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第四章 亡霊、魔王討伐を決意する。
第三十三話 風の精霊王 #1
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「せーっかく、王宮に入り込めたのに出歩くなってのは、土台無理な話よねぇ」
窓から入り込む星明りの所為で、薄墨を零したような柔らかな闇が、静かに蟠る王宮の廊下。
その高い天井を這い回る者がいた。
それは紅いドレス姿の妖艶な女。
蜘蛛女のアリアである。
姿容は人間のままにもかかわらず、蜘蛛そのものの挙動で天井を這い周る彼女の姿は、正直かなり悍ましい。
うっかり天井を見上げて、目でも合ってしまった日には、それこそ失禁ものである。
時折通り過ぎる見回りの兵士を、天井で息を殺してやり過ごし、人気が無くなると再び動き出すという行動を繰り返しながら、アリアは王宮の四階部分を奥へ奥へと進んでいく。
別に盗みを生業にしている訳では無いが、カノカで蓄えた財産は、屋敷とともに古竜の下敷きになった。
この街で娼館を開業しようにも、まずは先立つ物が必要なのだ。
とはいえ、王宮の中に知見がある訳でも無く、手当たり次第に金目の物がありそうな場所を探すしかない。
とりあえず、大事な物を保管しておくなら、王様の居室の近くだろうと当たりをつけて、あえて警戒が厳重な方へと進んできた結果四階まで来てしまったという訳だ。
「……お宝はどこかしら。宝物庫なんてのが有れば、分かりやすくて助かるんだけど」
アリアが、そう独りごちた途端、どこからか話し声が漏れ聞こえてくる。
「聞き覚えのある声ね」と、アリアは声のした方、天井近くに開いた換気用の小窓から、灯りのついた部屋を覗き込む。
そこには、円卓を囲む四人の男の姿があった。
そのうち一人は、先ほど案内をしてくれた小太りの宮宰。
あとの三人も負けず劣らず同じ体形の、小太りカルテットだった。
「まったく、奇貨というべきですな」
「左様、あのエルフの小娘を人質に取れば、エルフどもも動かざるを得ますまい。もはやエルフの連中をどうにかして動かさねば、魔物を押し返すこともできんというのは、情けない限りですがね」
その内容に、アリアは思わず眉根を寄せる。
「しかし、王がお許しになりますかな……」
四人のうち一人は、ドナが纏っているのと似た修道衣。
その修道衣姿の男が、静かに口を開く。
「王の許しなど必要ありませぬ。神の思し召しだと告げれば、それで良いのです」
「ご尤も。しかし、護衛の骸骨をなんとかせねばなりませぬな」
「それこそ問題ありませぬな。此度、彼奴らとともに帰って来た神官。彼女はこの国でも五本の指に入る神官戦士です。しかも、彼女には教会に逆らえぬ理由がございます。司教たる私が命じれば逆らおう筈などございません」
「なるほど、それは頼もしい!」
男達の笑い声を聞きながら、アリアは憮然と口を尖らせる。
その表情を丁寧に分解してみれば『面倒臭い』という思いが五割、単純に『不快』という思いが四割。
あとの一割は、アリア自身も気づいていない思い。
アリアは小さく溜め息をつくと、スルスルと糸を伸ばして廊下に降り立つ。
そして、おもむろに扉をノックした。
途端に部屋の中でガタガタと椅子のなる音が聞こえて、「誰だ!」と警戒感丸出しに誰何する声が聞こえた。
「夜分にごめんなさい。部屋の場所が分からなくなってしまって……」
アリアが怯えた様な声を出すと、扉が開いて宮宰が顔を覗かせる。
「くれぐれも出歩かぬようにと申した筈ですが?」
アリアが、ギロリと睨みつけてくる宮宰に、怯える様な素振りを見せると、背後の男達がせせら笑う。
そして、修道衣姿の男が家宰に歩み寄って、その肩を叩いた。
「あまり、ご婦人を脅すものではありませんな。ご婦人、こちらに来て一緒に葡萄酒などいかがです?」
「司教殿!」
「大事な話は既に終わりましたからな。後は美しい女性を交えて朝まで楽しく過ごすというのも悪くありますまい」
そう言って、修道衣姿の男は、だらしなく鼻の下を伸ばす。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
俯きがちにそう答えると、アリアはおずおずと部屋の中へと入り、後ろ手に扉を閉じた。
そして、
「ところで、大事な話って……どんな話をなさってらしたのかしら?」
部屋に入るなり、アリアがそう問いかけると、男達の間に不穏な空気が漂う。
「ご婦人、あなたには関係のない話です」
修道衣姿の男が、脅すように低い声を出すと、先ほどまでのおどおどとした様子はどこへやら、彼女は急に尊大な態度になって吐き捨てた。
「はっきり言って迷惑なのよね。アンタら。小娘をピンチに追い込んで、もしアイツが、自分があの娘をどう思ってるか気づいちゃったら、どう責任とってくれんのよ? こっちはこれから口説いていこうってとこなのに!」
「貴様、話を聞いていたな!」
男の一人がアリアに掴みかかろうとした途端、アリアはけたたましく嗤った。
そして、男達の表情が、戸惑いから恐怖へと変わっていく。
彼らの視界の中で、彼女の身体が揺らいで、大きく膨れ上がった。
窓から入り込む星明りの所為で、薄墨を零したような柔らかな闇が、静かに蟠る王宮の廊下。
その高い天井を這い回る者がいた。
それは紅いドレス姿の妖艶な女。
蜘蛛女のアリアである。
姿容は人間のままにもかかわらず、蜘蛛そのものの挙動で天井を這い周る彼女の姿は、正直かなり悍ましい。
うっかり天井を見上げて、目でも合ってしまった日には、それこそ失禁ものである。
時折通り過ぎる見回りの兵士を、天井で息を殺してやり過ごし、人気が無くなると再び動き出すという行動を繰り返しながら、アリアは王宮の四階部分を奥へ奥へと進んでいく。
別に盗みを生業にしている訳では無いが、カノカで蓄えた財産は、屋敷とともに古竜の下敷きになった。
この街で娼館を開業しようにも、まずは先立つ物が必要なのだ。
とはいえ、王宮の中に知見がある訳でも無く、手当たり次第に金目の物がありそうな場所を探すしかない。
とりあえず、大事な物を保管しておくなら、王様の居室の近くだろうと当たりをつけて、あえて警戒が厳重な方へと進んできた結果四階まで来てしまったという訳だ。
「……お宝はどこかしら。宝物庫なんてのが有れば、分かりやすくて助かるんだけど」
アリアが、そう独りごちた途端、どこからか話し声が漏れ聞こえてくる。
「聞き覚えのある声ね」と、アリアは声のした方、天井近くに開いた換気用の小窓から、灯りのついた部屋を覗き込む。
そこには、円卓を囲む四人の男の姿があった。
そのうち一人は、先ほど案内をしてくれた小太りの宮宰。
あとの三人も負けず劣らず同じ体形の、小太りカルテットだった。
「まったく、奇貨というべきですな」
「左様、あのエルフの小娘を人質に取れば、エルフどもも動かざるを得ますまい。もはやエルフの連中をどうにかして動かさねば、魔物を押し返すこともできんというのは、情けない限りですがね」
その内容に、アリアは思わず眉根を寄せる。
「しかし、王がお許しになりますかな……」
四人のうち一人は、ドナが纏っているのと似た修道衣。
その修道衣姿の男が、静かに口を開く。
「王の許しなど必要ありませぬ。神の思し召しだと告げれば、それで良いのです」
「ご尤も。しかし、護衛の骸骨をなんとかせねばなりませぬな」
「それこそ問題ありませぬな。此度、彼奴らとともに帰って来た神官。彼女はこの国でも五本の指に入る神官戦士です。しかも、彼女には教会に逆らえぬ理由がございます。司教たる私が命じれば逆らおう筈などございません」
「なるほど、それは頼もしい!」
男達の笑い声を聞きながら、アリアは憮然と口を尖らせる。
その表情を丁寧に分解してみれば『面倒臭い』という思いが五割、単純に『不快』という思いが四割。
あとの一割は、アリア自身も気づいていない思い。
アリアは小さく溜め息をつくと、スルスルと糸を伸ばして廊下に降り立つ。
そして、おもむろに扉をノックした。
途端に部屋の中でガタガタと椅子のなる音が聞こえて、「誰だ!」と警戒感丸出しに誰何する声が聞こえた。
「夜分にごめんなさい。部屋の場所が分からなくなってしまって……」
アリアが怯えた様な声を出すと、扉が開いて宮宰が顔を覗かせる。
「くれぐれも出歩かぬようにと申した筈ですが?」
アリアが、ギロリと睨みつけてくる宮宰に、怯える様な素振りを見せると、背後の男達がせせら笑う。
そして、修道衣姿の男が家宰に歩み寄って、その肩を叩いた。
「あまり、ご婦人を脅すものではありませんな。ご婦人、こちらに来て一緒に葡萄酒などいかがです?」
「司教殿!」
「大事な話は既に終わりましたからな。後は美しい女性を交えて朝まで楽しく過ごすというのも悪くありますまい」
そう言って、修道衣姿の男は、だらしなく鼻の下を伸ばす。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
俯きがちにそう答えると、アリアはおずおずと部屋の中へと入り、後ろ手に扉を閉じた。
そして、
「ところで、大事な話って……どんな話をなさってらしたのかしら?」
部屋に入るなり、アリアがそう問いかけると、男達の間に不穏な空気が漂う。
「ご婦人、あなたには関係のない話です」
修道衣姿の男が、脅すように低い声を出すと、先ほどまでのおどおどとした様子はどこへやら、彼女は急に尊大な態度になって吐き捨てた。
「はっきり言って迷惑なのよね。アンタら。小娘をピンチに追い込んで、もしアイツが、自分があの娘をどう思ってるか気づいちゃったら、どう責任とってくれんのよ? こっちはこれから口説いていこうってとこなのに!」
「貴様、話を聞いていたな!」
男の一人がアリアに掴みかかろうとした途端、アリアはけたたましく嗤った。
そして、男達の表情が、戸惑いから恐怖へと変わっていく。
彼らの視界の中で、彼女の身体が揺らいで、大きく膨れ上がった。
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