ああそれと。と狼森先輩はさらに言葉を継いだ。
「今月末にも、北海道で『ジェイエス繁殖馬セール』って言うセリがあるんだ。さすがに今から部員で行くのは無理だけど、買われて入厩してくる馬を世話してみないか?」
 繫殖牝馬のお世話ね・・・・・。
「狼森先輩」
 結那が先輩に尋ねる。
「どんな馬を買ってくる予定なんですか?」
「う~ん、とりあえず、血統とかにはこだわらずに、現役時代に成績を残した馬にするよう言ってる。って父さんからは聞いたね」
 狼森先輩曰く、狼森牧場の経営や馬については父親が中心に進めているらしい。
「そうですね。わたしはいいですよ」
 結那が狼森先輩に言った。
「じゃあ僕も」
 光太も繫殖牝馬のお世話に手を挙げる。
「じゃあ、わたしもいいですか?」
 わたしは狼森先輩に話しかけた。
「もちろん!しっかりとお世話よろしく!」
「はい!」
 そういうわたしたちの目線の先に、石造りの大鳥居が見えてきた。
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