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第四章 亡霊、魔王討伐を決意する。
第三十六話 マンティコアライダー #2
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「う……ううん」
ミーシャは顔を枕に埋めて、呻くような声を零した。
……うるさいなァ、もう。
彼女が部屋の外から聞こえてくる騒がしい声に、寝惚け眼でそう愚図ると、静かに扉が開いて、窓の無い部屋に光が差し込んだ。
「んんっ……誰? もう朝ぁ?」
眩しげに瞼をきつく閉じながら、彼女がふわふわとした声音で呟くと、誰かがベッドのすぐ脇まで歩み寄って来て、溜息を吐く気配がした。
「もう昼だ。……起きろ、寝坊助」
「……レイ……ボーン。アンタねぇ、レディの寝室に踏み込んでくるなんて、どういう了見よ。鍵かかってたでしょ? 今は誰にも会いたくないの、そっとしといてってば……」
「そうしてやりたいのは山々なのだがな。魔王の軍勢が城壁のすぐ外まで迫っている。既に何匹か城壁の内側に入り込んだと騒ぎになっているぞ」
「………………ふーん、思ったより早いじゃない」
枕に頬を埋めながら、寝起き直後のどこかふわふわした声音でミーシャが呟いた。
「オーランジェを連れて、逃げるのだろう?」
レイボーンがそう問いかけると、ミーシャはなぜか、困った様に眉根を寄せる。
そして、寝返りを打つように、顔全体を枕に埋めて、くぐもった声で問いかけた。
「ねぇレイボーン、例えばだけど……頼みもしないのに、溺れかけてる人間を助けようとするお節介な人っているわよね」
「……何の話だ?」
「まあいいじゃない。ちょっと付き合ってよ。で、結局助けられもせず、自分も溺れそうになってるとしたら、溺れかけてた人間は、どうしたらいいと思う? 感謝すべきなのかな?」
「何の話かは知らないが……キミの中で答えの出ている質問に、私が答える必要があるのか?」
「むううう、レイボーン……あんた、やっぱり優しくない。モテないわよ、そんなんじゃ」
「まあそうだろうな。骸骨だし。ちなみにチャームポイントは鎖骨だ」
冗談めかしたその一言に、ミーシャはクスッと笑って、身を起こす。
「逃げるのはヤメ。魔王が直々に来るとは思えないし、|古竜__エンシェントドラゴン__#なら、魔王の軍勢ぐらい一捻りでしょ?」
ミーシャがそう言って微笑むと、途端にレイボーンは困ったように顔を背けた。
「どうしたの?」
「いや……それがだな。非常に言い難いのだが、本体の方は、ちょっと間に合いそうにない」
「は?」
「今、本体は巨大蛸数百体と死闘の真っ最中でな……」
「へーじゃあ仕方ない……って、そんなこと言う訳ないでしょ!? アンタ一体何やってんの!? そんなのほっといてすぐ来なさいよ!」
「……すまないが、そういう訳にはいかない」
「なんでよ!」
「私がいなくなれば、村が飲み込まれる」
「…………なんだか分かんないけど、アンタもなんか別のことに巻き込まれてんのね?」
ミーシャは溜め息混じりに肩を竦めた。
「だが、キミとオーランジェを連れて、魔物の群れを突破するぐらいなら、この身体でも問題はない」
その一言に、ミーシャはグッと唇を噛む。
そして怒鳴りつける様に口を開いた。
「逃げないって言ってるでしょ! ついてきて!」
途端にミーシャはベッドから跳ね起きると、廊下へと飛び出していく。
「お、おい!」
慌てて後を追うレイボーンを尻目に、ミーシャは慌しく階段を駆け下りた。
ミーシャは顔を枕に埋めて、呻くような声を零した。
……うるさいなァ、もう。
彼女が部屋の外から聞こえてくる騒がしい声に、寝惚け眼でそう愚図ると、静かに扉が開いて、窓の無い部屋に光が差し込んだ。
「んんっ……誰? もう朝ぁ?」
眩しげに瞼をきつく閉じながら、彼女がふわふわとした声音で呟くと、誰かがベッドのすぐ脇まで歩み寄って来て、溜息を吐く気配がした。
「もう昼だ。……起きろ、寝坊助」
「……レイ……ボーン。アンタねぇ、レディの寝室に踏み込んでくるなんて、どういう了見よ。鍵かかってたでしょ? 今は誰にも会いたくないの、そっとしといてってば……」
「そうしてやりたいのは山々なのだがな。魔王の軍勢が城壁のすぐ外まで迫っている。既に何匹か城壁の内側に入り込んだと騒ぎになっているぞ」
「………………ふーん、思ったより早いじゃない」
枕に頬を埋めながら、寝起き直後のどこかふわふわした声音でミーシャが呟いた。
「オーランジェを連れて、逃げるのだろう?」
レイボーンがそう問いかけると、ミーシャはなぜか、困った様に眉根を寄せる。
そして、寝返りを打つように、顔全体を枕に埋めて、くぐもった声で問いかけた。
「ねぇレイボーン、例えばだけど……頼みもしないのに、溺れかけてる人間を助けようとするお節介な人っているわよね」
「……何の話だ?」
「まあいいじゃない。ちょっと付き合ってよ。で、結局助けられもせず、自分も溺れそうになってるとしたら、溺れかけてた人間は、どうしたらいいと思う? 感謝すべきなのかな?」
「何の話かは知らないが……キミの中で答えの出ている質問に、私が答える必要があるのか?」
「むううう、レイボーン……あんた、やっぱり優しくない。モテないわよ、そんなんじゃ」
「まあそうだろうな。骸骨だし。ちなみにチャームポイントは鎖骨だ」
冗談めかしたその一言に、ミーシャはクスッと笑って、身を起こす。
「逃げるのはヤメ。魔王が直々に来るとは思えないし、|古竜__エンシェントドラゴン__#なら、魔王の軍勢ぐらい一捻りでしょ?」
ミーシャがそう言って微笑むと、途端にレイボーンは困ったように顔を背けた。
「どうしたの?」
「いや……それがだな。非常に言い難いのだが、本体の方は、ちょっと間に合いそうにない」
「は?」
「今、本体は巨大蛸数百体と死闘の真っ最中でな……」
「へーじゃあ仕方ない……って、そんなこと言う訳ないでしょ!? アンタ一体何やってんの!? そんなのほっといてすぐ来なさいよ!」
「……すまないが、そういう訳にはいかない」
「なんでよ!」
「私がいなくなれば、村が飲み込まれる」
「…………なんだか分かんないけど、アンタもなんか別のことに巻き込まれてんのね?」
ミーシャは溜め息混じりに肩を竦めた。
「だが、キミとオーランジェを連れて、魔物の群れを突破するぐらいなら、この身体でも問題はない」
その一言に、ミーシャはグッと唇を噛む。
そして怒鳴りつける様に口を開いた。
「逃げないって言ってるでしょ! ついてきて!」
途端にミーシャはベッドから跳ね起きると、廊下へと飛び出していく。
「お、おい!」
慌てて後を追うレイボーンを尻目に、ミーシャは慌しく階段を駆け下りた。
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