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第五章 亡霊は魔王の城に突入する。
第五十一話 揺れる大地
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紅く染まる大地に、巨大な影が落ちている。
地形に合わせて、波打つように地を這う影。
その上空には、巨大な黒い竜の姿がある。
竜が膜質の翼をはためかせる度に、地表では旋毛風が吹き荒れ、荒れた大地に疎らに生えた木々が、倒れんばかりに軋みを上げる。
翼を広げた全幅は数キロにも及ぶ。まさに魔獣の王者と呼ぶに相応しい、古竜の威容であった。
そんな巨大な魔獣の背で、赤いイブニングドレスの女――アリアが、僅かに首を伸ばして、古竜の顔の方を覗き込みながら、不満げな声を上げた。
「ちょっとぉ、時間配分どうなってんのよ? このまま行ったら、陽が落ちきった頃に、魔王の城に着いちゃうじゃないの!」
――そうなのか?
「そうなのかって……。もう地平線の方に見えてるでしょうが。あの突起みたいなのが魔王の城よ。アンタ、まさかとは思うけど、夜襲掛けようってんじゃないでしょうね」
――潜入するなら暗い方が良いのではないのか?
脳裏に響くレイの声に、アリアは呆れ混じりの溜め息を吐く。
「アンタ、こんなデカい図体して、よく潜入とか言えたもんね。どう考えてもバレバレじゃないのよ」
――そんなことを言われてもだな……。時間配分も何も……私は、魔王の城がどこにあるのかも知らなかったんだぞ?
「っていうか! そもそも、アタシしか魔王の城の場所知らないってのが、もうおかしいのよ。アンタ達だけで、どうやって魔王の城まで辿り着くつもりだったのよ!」
――当然、ミーシャが知っているものだと……。
古竜が歯切れ悪く口籠ると、彼の声が聞こえているもう一人の少女が声を荒げた。
「あぁん!! なによ! 私の所為にするつもり? アンタも古竜だったら、それぐらいどうにかしなさいよ!」
――それ……古竜かどうかは、何も関係ないのではないか?
「うるさい! この! なんちゃってドラゴン! 女の子のかわいい我儘を受け止めるぐらいの甲斐性持ちなさいよ」
もはや、理屈など通用しない。
しかも、自分で『かわいい我儘』などと、我儘であることを自覚してるあたり、尚更性質が悪いとしか言いようが無い。
エルフの少女による、男性の甲斐性についての過剰なまでの拡大解釈がなされているそのすぐ傍で、赤毛の少女がなぜか誇らしげに胸を反らした。
「ふっふーん、ニコは魔王の城の場所、知ってたにゃ! だって、行った事あるんだにゃ!」
だが、
「でも、あなた、さっき全然違う方向指さしてましたよね?」
と、物騒な鉄槌を背負った女神官――ドナがニコへと、冷ややかな目を向ける。
「にゃ!? ちょ、ちょ、ちょっと勘違いしただけにゃ!」
明らかに目を泳がせるニコに、ドナは小さく肩を竦めると、アリアの方へと視線を向けた。
「で、結局、アナタはどうした方がいいと思うのです?」
「そうねぇ……魔物の大半は夜の方が活発化してるんだもの、夜襲は避けた方がいいわ。でも、野宿しようにも、この辺りはもう魔王の勢力圏だし……一旦引き返して、早朝に襲撃ってのが良いんじゃない?」
だが、『早朝』という単語を聞いた途端、
「「うぇぇぇ…………」」
ミーシャとニコが、げんなりとした表情になった。
さもありなん。
この二人は、非常に寝起きが悪い。
ミーシャの寝起きも酷いが、ニコに至っては、ほぼ毎朝二日酔い。昼過ぎまでは、ほぼナメクジのようである。
「アンタら……ねぇ……」
アリアが思わずこめかみをヒクつかせると、ドナがアリアの肩をちょんちょんとつついた。
「ん? なーに?」
「今、この辺りは魔王の勢力圏って言いましたよね?」
「ええ、言ったわよ」
すると、ドナは怪訝そうな顔で首を捻る。
「先程から下を眺めてたんですけど、魔物を全然見かけないんです。そういうものなのですか?」
竜の首の辺りから身を乗り出す様にして、ドナが下を指さす。
「それは……おかしいわね」
真下にはゴツゴツとした岩の大地。そこには地面を斧で断ち割ったような渓谷が見える。
魔王の城への一本道であるこの渓谷には、コカトリスやバジリスクといった魔獣の類が、大量に生息していた筈だ。
アリアが思わず眉根を寄せたその瞬間――
唐突に、低い唸り声の様な轟音が響き渡った。
「にゃ!? にゃにゃにゃ!?」
人一倍、音に敏感なニコが思わず飛び上がる。
それは激しい地鳴り。
粉を吹くように土煙が立ち昇り、夕陽に照らされた赤い大地が激しく波打って、荒れ狂う波濤のようにうねっている。そして、眼下に見える渓谷のいたる所で、次々と地滑りが始まった。
「なんです、これは!?」
ドナが腰を落として、身構える。
警戒心も露な、その視線の先には、振動にブレる地平線が映っていた。
「お、落ち着きなさいってば、ただの地震じゃないの」
そう言いながら、アリアが震える手で古竜の背びれを掴んだその時。
突然、爆発音にも似た轟音を響かせて、竜の真下で大地にひび割れが走った。
「みんな! 気をつけて! 何か来る!」
膨大な魔力を感じとったミーシャが、声を上げるのとほぼ同時に、蜘蛛の巣の様な地割れ、その中央部がボコッ! と、音を立てて隆起した。
大地を突き破って、何かが勢いよく突き出してくる。
それは巨大な拳。あまりにも巨大な石の拳。それが真下から一気に、古竜のどてっ腹を突き上げたのだ。
腹から背中へと、突き抜ける衝撃。
グォオオオオオオオオオオオッ!!!
苦しげな咆哮とともに、古竜の巨体が、宙空でくの字に折れ曲がる。
「きゃあああああああああ!」
狂暴な上向きの衝撃に突き上げられて、背の上の四人は、為す術もなく宙空へと投げ出された。
石礫舞い散る茜空に、投げ出される四人。
アリアは宙に放り出されると同時に、蜘蛛女へと姿を変えると、その背中から一気に白い糸を放出する。
空中に白い花が咲いたかのような光景。それは糸を空中に揺蕩わせて風に乗る、蜘蛛特有の飛行手段であった。
態勢を立て直したアリアは、周囲へと視線を走らせる。
斜め上の方に、竜巻に巻かれて宙を舞うミーシャの姿が見えた。
「あの娘は大丈夫そうね。……問題は」
「きゃあああああああ!」
「にゃぁああああああああ!」
糸を展開したアリアよりも、ずっと高くに投げ出されたドナとニコ。
為すすべもなく落下していく二人の姿を見つけて、アリアは舌打ちする。
「ほんっとにもう!」
魔物の天敵とも言える神官と勇者の仲間。
だが、今となっては放っておく訳にもいかない。
一応、仲間だという意識もない訳ではない。
アリアが白い糸を放つと、頭から落下していく二人の脚に、それが絡みついた。
逆さ吊りでぶらぶらと振り子のように揺れる二人。
ショートパンツのニコはともかく、ドナは大きく捲り上がりそうになる修道衣の裾を押さえながら、安堵の息を吐いた。
「た、助かりました……」
「にゃー……ありがとにゃ」
だが、
「……まだ、お礼を言われるのは、ちょっと早いみたいよ」
緊張感を孕んだその物言いに、アリアの視線を追って二人が振り返ると、丁度、古竜の腹を突き上げた巨大な拳が、再び地面へと沈み込んでいくところ。
支えを失った古竜の巨体がぐらりと傾き、凄まじい風音を響かせながら、大地へと墜ちて行く。
地軸を揺らすような轟音を立てて、渓谷を押し潰す古竜の巨体。
砂煙が入道雲のように立ち上り、衝撃波が空気をビリビリと震わせた。
宙空のアリア達は、
「きゃあああああああ!」
「にゃぁああああああああ!」
風圧に抗う事も出来ずに、まるで回転草の様にくるくると回転しながら、風に巻かれて遠くへと流されていく。
やがて彼女達の姿が見えなくなると、そこに、舞い上がった石礫が長雨のようにパラパラと降り注いだ。
◇ ◇ ◇
一方、ミーシャは更に上昇して宙に舞い上がってくる砂煙を避けた。
そして、大地に横たわる古竜の巨体を見下ろして、声を張り上げる。
「レイ!!」
――…………大丈夫だ。
多少呻く様な調子ではあったが、ミーシャの脳裏にレイの声が響いてきて、彼女はホッと胸を撫でおろす。
――他の皆は?
「蜘蛛女達は魔王の城の方へ飛ばされていったわよ。でも、あの様子なら多分、ちゃんと着地できると思う」
――そうか。
「今のは何だったの?」
―-わからない。
実際、あまりにも突然のことで、レイには自分の腹を突き上げた物が、どんな形をしていたのかも分かっていない。
だが、ミーシャにも、レイにも、これで終わりでは無いことぐらいは分かる。
未だに、大地には凄まじい魔力が渦巻いている。
ミーシャは、それが横たわる古竜の背後へと寄り集まっていくのを感じて、声を上げた。
「レイ! 早く起きて! また来るわ!」
途端に、古竜の背後で、再び地面が隆起し始めた。
凄まじい振動。
やがて天を衝くほどの巨体が、大地を突き破ってせり上がってくる。
「なに……これ……」
その巨大さに、ミーシャは思わず言葉を失う。
地の底から這いだしたそれは、巨大な土人形。
両の腕ばかりが長く足は異常に短い、類人猿のような造形。
土のブロックを幾千も積み上げたかのような、歪な人型であった。
「……ゴーレム、なの?」
それにしては、あまりにも巨大すぎる。
どれだけの魔力があれば、あれだけの巨体を維持できるというのか。
呆然とするミーシャの視界の中で、巨大なゴーレムは両手を掲げると、ズシン! ズシン! と腹に響く様な足音を立てながら、古竜の方へと歩み寄り始めた。
一方の古竜は、短い手で宙を掻きながら、首を支えにして、ゆっくりと身を起こす。
ミーシャの目にも、ダメージの大きさがありありと見て取れる痛ましい姿。
最初の一撃を喰らった腹の辺りの皮膚が破れて、痛々しくも赤黒い肉が露出していた。
――ミーシャ! 早くここを離れろ。巻き込まれるぞ。キミが離れたらブレスで一気に方を付ける。
ミーシャは、ハタと我に返ると大きく頷いた。
「絶対、絶対、負けちゃダメなんだからね!」
――心配するな。
古竜は、重厚な足音を立てながら迫ってくる巨大なゴーレムを見据えて、咆哮を上げた。
地形に合わせて、波打つように地を這う影。
その上空には、巨大な黒い竜の姿がある。
竜が膜質の翼をはためかせる度に、地表では旋毛風が吹き荒れ、荒れた大地に疎らに生えた木々が、倒れんばかりに軋みを上げる。
翼を広げた全幅は数キロにも及ぶ。まさに魔獣の王者と呼ぶに相応しい、古竜の威容であった。
そんな巨大な魔獣の背で、赤いイブニングドレスの女――アリアが、僅かに首を伸ばして、古竜の顔の方を覗き込みながら、不満げな声を上げた。
「ちょっとぉ、時間配分どうなってんのよ? このまま行ったら、陽が落ちきった頃に、魔王の城に着いちゃうじゃないの!」
――そうなのか?
「そうなのかって……。もう地平線の方に見えてるでしょうが。あの突起みたいなのが魔王の城よ。アンタ、まさかとは思うけど、夜襲掛けようってんじゃないでしょうね」
――潜入するなら暗い方が良いのではないのか?
脳裏に響くレイの声に、アリアは呆れ混じりの溜め息を吐く。
「アンタ、こんなデカい図体して、よく潜入とか言えたもんね。どう考えてもバレバレじゃないのよ」
――そんなことを言われてもだな……。時間配分も何も……私は、魔王の城がどこにあるのかも知らなかったんだぞ?
「っていうか! そもそも、アタシしか魔王の城の場所知らないってのが、もうおかしいのよ。アンタ達だけで、どうやって魔王の城まで辿り着くつもりだったのよ!」
――当然、ミーシャが知っているものだと……。
古竜が歯切れ悪く口籠ると、彼の声が聞こえているもう一人の少女が声を荒げた。
「あぁん!! なによ! 私の所為にするつもり? アンタも古竜だったら、それぐらいどうにかしなさいよ!」
――それ……古竜かどうかは、何も関係ないのではないか?
「うるさい! この! なんちゃってドラゴン! 女の子のかわいい我儘を受け止めるぐらいの甲斐性持ちなさいよ」
もはや、理屈など通用しない。
しかも、自分で『かわいい我儘』などと、我儘であることを自覚してるあたり、尚更性質が悪いとしか言いようが無い。
エルフの少女による、男性の甲斐性についての過剰なまでの拡大解釈がなされているそのすぐ傍で、赤毛の少女がなぜか誇らしげに胸を反らした。
「ふっふーん、ニコは魔王の城の場所、知ってたにゃ! だって、行った事あるんだにゃ!」
だが、
「でも、あなた、さっき全然違う方向指さしてましたよね?」
と、物騒な鉄槌を背負った女神官――ドナがニコへと、冷ややかな目を向ける。
「にゃ!? ちょ、ちょ、ちょっと勘違いしただけにゃ!」
明らかに目を泳がせるニコに、ドナは小さく肩を竦めると、アリアの方へと視線を向けた。
「で、結局、アナタはどうした方がいいと思うのです?」
「そうねぇ……魔物の大半は夜の方が活発化してるんだもの、夜襲は避けた方がいいわ。でも、野宿しようにも、この辺りはもう魔王の勢力圏だし……一旦引き返して、早朝に襲撃ってのが良いんじゃない?」
だが、『早朝』という単語を聞いた途端、
「「うぇぇぇ…………」」
ミーシャとニコが、げんなりとした表情になった。
さもありなん。
この二人は、非常に寝起きが悪い。
ミーシャの寝起きも酷いが、ニコに至っては、ほぼ毎朝二日酔い。昼過ぎまでは、ほぼナメクジのようである。
「アンタら……ねぇ……」
アリアが思わずこめかみをヒクつかせると、ドナがアリアの肩をちょんちょんとつついた。
「ん? なーに?」
「今、この辺りは魔王の勢力圏って言いましたよね?」
「ええ、言ったわよ」
すると、ドナは怪訝そうな顔で首を捻る。
「先程から下を眺めてたんですけど、魔物を全然見かけないんです。そういうものなのですか?」
竜の首の辺りから身を乗り出す様にして、ドナが下を指さす。
「それは……おかしいわね」
真下にはゴツゴツとした岩の大地。そこには地面を斧で断ち割ったような渓谷が見える。
魔王の城への一本道であるこの渓谷には、コカトリスやバジリスクといった魔獣の類が、大量に生息していた筈だ。
アリアが思わず眉根を寄せたその瞬間――
唐突に、低い唸り声の様な轟音が響き渡った。
「にゃ!? にゃにゃにゃ!?」
人一倍、音に敏感なニコが思わず飛び上がる。
それは激しい地鳴り。
粉を吹くように土煙が立ち昇り、夕陽に照らされた赤い大地が激しく波打って、荒れ狂う波濤のようにうねっている。そして、眼下に見える渓谷のいたる所で、次々と地滑りが始まった。
「なんです、これは!?」
ドナが腰を落として、身構える。
警戒心も露な、その視線の先には、振動にブレる地平線が映っていた。
「お、落ち着きなさいってば、ただの地震じゃないの」
そう言いながら、アリアが震える手で古竜の背びれを掴んだその時。
突然、爆発音にも似た轟音を響かせて、竜の真下で大地にひび割れが走った。
「みんな! 気をつけて! 何か来る!」
膨大な魔力を感じとったミーシャが、声を上げるのとほぼ同時に、蜘蛛の巣の様な地割れ、その中央部がボコッ! と、音を立てて隆起した。
大地を突き破って、何かが勢いよく突き出してくる。
それは巨大な拳。あまりにも巨大な石の拳。それが真下から一気に、古竜のどてっ腹を突き上げたのだ。
腹から背中へと、突き抜ける衝撃。
グォオオオオオオオオオオオッ!!!
苦しげな咆哮とともに、古竜の巨体が、宙空でくの字に折れ曲がる。
「きゃあああああああああ!」
狂暴な上向きの衝撃に突き上げられて、背の上の四人は、為す術もなく宙空へと投げ出された。
石礫舞い散る茜空に、投げ出される四人。
アリアは宙に放り出されると同時に、蜘蛛女へと姿を変えると、その背中から一気に白い糸を放出する。
空中に白い花が咲いたかのような光景。それは糸を空中に揺蕩わせて風に乗る、蜘蛛特有の飛行手段であった。
態勢を立て直したアリアは、周囲へと視線を走らせる。
斜め上の方に、竜巻に巻かれて宙を舞うミーシャの姿が見えた。
「あの娘は大丈夫そうね。……問題は」
「きゃあああああああ!」
「にゃぁああああああああ!」
糸を展開したアリアよりも、ずっと高くに投げ出されたドナとニコ。
為すすべもなく落下していく二人の姿を見つけて、アリアは舌打ちする。
「ほんっとにもう!」
魔物の天敵とも言える神官と勇者の仲間。
だが、今となっては放っておく訳にもいかない。
一応、仲間だという意識もない訳ではない。
アリアが白い糸を放つと、頭から落下していく二人の脚に、それが絡みついた。
逆さ吊りでぶらぶらと振り子のように揺れる二人。
ショートパンツのニコはともかく、ドナは大きく捲り上がりそうになる修道衣の裾を押さえながら、安堵の息を吐いた。
「た、助かりました……」
「にゃー……ありがとにゃ」
だが、
「……まだ、お礼を言われるのは、ちょっと早いみたいよ」
緊張感を孕んだその物言いに、アリアの視線を追って二人が振り返ると、丁度、古竜の腹を突き上げた巨大な拳が、再び地面へと沈み込んでいくところ。
支えを失った古竜の巨体がぐらりと傾き、凄まじい風音を響かせながら、大地へと墜ちて行く。
地軸を揺らすような轟音を立てて、渓谷を押し潰す古竜の巨体。
砂煙が入道雲のように立ち上り、衝撃波が空気をビリビリと震わせた。
宙空のアリア達は、
「きゃあああああああ!」
「にゃぁああああああああ!」
風圧に抗う事も出来ずに、まるで回転草の様にくるくると回転しながら、風に巻かれて遠くへと流されていく。
やがて彼女達の姿が見えなくなると、そこに、舞い上がった石礫が長雨のようにパラパラと降り注いだ。
◇ ◇ ◇
一方、ミーシャは更に上昇して宙に舞い上がってくる砂煙を避けた。
そして、大地に横たわる古竜の巨体を見下ろして、声を張り上げる。
「レイ!!」
――…………大丈夫だ。
多少呻く様な調子ではあったが、ミーシャの脳裏にレイの声が響いてきて、彼女はホッと胸を撫でおろす。
――他の皆は?
「蜘蛛女達は魔王の城の方へ飛ばされていったわよ。でも、あの様子なら多分、ちゃんと着地できると思う」
――そうか。
「今のは何だったの?」
―-わからない。
実際、あまりにも突然のことで、レイには自分の腹を突き上げた物が、どんな形をしていたのかも分かっていない。
だが、ミーシャにも、レイにも、これで終わりでは無いことぐらいは分かる。
未だに、大地には凄まじい魔力が渦巻いている。
ミーシャは、それが横たわる古竜の背後へと寄り集まっていくのを感じて、声を上げた。
「レイ! 早く起きて! また来るわ!」
途端に、古竜の背後で、再び地面が隆起し始めた。
凄まじい振動。
やがて天を衝くほどの巨体が、大地を突き破ってせり上がってくる。
「なに……これ……」
その巨大さに、ミーシャは思わず言葉を失う。
地の底から這いだしたそれは、巨大な土人形。
両の腕ばかりが長く足は異常に短い、類人猿のような造形。
土のブロックを幾千も積み上げたかのような、歪な人型であった。
「……ゴーレム、なの?」
それにしては、あまりにも巨大すぎる。
どれだけの魔力があれば、あれだけの巨体を維持できるというのか。
呆然とするミーシャの視界の中で、巨大なゴーレムは両手を掲げると、ズシン! ズシン! と腹に響く様な足音を立てながら、古竜の方へと歩み寄り始めた。
一方の古竜は、短い手で宙を掻きながら、首を支えにして、ゆっくりと身を起こす。
ミーシャの目にも、ダメージの大きさがありありと見て取れる痛ましい姿。
最初の一撃を喰らった腹の辺りの皮膚が破れて、痛々しくも赤黒い肉が露出していた。
――ミーシャ! 早くここを離れろ。巻き込まれるぞ。キミが離れたらブレスで一気に方を付ける。
ミーシャは、ハタと我に返ると大きく頷いた。
「絶対、絶対、負けちゃダメなんだからね!」
――心配するな。
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