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第一章 亡霊、大地に立つ

第四話 そういう場合は、だいたい詐欺です。#3

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 レイの心配は杞憂きゆうに終わった。

 特に何者かが襲ってくることも無く、二人は朝を迎えた。

 だが、

 ――ひどい目にあった。

 目を覚ました直後、固い地面に横たわっていた所為せいり固まっていた身体をほぐしながら呟いた、レイの本日の第一声である。

 初夏とは言っても高い所へと上れば、当然、気温は下がる。

 炎精霊サラマンダが強くなると風精霊シルフがヘソを曲げるからと、ミーシャが火を焚く事を拒否したために、昨晩、二人は暖を取るために、身を寄せ合って眠りについた。

 男女で身を寄せ合って眠ると言えば、様々な誤解を生み出す状況には違いないが、方や新米ゴブリン、もう一方は美しいエルフと言えど、ド貧乳の小娘である。

 玉突き事故的に、よっぽど何かをこじらせでもしない限り、間違いなど起こるはずもない。

 背後からレイを抱きかかえるようにして眠るミーシャの姿は、さながら、大きめのぬいぐるみを抱いて眠る可憐な少女といったところ。

 ぬいぐるみにしては、顔が凶悪すぎるのは、まあ、御愛嬌である。

 とはいえ、そのまま何も問題なく一夜を過ごせたのであれば、ひどい目にあったなどという呟きは出てこない。

 ミーシャに背中から抱きかかえられたレイが思わず、

 ――ん、背中に何か当たってる……。

 そう考えた途端、ミーシャが思わず顔を赤らめる。

 だが、

 ――なんだ、あばらか。

 続いてレイがそう独りごちた途端、ミーシャの顔から表情が消えた。

 途端に背後から首を絞められ、レイは半ば気を失う様にして眠りについたのだった。

 ――まったく、目を覚まさなかったらどうする。

「うるさい。生霊レイス死霊ワイトに変わるだけよ。自我がない分だけ死霊ワイトの方が扱いやすいかもね」

 渋皮を剥いた木の実と水で簡単に朝食を終えると、ミーシャは空をじっと見つめた。

「急いだほうが良さそうね」

 ――ああ、雨になりそうだ。

 薄暗い空には、触れば感触がありそうなほどのぶ厚い雲が広がり始めている。

 ミーシャが大きな背嚢リュックを背負って、山道を登り始めると、ナタを引き摺ったレイが後に続く。

風精霊シルフ達が言うには、中腹あたりに打ち捨てられた山小屋があるらしいの。雨が降る前にそこまで辿り着ければ良いんだけど……」

 ――中腹? 

「そうよ、今日はそこで宿泊するわ。雨が降ったら風精霊シルフたちよりも水精霊ウンディーネの方が強くなっちゃうから道案内が不安だし、それに……」

 ミーシャの表情に緊張の色が混じる。

「今朝から土精霊ノームたちが、山頂辺りに何かいるって警告してるの」

 ――何かとはなんだ? 怪物モンスターか?

「それ以上は分からないわ。土精霊ノーム達の声に耳を傾けていれば、その何かを避けながら山を越えられると思うけど……」
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