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第一章 亡霊、大地に立つ
第五話 豪雨の包囲網 #2
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結局、
「見えた! あそこよ!」
と、激しい雨音の中に、ミーシャの喜色混じりの声が響いたのは、半刻どころか、一時間以上も経った後の事だった。
近づいてみれば、それは丸太で組んだ高床式の小さな山小屋。
ずいぶん古そうではあるが、かなり頑丈そうに見える。
なんにせよ、雨露をしのげる屋根があるのはありがたい。
三段ほどの階段を登って、デッキへと上る。
正面に扉。
ミーシャは取っ手に手を掛けると、レイの方へと振り返った。
「鍵……掛かってたら、蹴破ってね?」
――ああ、その時は任せてくれ。
だが、その心配は全くの無駄になった。
ミーシャが力を込めて引くと、扉は軋みながらも、あっさりと開いたからだ。
二人は中へ駆けこむと、慌しく扉を閉じる。
途端にザーという雨音が壁に阻まれて、一気に遠ざかった。
示し合わせた訳ではないが、二人は同時に大きな息を吐いて、
「……屋根って素晴らしい」
――まったくだ。
と、感慨深げに頷きあった。
扉を閉じてしまうと、部屋の中は、壁の隙間から入り込んでくる微かな光だけの薄闇。
へなへなとその場にへたり込んでしまったミーシャを尻目に、レイは壁を手探りで弄って木戸を探し当て、それを跳ね上げる。
再び雨音のボリュームが上がって、僅かに室内が明るくなった。
「はあ……もう、ぐしょぐしょ」
ミーシャがため息交じりに呟きながら、服の裾を絞るとボトボトと水が滴り落ち、彼女は寒そうに身体を震わせる。
――そのままでは風邪をひきそうだな。
「あんたは大丈夫なの?」
――特に寒いとも思わない。記憶がないからはっきり大丈夫だとは言えないが、風邪気味のゴブリンに出会ったことはないと思う。たぶん。
レイは冗談とも思えない様な口調でそう返事をすると、ぐるりと部屋の中を見回す。
丸太を積み上げた壁、それほど広くも無い部屋の隅には薪が積み上げてある。
壁の一方には黒く煤けた小さな暖炉があった。
――火を熾すぞ。風精霊のご機嫌をとるのは、また今度ということにしてくれ。
「うん、大丈夫。室内には風が無いでしょ。風精霊たちはほとんどいないから」
「見えた! あそこよ!」
と、激しい雨音の中に、ミーシャの喜色混じりの声が響いたのは、半刻どころか、一時間以上も経った後の事だった。
近づいてみれば、それは丸太で組んだ高床式の小さな山小屋。
ずいぶん古そうではあるが、かなり頑丈そうに見える。
なんにせよ、雨露をしのげる屋根があるのはありがたい。
三段ほどの階段を登って、デッキへと上る。
正面に扉。
ミーシャは取っ手に手を掛けると、レイの方へと振り返った。
「鍵……掛かってたら、蹴破ってね?」
――ああ、その時は任せてくれ。
だが、その心配は全くの無駄になった。
ミーシャが力を込めて引くと、扉は軋みながらも、あっさりと開いたからだ。
二人は中へ駆けこむと、慌しく扉を閉じる。
途端にザーという雨音が壁に阻まれて、一気に遠ざかった。
示し合わせた訳ではないが、二人は同時に大きな息を吐いて、
「……屋根って素晴らしい」
――まったくだ。
と、感慨深げに頷きあった。
扉を閉じてしまうと、部屋の中は、壁の隙間から入り込んでくる微かな光だけの薄闇。
へなへなとその場にへたり込んでしまったミーシャを尻目に、レイは壁を手探りで弄って木戸を探し当て、それを跳ね上げる。
再び雨音のボリュームが上がって、僅かに室内が明るくなった。
「はあ……もう、ぐしょぐしょ」
ミーシャがため息交じりに呟きながら、服の裾を絞るとボトボトと水が滴り落ち、彼女は寒そうに身体を震わせる。
――そのままでは風邪をひきそうだな。
「あんたは大丈夫なの?」
――特に寒いとも思わない。記憶がないからはっきり大丈夫だとは言えないが、風邪気味のゴブリンに出会ったことはないと思う。たぶん。
レイは冗談とも思えない様な口調でそう返事をすると、ぐるりと部屋の中を見回す。
丸太を積み上げた壁、それほど広くも無い部屋の隅には薪が積み上げてある。
壁の一方には黒く煤けた小さな暖炉があった。
――火を熾すぞ。風精霊のご機嫌をとるのは、また今度ということにしてくれ。
「うん、大丈夫。室内には風が無いでしょ。風精霊たちはほとんどいないから」
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