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第一章 亡霊、大地に立つ
第五話 豪雨の包囲網 #1
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二人が出発して三時間ほどが過ぎた頃、雨の臭いが急激に濃さを増した。
そこから数歩と行かないうちに、雨粒が地面に黒い水玉模様を描きだし始め、二人は思わず周囲を見回す。
ゴツゴツとした岩肌が露出する山道。
雨をしのげるような場所は、何処にも見当たらない。
「あーあ、降り出してきちゃった。もう最悪ぅ……」
――その山小屋というのは、まだ遠いのか?
「えーと、ちょっと待ってね」
そう言って、ミーシャは目を閉じると、ブツブツと何かを呟き始める。
レイの目には見えないが、おそらく風精霊に問いかけているのだろう。
「このまま真っ直ぐ。あと半刻ぐらいだって」
――半刻か。それなら走った方が良さそうだ。
こうしている間にも空は益々暗さを増し、午前だというのに、既に宵の口宛らに薄暗い。
顔を叩く雨粒が大きくなっていくのと前後して、遠くの方でゴロゴロと、猫が喉をならしているような雷の音が響き始めた。
二人は頷きあうと、足早に山道を駆け上がる。
山道と言っても、整備された道がある訳では無い。
中腹近くともなれば、それなりに傾斜もきつい。
ハァハァ……と、乱れた呼吸音が二人の周囲に纏わりついて、降り注ぐ雨水が、体温で気化して湯気が立ち上る。
ポツポツという雨の音が次第に途切れることなく繋がって、遂には、ザーという間断の無いノイズに変わった。
空を見上げれば、天から垂れ下がる白糸が、半透明のカーテンの様に揺らぎながら世界を覆っている。
その向こうに、重そうな色をした雲。それを串刺しにする山頂のシルエットが浮かんでいた。
まさに竜が泣き出したかのような大雨。
目を凝らしても、数メートル先も定かには見えない程の豪雨である。
傾斜を流れ落ちる雨水は既に濁流のごとく、足に当たっては白波を立てている。
進む速度は落ちる一方で、言葉を交わすだけの余裕も無い。
二人は顔を叩く雨粒に目を細めながら、濡れた体を引き摺る様に先へ先へと進んでいく。
元々襤褸布を腰に巻き付けているだけのレイはともかく、ミーシャには背嚢の重みに加えて、水を吸った衣服の重みが圧し掛かって、時折、重労働に従事する罪人さながらに、よろよろと足を縺れさせていた。
そこから数歩と行かないうちに、雨粒が地面に黒い水玉模様を描きだし始め、二人は思わず周囲を見回す。
ゴツゴツとした岩肌が露出する山道。
雨をしのげるような場所は、何処にも見当たらない。
「あーあ、降り出してきちゃった。もう最悪ぅ……」
――その山小屋というのは、まだ遠いのか?
「えーと、ちょっと待ってね」
そう言って、ミーシャは目を閉じると、ブツブツと何かを呟き始める。
レイの目には見えないが、おそらく風精霊に問いかけているのだろう。
「このまま真っ直ぐ。あと半刻ぐらいだって」
――半刻か。それなら走った方が良さそうだ。
こうしている間にも空は益々暗さを増し、午前だというのに、既に宵の口宛らに薄暗い。
顔を叩く雨粒が大きくなっていくのと前後して、遠くの方でゴロゴロと、猫が喉をならしているような雷の音が響き始めた。
二人は頷きあうと、足早に山道を駆け上がる。
山道と言っても、整備された道がある訳では無い。
中腹近くともなれば、それなりに傾斜もきつい。
ハァハァ……と、乱れた呼吸音が二人の周囲に纏わりついて、降り注ぐ雨水が、体温で気化して湯気が立ち上る。
ポツポツという雨の音が次第に途切れることなく繋がって、遂には、ザーという間断の無いノイズに変わった。
空を見上げれば、天から垂れ下がる白糸が、半透明のカーテンの様に揺らぎながら世界を覆っている。
その向こうに、重そうな色をした雲。それを串刺しにする山頂のシルエットが浮かんでいた。
まさに竜が泣き出したかのような大雨。
目を凝らしても、数メートル先も定かには見えない程の豪雨である。
傾斜を流れ落ちる雨水は既に濁流のごとく、足に当たっては白波を立てている。
進む速度は落ちる一方で、言葉を交わすだけの余裕も無い。
二人は顔を叩く雨粒に目を細めながら、濡れた体を引き摺る様に先へ先へと進んでいく。
元々襤褸布を腰に巻き付けているだけのレイはともかく、ミーシャには背嚢の重みに加えて、水を吸った衣服の重みが圧し掛かって、時折、重労働に従事する罪人さながらに、よろよろと足を縺れさせていた。
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