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本編
第十四話 おみくじと角砂糖
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ガランガラン!
鈴緒を鳴らす音が相馬小高神社に響く。
わたしは本殿とその中のご神体に向かってお辞儀を二回すると、柏手を二回打った。
(今年もよろしくお願いします。そして・・・)
そこまで念じたところで、ふと思う。
(何をお願いしよう?)
でも・・・
(まあ、いっか・・・・)
いつもお願いばかりしてるから、たまには挨拶だけでもいいよね。
「あさひはどんなお願いしたの?」
隣で拝み終わった結那が訊いてくる。
「特にないかな。結那は?」
「わたしはね、『鬼鹿毛の種付依頼が増えるように』だよ!」
へぇー・・・ん?
「鬼鹿毛って、種牡馬だったの!?」
確かに、乗馬で去勢されないのは珍しいと思ってたし、馬房に掲げられていた両親の名前を見ても超が付くほどの良血馬だったけど・・・・。
「普通に種牡馬だよ。良血だし、有馬記念とジャパンカップ、日本ダービーを勝ったんだよ!」
嬉しそうに自らの愛馬について語る結那。
「ちなみに、競走馬としての馬名は?」
「普通に鬼鹿毛。今の名前を全部カタカナで書いた『オニカゲ』ね」
もしかして・・・・
「鬼鹿毛って、何年か前のドバイシーマクラシックにも出てなかった?」
「え?何で知ってるの?」
わたしの言葉に、結那が不思議そうに答える。
「テレビで見たの。で、うちの父さんが帰国後最初のレースに十万円躊躇なく突っ込んだ」
「あー」
結那は憐れむような目でわたしを見た。
「鬼鹿毛の飼い主ならわかるでしょ?そのレースで鬼鹿毛はゲート内で立ち上がって大きく出遅れ、やる気をすっかりなくして最下位。お父さんの十万円はパアだった」
「ご愁傷様です」
そんな話をしつつ、わたしたちは参道から外れて境内をぶらぶら歩く。
「そろそろ駐車場に戻る?」
今、鬼鹿毛や天照をはじめとした馬たちは駐車場にいて、狼森先輩と光太、そして友里恵と小梅ちゃんが見ていてくれるはず。
「でもさ、おみくじだけは引いてかない?」
結那がわたしの手をつかみ、おみくじの場所まで連れていく。
「まあ、少しくらいなら・・・・」
境内のあちこちで焚かれている篝火が袖に引火しないように気をつけながら、おみくじが何個も置かれたテントの中に向かう。
「あさひはどれにする?」
「うーん、わたしはこの『天然石おみくじ』にしようかな・・・・?」
「じゃあ、わたしも同じのにする~!」
お互いに浄財を脇の箱に入れると、おみくじの箱に開けられた穴に手を入れた。
ガサガサ・・・・
中に入れられたおみくじの中から、一つを選んで取り出す。
「どれどれ・・・・」
折りたたまれた紙を丁寧に開く。開き終わると同時に、袋に入った石がポロリと出てきた。
「瑪瑙・・・商売繫盛と身体健固ね・・・」
神に書かれた内容に目を通す。
「おっ大吉!すごいじゃん」
結那が横からわたしの結果を覗いて言った。
「ふむふむ。『願事 思い通りになる。待ち人 まだ来ない。失せ物 周囲を今一度探すべし・・・』」
その中の一つに目が吸い寄せられる。
「『病気 重いが注意をすれば治る』・・・・・」
なんか心配になってきた・・・・。
「って結那、二枚も取ってるの?」
「一枚はわたしの。もう一つは鬼鹿毛の分だよ」
誇らしげに無い胸を張る結那。
「ちゃんと浄財は二つ分入れてきたから、安心してね」
「で、結那の結果は?」
わたしは結那の持つ紙を覗き込む。
「中吉だよ。『縁談 叶う。他人の助言を聞くと吉』だって」
「縁談はまだ早くない?」
わたしが言うと、結那は笑いながら返した。
「そうだね。いい縁は鬼鹿毛に来てほしかったよ。いい子を残せるように」
「そうだね。鬼鹿毛の仔は今のところ成績どうなの?」
わたしの質問。
「確か、二年前に狼森牧場のジャンキーナイトに種付けしたのが今年の新馬戦に出るはず。馬名はスピークイージーだったかな・・・・」
「なるほど。場所はどこなの?」
「福島だったと思う。芝の千四百メートルだったかな・・・」
「なるほど。応援には行くの?」
「うん、家族みんなで行くつもりだよ。その日は学校休むから、よろしくね」
ふーん、家族総出で応援か・・・・ん?
「ねえ、結那」
「どうしたの?あさひ」
「その日、鬼鹿毛のお世話はどうするの?」
結那が笑いながら質問に答える。
「その日はみんなにお世話をお願いするつもりだよ」
「あの暴れ馬を?」
わたしが言うと、結那は右手でvサインしながら言った。
「大丈夫。あの子メスなら人馬問わず大好きだから、友里恵とかあさひなら御せると思うよ」
「確かに、よく馬っ気出してるもんね」
まあ、メスが好きそうなのは分かってた。
「あさひとかは美人だから、乗り運動とかもできると思うよ~」
そんなことを話しながら鳥居をくぐり、駐車場の一番車道側の隅に向かう。
「天照をありがとうございます!」
「いいのよいいのよ」
友里恵から天照とルルの手綱を受け取り、近くの柱につないだ。
「どれどれ・・・・・」
結那も鬼鹿毛と摺墨、池月、雪華を近くの柱につなぎ、鬼鹿毛用に引いてきたおみくじを開く。
「おっ!大吉だ!」
「よかったじゃん!なんて書いてある?」
わたしが問うと、結那は鬼鹿毛の鼻面をなでながら読み始めた。
「目立ったところだと、『縁談 良縁に恵まれ、後に名を残す子をなす』だね」
「よかったじゃん!すごい名馬が生まれるかもだね」
「で、不安なのが『健康 重いが気をつければ治る。足に注意すること』」
なんか雲行き怪しくなってない?
「結那、馬で足のケガって、結構な致命傷じゃない?」
「まあ、程度にもよるし、あのゴルシの仔だし・・・」
紙をたたんで懐に入れる結那。
「それに、おみくじに書いてあるからって、絶対にそうなるわけじゃないしね!」
自分に言い聞かせるように言うと、結那は懐から革製の巾着袋を取り出した。
「それは?」
「角砂糖だよ。鬼鹿毛はニンジンが嫌いだからね」
「へぇ」
「どうやら固いものが嫌いみたい。乾草とかも一度水桶にディップしてから食べるんだよ」
結那は手のひらに角砂糖を一粒出すと、鬼鹿毛の口元に差し出した。
「グフフ、グフフ・・・・」
嬉しそうに鼻を鳴らしながら、唇でうまいこと角砂糖を取り込む鬼鹿毛。
「あさひもどう?」
「食べないわよ!」
「違う違う。天照にあげてみたら?」
「じゃあ、もらっておく。ありがとう」
結那が角砂糖を一粒、わたしの手のひらに出す。
「食べる?」
天照に向けて差し出すと、彼女は物欲しそうに前かきをした。
「はい、どうぞ」
手を出した途端、手のひらの角砂糖が消える。
「おお・・・・」
馬っていう生き物は、本当に甘いものが好きだねぇ・・・
「お疲れさん」
「うちの馬ありがとう」
手早く参拝を終えた狼森先輩と光太が帰ってくる。
「どういたしまして」
わたしは池月の手綱を先輩に渡し、水筒に入れた紅茶をすする。
「友里恵と小梅ちゃんはどうしてましたか?」
「社務所のあたりで見かけたぞ。二人でいろいろと買ってたみたいだ」
狼森先輩は、社務所でもらってきた甘酒を飲みながら言った。
「あ~、結構食べますからね。小梅は」
光太が屋台で買ったりんご飴を舐めながら話す。
「毎日茶碗二杯は食いますから」
「へぇ~」
そんな話をしていると、当の本人が帰ってきた。
「・・・ってそんなに食べてるの?」
小梅ちゃんは両手にそれぞれ鮎の塩焼きとりんご飴を持ち、口では今まさにたい焼きを飲み込んでいる最中だった。
「お腹が空いたので!」
たい焼きを飲み込んだ小梅ちゃんが言う。
「朝にご飯食べたばっかりじゃん!」
「屋台料理は別腹ですから!」
小梅ちゃんが結那よりはある胸を張った。
「本当によく食べるんだね・・・・」
小梅ちゃんを連れて回転寿司には行かないと誓ったわたしだった。
鈴緒を鳴らす音が相馬小高神社に響く。
わたしは本殿とその中のご神体に向かってお辞儀を二回すると、柏手を二回打った。
(今年もよろしくお願いします。そして・・・)
そこまで念じたところで、ふと思う。
(何をお願いしよう?)
でも・・・
(まあ、いっか・・・・)
いつもお願いばかりしてるから、たまには挨拶だけでもいいよね。
「あさひはどんなお願いしたの?」
隣で拝み終わった結那が訊いてくる。
「特にないかな。結那は?」
「わたしはね、『鬼鹿毛の種付依頼が増えるように』だよ!」
へぇー・・・ん?
「鬼鹿毛って、種牡馬だったの!?」
確かに、乗馬で去勢されないのは珍しいと思ってたし、馬房に掲げられていた両親の名前を見ても超が付くほどの良血馬だったけど・・・・。
「普通に種牡馬だよ。良血だし、有馬記念とジャパンカップ、日本ダービーを勝ったんだよ!」
嬉しそうに自らの愛馬について語る結那。
「ちなみに、競走馬としての馬名は?」
「普通に鬼鹿毛。今の名前を全部カタカナで書いた『オニカゲ』ね」
もしかして・・・・
「鬼鹿毛って、何年か前のドバイシーマクラシックにも出てなかった?」
「え?何で知ってるの?」
わたしの言葉に、結那が不思議そうに答える。
「テレビで見たの。で、うちの父さんが帰国後最初のレースに十万円躊躇なく突っ込んだ」
「あー」
結那は憐れむような目でわたしを見た。
「鬼鹿毛の飼い主ならわかるでしょ?そのレースで鬼鹿毛はゲート内で立ち上がって大きく出遅れ、やる気をすっかりなくして最下位。お父さんの十万円はパアだった」
「ご愁傷様です」
そんな話をしつつ、わたしたちは参道から外れて境内をぶらぶら歩く。
「そろそろ駐車場に戻る?」
今、鬼鹿毛や天照をはじめとした馬たちは駐車場にいて、狼森先輩と光太、そして友里恵と小梅ちゃんが見ていてくれるはず。
「でもさ、おみくじだけは引いてかない?」
結那がわたしの手をつかみ、おみくじの場所まで連れていく。
「まあ、少しくらいなら・・・・」
境内のあちこちで焚かれている篝火が袖に引火しないように気をつけながら、おみくじが何個も置かれたテントの中に向かう。
「あさひはどれにする?」
「うーん、わたしはこの『天然石おみくじ』にしようかな・・・・?」
「じゃあ、わたしも同じのにする~!」
お互いに浄財を脇の箱に入れると、おみくじの箱に開けられた穴に手を入れた。
ガサガサ・・・・
中に入れられたおみくじの中から、一つを選んで取り出す。
「どれどれ・・・・」
折りたたまれた紙を丁寧に開く。開き終わると同時に、袋に入った石がポロリと出てきた。
「瑪瑙・・・商売繫盛と身体健固ね・・・」
神に書かれた内容に目を通す。
「おっ大吉!すごいじゃん」
結那が横からわたしの結果を覗いて言った。
「ふむふむ。『願事 思い通りになる。待ち人 まだ来ない。失せ物 周囲を今一度探すべし・・・』」
その中の一つに目が吸い寄せられる。
「『病気 重いが注意をすれば治る』・・・・・」
なんか心配になってきた・・・・。
「って結那、二枚も取ってるの?」
「一枚はわたしの。もう一つは鬼鹿毛の分だよ」
誇らしげに無い胸を張る結那。
「ちゃんと浄財は二つ分入れてきたから、安心してね」
「で、結那の結果は?」
わたしは結那の持つ紙を覗き込む。
「中吉だよ。『縁談 叶う。他人の助言を聞くと吉』だって」
「縁談はまだ早くない?」
わたしが言うと、結那は笑いながら返した。
「そうだね。いい縁は鬼鹿毛に来てほしかったよ。いい子を残せるように」
「そうだね。鬼鹿毛の仔は今のところ成績どうなの?」
わたしの質問。
「確か、二年前に狼森牧場のジャンキーナイトに種付けしたのが今年の新馬戦に出るはず。馬名はスピークイージーだったかな・・・・」
「なるほど。場所はどこなの?」
「福島だったと思う。芝の千四百メートルだったかな・・・」
「なるほど。応援には行くの?」
「うん、家族みんなで行くつもりだよ。その日は学校休むから、よろしくね」
ふーん、家族総出で応援か・・・・ん?
「ねえ、結那」
「どうしたの?あさひ」
「その日、鬼鹿毛のお世話はどうするの?」
結那が笑いながら質問に答える。
「その日はみんなにお世話をお願いするつもりだよ」
「あの暴れ馬を?」
わたしが言うと、結那は右手でvサインしながら言った。
「大丈夫。あの子メスなら人馬問わず大好きだから、友里恵とかあさひなら御せると思うよ」
「確かに、よく馬っ気出してるもんね」
まあ、メスが好きそうなのは分かってた。
「あさひとかは美人だから、乗り運動とかもできると思うよ~」
そんなことを話しながら鳥居をくぐり、駐車場の一番車道側の隅に向かう。
「天照をありがとうございます!」
「いいのよいいのよ」
友里恵から天照とルルの手綱を受け取り、近くの柱につないだ。
「どれどれ・・・・・」
結那も鬼鹿毛と摺墨、池月、雪華を近くの柱につなぎ、鬼鹿毛用に引いてきたおみくじを開く。
「おっ!大吉だ!」
「よかったじゃん!なんて書いてある?」
わたしが問うと、結那は鬼鹿毛の鼻面をなでながら読み始めた。
「目立ったところだと、『縁談 良縁に恵まれ、後に名を残す子をなす』だね」
「よかったじゃん!すごい名馬が生まれるかもだね」
「で、不安なのが『健康 重いが気をつければ治る。足に注意すること』」
なんか雲行き怪しくなってない?
「結那、馬で足のケガって、結構な致命傷じゃない?」
「まあ、程度にもよるし、あのゴルシの仔だし・・・」
紙をたたんで懐に入れる結那。
「それに、おみくじに書いてあるからって、絶対にそうなるわけじゃないしね!」
自分に言い聞かせるように言うと、結那は懐から革製の巾着袋を取り出した。
「それは?」
「角砂糖だよ。鬼鹿毛はニンジンが嫌いだからね」
「へぇ」
「どうやら固いものが嫌いみたい。乾草とかも一度水桶にディップしてから食べるんだよ」
結那は手のひらに角砂糖を一粒出すと、鬼鹿毛の口元に差し出した。
「グフフ、グフフ・・・・」
嬉しそうに鼻を鳴らしながら、唇でうまいこと角砂糖を取り込む鬼鹿毛。
「あさひもどう?」
「食べないわよ!」
「違う違う。天照にあげてみたら?」
「じゃあ、もらっておく。ありがとう」
結那が角砂糖を一粒、わたしの手のひらに出す。
「食べる?」
天照に向けて差し出すと、彼女は物欲しそうに前かきをした。
「はい、どうぞ」
手を出した途端、手のひらの角砂糖が消える。
「おお・・・・」
馬っていう生き物は、本当に甘いものが好きだねぇ・・・
「お疲れさん」
「うちの馬ありがとう」
手早く参拝を終えた狼森先輩と光太が帰ってくる。
「どういたしまして」
わたしは池月の手綱を先輩に渡し、水筒に入れた紅茶をすする。
「友里恵と小梅ちゃんはどうしてましたか?」
「社務所のあたりで見かけたぞ。二人でいろいろと買ってたみたいだ」
狼森先輩は、社務所でもらってきた甘酒を飲みながら言った。
「あ~、結構食べますからね。小梅は」
光太が屋台で買ったりんご飴を舐めながら話す。
「毎日茶碗二杯は食いますから」
「へぇ~」
そんな話をしていると、当の本人が帰ってきた。
「・・・ってそんなに食べてるの?」
小梅ちゃんは両手にそれぞれ鮎の塩焼きとりんご飴を持ち、口では今まさにたい焼きを飲み込んでいる最中だった。
「お腹が空いたので!」
たい焼きを飲み込んだ小梅ちゃんが言う。
「朝にご飯食べたばっかりじゃん!」
「屋台料理は別腹ですから!」
小梅ちゃんが結那よりはある胸を張った。
「本当によく食べるんだね・・・・」
小梅ちゃんを連れて回転寿司には行かないと誓ったわたしだった。
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