恋愛経験ゼロの恋愛マスター

あさ

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第2章

初めて彼に出会った日

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 私には好きな人がいる。
 神坂 登君……
 名前や顔を思い浮かべるだけで胸がポカポカする。
 だけど私達の関係がこれ以上進展しないことにひどく胸が引き裂かれそうになる。
 そんな彼と出会ったのは─────────────













 私が大学生の頃、思い描いていた大学生活とのギャップや友人関係とのトラブル。
 極めつけはその頃付き合っていた彼氏にまで二股をかけられていたと知り、私は一人公園のベンチで座っていた。
 その時中学生くらいの男の子が私に話かけてきたのだ。
 「どうしたんですか?」 
 「…………」
 私はなんとか声に出そうとするがその時にはもう冷たい涙が頬をつたっていた。
 「悲しいことがあったんですね。」
 私はこくりと首を縦にふる。
 「もしかして彼氏さんに二股かけられちゃったとか?」
 「えっ!?」
 思わず声に出してしまった。
 本当はこの子は全て知っていてそれで何か企んでいるんじゃないか?
 そう思い怪訝そうな目線をやると
 「あはは、冗談ですよ!そんな怖い顔しないでください。第一こんな綺麗な女性のこと振る男なんていないでしょ。」
 女性を口説く時に良く使うセリフをあまりに真剣に言うものだから私は
 「ふふっ。」
 少し笑ってしまった。
 それが彼の気に触ってしまったのだろうか。
 「な、なんで笑うんですか!」
 そう言いながら頬を膨らませ怒る彼は真剣そのもので
 「ごめんね。でもありがと。」
 感謝の言葉に満足したのか彼はニコニコしながら
 「笑っているほうが綺麗ですよ。」
 「ぷっ。それって私のこと口説いてる?」 
 吹き出しながら言うと、彼はすこしむっとしたように
 「もう、帰ります!」
 と言うと私に背を向け歩いて行ってしまった。
 私はまだ彼と話していたくて咄嗟に
 「ねぇ!名前は?」
 少し距離があったので大きめな声で問いかける。
 そうすると彼は、体を少し回転させ
 「教えません!」
 ぶっきらぼうにそう言った。
 どうやら本当にすねてしまったらしい。
 だけど私は彼の名前を知っている。
 なぜなら彼が体を回転させた時、公園の蛍光灯が彼の名札を照らしだしていたから。
 神坂 登 ───────────────────
 私を励まそうと必死に言葉を紡いでくれた可愛い男の子。
 私は絶対忘れない ───────────────













 彼が入学してきた時は本当にびっくりした。
 また会えたという喜びと私のこと覚えてるかな?という一抹の不安。
 結論から言うと彼は全く私のことを覚えていなかった。
 廊下ですれ違っても、私には一切気づかない。
 でも考えてみればそうだ。
 あの時私達は暗闇の中で互いに名乗りもせず別れたのだから。
 だからこそ彼が高校二年生の時、クラス担任を受け持つことができて本当に嬉しかった。
 今度はしっかり名前を名乗ろう。
 彼がいる教室のドアを開け、教卓の後ろに立ち、黒板にでかでかと私の名前を書き
 「今日から君たちの担任を受け持つことになった川村 奏(かわむら かなで)だ!よろしくぅぅ!」
 今度こそ彼は名前を覚えてくれただろうか。
 ふと彼を見ると目が合い、彼は口パクで
 「よろしく川村先生。」
 確かにそう言った。
 彼は覚えていてくれたのだろうか。そう受け取って良いのだろうか。
 私は試すように、口パクで
 「よろしく登君。」
 彼はなぜ俺の名前を知ってるの?とでも言いたげな表情になるが、すぐに何か納得したように頷いて微笑んでくれた。
 ドキリとした胸を押さえつけるように手を当てて誰にも聞こえない声で
 「好きだよ……」
 告白した。
 届かない思いを結ばれない気持ちを口に出すだけで少しだけ、ほんの少しだけ満たされたような気持ちになった。


                    つづく
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