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エキドナの仕返し
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「はい、これで魔法士ギルドに登録できました。エルク、案内ありがとうね」
結構な時間を費やしてしまったが、無事に真司の登録作業は済んだ。
その間に受付のお姉さんの腹筋を二回ほど破壊したが……
「さー、かえろかえろ性悪幽霊が居ない地へ、二度と僕ここに来ないからねっ!!」
エルクに散々いじり倒されたエキドナは大変ご立腹である。
くすくすと笑う受付の女性と、今にも決壊しそうな真司の顔面を目撃するたびに彼女の血管がどこかの白髪剣士そっくりになっていた。
「じゃあね、エルク……また来週にでも来るよ」
魔法士ギルドで制服となっている黒のローブや階級章が出来上がるまで特にギルドに来る用は無い。
そしてその間にも真司にはやることができたのでしばらく彼とは会えないのだ。
「ああ、そこの鈍感なおねーさんにもよろしく言っておいて」
「あはは……機嫌が治ったらね」
警戒する猫のごとく、しっぽでもあればこれ以上ないくらい逆立ってる事であろうエキドナは真司の首根っこをつかんでずりずりと出口に向かう。
「まったく、非常識だよ、不合理だよ、ありえないよ……大気すら揺らがせずに移動できるなんて、これだから幽霊なんて非科学的なのは嫌いなんだ。それが実在してるなんてもう絶望しかないよ」
「そんなに目くじら立てなくてもいいじゃん。エキドナ姉とエルクのコントは面白かったよ?」
途中から悪ノリの産物ではあったが、エキドナ自身真司たちの視線からエルクがしょうもない事をしているのを察してそのまま好きにさせていた。
「僕だけが楽しめないことだけを除けばうれしいセリフだよっ!! 絶対パンツみられた……」
「何にもない所蹴りまくってた時に盛大に見えてたよ、ピンク色のパンツ」
「よし、処そう……真司、短い付き合いだったね」
「スマホでもあれば投稿して人気者になれるだろうなぁ……昇天!! とか」
「それは僕も見たかった……」
あれこれと話しながら二人でギルドを出た時にはすでに日が傾いていて、少し急いだくらいでは宿につく頃は真っ暗になっているのは容易に予想ができる。
おそらくこの分だと弥生や文香の方が早く戻ってきているだろう。
「ちょっと遊びすぎちゃったかな……晩御飯食べちゃう?」
「そうだねぇ、でも待ってたりしたら可哀そうだねぇ……どうしたもんかな」
顎に手を当ててエキドナが何かいい方法は無いかと考え込んでいると一瞬影が差した。
ふと気になりそのまま顔を上げると宵の口に染まる空に一羽の鳥が舞っている。
エキドナの顔がいかにも悪いこと考えていますという風にゆがむ。
ちなみに妹はこの笑顔の時、問答無用で逃げる。もう絶対ろくなことが起きないと知っているから。
しかし、ここには打ち解けたとはいえエキドナの事を深く知らない真司。
ついうっかりその笑顔を見て良い案でも浮かんだのかと声をかけてしまった。
かけてしまったのだ。
さっきのエルクによるフラストレーションを晴らして、なおかつ真司へのささやかな復讐を思いついてしまった悪魔に……
「真司、高い所は平気かな?」
気持ち悪いほどの猫なで声に、ようやく真司が気付く。
あ、これダメなパターンだ、と。
しかし、覆水盆に返らず……瞳孔が開きすぎてカメラが確認できそうなエキドナにロックオンされてしまった。
何をするのかはわからないが危険はないだろうと真司はこくこくと頷く……
「じゃあさぁ、ショートカットしようか……安心してよ。僕の眼は闇夜だろうが昼間と変わらないからさ」
むんず!! と真司を問答無用に抱き上げて放り投げる。びっくりして悲鳴を上げた真司を危なげなく背負って……エキドナは跳躍した。
「システムを通常から戦闘へ切り替え、全力でいっくよー!!」
ダン!! ダン!! ダダン!!
三角跳びの要領で民家の壁を蹴りあがる、急加速と方向転換、慣性の法則のコンボで真司の視界と三半規管がミキサーに放り込まれたようにシェイクされる。
それなのに気絶するほどでもないという、エキドナの絶妙すぎる力加減で宙に躍り出た。
ほんの一瞬、重力と上昇する力の均衡が取れた時。
藍色に染まる雲に重なる半月が切り取られた絵画のように二人の瞳に映る……真司の記憶はここまでしか遡れなかった。
当然ではあるが人間を超えるエキドナの戦闘機動はその加速度も14歳の少年には酷すぎて……屋根を水平に疾走し始めるとあっという間に意識を放り出してしまう。
まあ、おかげで晩御飯には二人で間に合ったものの……ぐったりとしてよだれを垂らしてぴくぴくと痙攣する弟を見て弥生が絶叫、そのままエキドナに説教を始めてしまったのでかなり遅い時間に食べることになってしまったのは彼女の計算外だった。
その時の弥生の剣幕はエキドナの妹と同じくらい怖く、弥生と一緒の時には絶対に悪ふざけは控えようと心に誓うエキドナ……文香が弥生の真似をして腕を組んで仁王立ちしているのが可愛いだけなのが救いである。
こうして、弥生、真司、文香の3きょうだいはここ大陸最大の国家、ウェイランドで居場所を見つけた……次回弥生はクビになるのだが。それはまた別の話だ。
結構な時間を費やしてしまったが、無事に真司の登録作業は済んだ。
その間に受付のお姉さんの腹筋を二回ほど破壊したが……
「さー、かえろかえろ性悪幽霊が居ない地へ、二度と僕ここに来ないからねっ!!」
エルクに散々いじり倒されたエキドナは大変ご立腹である。
くすくすと笑う受付の女性と、今にも決壊しそうな真司の顔面を目撃するたびに彼女の血管がどこかの白髪剣士そっくりになっていた。
「じゃあね、エルク……また来週にでも来るよ」
魔法士ギルドで制服となっている黒のローブや階級章が出来上がるまで特にギルドに来る用は無い。
そしてその間にも真司にはやることができたのでしばらく彼とは会えないのだ。
「ああ、そこの鈍感なおねーさんにもよろしく言っておいて」
「あはは……機嫌が治ったらね」
警戒する猫のごとく、しっぽでもあればこれ以上ないくらい逆立ってる事であろうエキドナは真司の首根っこをつかんでずりずりと出口に向かう。
「まったく、非常識だよ、不合理だよ、ありえないよ……大気すら揺らがせずに移動できるなんて、これだから幽霊なんて非科学的なのは嫌いなんだ。それが実在してるなんてもう絶望しかないよ」
「そんなに目くじら立てなくてもいいじゃん。エキドナ姉とエルクのコントは面白かったよ?」
途中から悪ノリの産物ではあったが、エキドナ自身真司たちの視線からエルクがしょうもない事をしているのを察してそのまま好きにさせていた。
「僕だけが楽しめないことだけを除けばうれしいセリフだよっ!! 絶対パンツみられた……」
「何にもない所蹴りまくってた時に盛大に見えてたよ、ピンク色のパンツ」
「よし、処そう……真司、短い付き合いだったね」
「スマホでもあれば投稿して人気者になれるだろうなぁ……昇天!! とか」
「それは僕も見たかった……」
あれこれと話しながら二人でギルドを出た時にはすでに日が傾いていて、少し急いだくらいでは宿につく頃は真っ暗になっているのは容易に予想ができる。
おそらくこの分だと弥生や文香の方が早く戻ってきているだろう。
「ちょっと遊びすぎちゃったかな……晩御飯食べちゃう?」
「そうだねぇ、でも待ってたりしたら可哀そうだねぇ……どうしたもんかな」
顎に手を当ててエキドナが何かいい方法は無いかと考え込んでいると一瞬影が差した。
ふと気になりそのまま顔を上げると宵の口に染まる空に一羽の鳥が舞っている。
エキドナの顔がいかにも悪いこと考えていますという風にゆがむ。
ちなみに妹はこの笑顔の時、問答無用で逃げる。もう絶対ろくなことが起きないと知っているから。
しかし、ここには打ち解けたとはいえエキドナの事を深く知らない真司。
ついうっかりその笑顔を見て良い案でも浮かんだのかと声をかけてしまった。
かけてしまったのだ。
さっきのエルクによるフラストレーションを晴らして、なおかつ真司へのささやかな復讐を思いついてしまった悪魔に……
「真司、高い所は平気かな?」
気持ち悪いほどの猫なで声に、ようやく真司が気付く。
あ、これダメなパターンだ、と。
しかし、覆水盆に返らず……瞳孔が開きすぎてカメラが確認できそうなエキドナにロックオンされてしまった。
何をするのかはわからないが危険はないだろうと真司はこくこくと頷く……
「じゃあさぁ、ショートカットしようか……安心してよ。僕の眼は闇夜だろうが昼間と変わらないからさ」
むんず!! と真司を問答無用に抱き上げて放り投げる。びっくりして悲鳴を上げた真司を危なげなく背負って……エキドナは跳躍した。
「システムを通常から戦闘へ切り替え、全力でいっくよー!!」
ダン!! ダン!! ダダン!!
三角跳びの要領で民家の壁を蹴りあがる、急加速と方向転換、慣性の法則のコンボで真司の視界と三半規管がミキサーに放り込まれたようにシェイクされる。
それなのに気絶するほどでもないという、エキドナの絶妙すぎる力加減で宙に躍り出た。
ほんの一瞬、重力と上昇する力の均衡が取れた時。
藍色に染まる雲に重なる半月が切り取られた絵画のように二人の瞳に映る……真司の記憶はここまでしか遡れなかった。
当然ではあるが人間を超えるエキドナの戦闘機動はその加速度も14歳の少年には酷すぎて……屋根を水平に疾走し始めるとあっという間に意識を放り出してしまう。
まあ、おかげで晩御飯には二人で間に合ったものの……ぐったりとしてよだれを垂らしてぴくぴくと痙攣する弟を見て弥生が絶叫、そのままエキドナに説教を始めてしまったのでかなり遅い時間に食べることになってしまったのは彼女の計算外だった。
その時の弥生の剣幕はエキドナの妹と同じくらい怖く、弥生と一緒の時には絶対に悪ふざけは控えようと心に誓うエキドナ……文香が弥生の真似をして腕を組んで仁王立ちしているのが可愛いだけなのが救いである。
こうして、弥生、真司、文香の3きょうだいはここ大陸最大の国家、ウェイランドで居場所を見つけた……次回弥生はクビになるのだが。それはまた別の話だ。
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