【死に戻りのひねくれ白狐はそれでも比翼連理の伴侶が欲しい】

清白(すずしろ)

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…どうしたって嫌われる運命

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 勢い良く走って来たちいさな下位の聖獣達は…、しかし、千種ちぐさの直ぐ近くに見知らぬ聖獣が立っているのを目にした途端、感心するほど綺麗にビタッ!と同時に動きを止めていた。
 困惑した様子でちび聖獣達が天荒てんこうを見上げている。

 その視線にはどこか畏怖めいたものが混ざっていたのを、千種は見逃さなかった。

(あ、あいつらっ…、なんてわかりやすい…!)

 自分の時には見られなかった反応に、少しばかり千種がイラァ…としてしまったのも仕方ないだろう。

 しかしちび達のその反応もまた仕方がないと言えば仕方がないものではあった。
 何しろ千種と違い天荒は上位の中でも頂点に近い力を持って生まれた聖獣だ。
 纏うからして千種とは大違いなのだから。
 下位の獣型しか取れないちび聖獣達の足が竦んでしまうのも、無理からぬことだった。

「ちくたたま…、その、だぁれ?」

(だからってちょっと扱いが違い過ぎないか!?)

…?」

 千種はちび達の差別的な対応に、天荒は彼等の千種に対する呼び方に、それぞれ引っ掛かりを覚える。

 千種と自分達を怪訝そうに見比べた天荒に、尻尾を丸めるちいさな下位の聖獣達が自然と震える体を寄せ合った。

…とは、千種のことか?」
「…そうだ」

 若干目を潤ませつつこちらを見つめ、わかりやすく助けを求めてくるちび達に千種が溜め息混じりに歩み寄る。

 お陰で天荒から離れることができ、実は千種の方こそ助かっていたのだが。

「何故そんな風に呼ばせている?」
「…別に…ぼくが呼ばせてるわけじゃ…。こいつらが面白がって、勝手に呼んでるだけで…」

 彼等の前に膝を突いた途端、もふもふのちび達が一斉に千種の傍に近寄り…そして楯にするよう、体の影に隠れた。

 ずるい、ぼくだって隠れられるものなら隠れたいのに、と。
 実はこの中の誰よりも切実にそう思っている千種の胸中など、まるでお構い無しで。

「…ちくたたま…の、ともだち?」
「いや…」
「だぁれ…?」
「彼は─⁠」
「俺は黒虎の天荒てんこう。千種と同じ、上位の聖獣だ」

 千種の言葉を引き取り天荒が自ら名乗る。

「ちくたたまと…」

「いっしょ…?」

 失礼な無数の視線が何か言いたげに千種を見上げた。

(こ、このちび共はっ…!ぼくのことなめすぎじゃないか!?)

 確かに自分と天荒とでは格が違い過ぎるのは認める。─⁠が、こうもあからさまだと腹立たしい以外の何ものでもない。

「おまえら…何しに来たっ」

 幾分声に険を乗せて千種が尋ねる。

「ちくたたまおそいから、おむかえきたー!」
「こっちよりあっちのほうがいいばしょなの!」
「おひさまポカポカー!」
「はっぱと、きのみも、おいしいよぉ!」

「ああ、もうっ、喧しい!一斉に喋るな!揉みくちゃにするな!こら!」

 千種の白い衣をくわえ、ちいさな彼等がグイグイ引っ張る。
 それは一刻も早くこの場…と言うより天荒の近くから離れたがっているようでもあった。

 …千種としても同感ではあるが。

「はやくはやく!」
「いこう、ちくたたま!」
「わかった…、わかったからっ…!」

 腰を浮かせたところで、不意に後ろから掛けられた声が千種に動きを止めさせた。

「どうして彼等と、君が一緒に行く?」

 その声音は気の所為でなければ少し冷たく、そして尖っていた気がした。

「ここは彼等のような下位の聖獣達の居場所だろう?」
「ぁ、」

 指摘に、ズキリと胸が痛む。

「君も上位の端くれと言うのなら、相応しい領域に在るべきでは?」
「相応しい…領域…」

 何故だろう。

 天荒は至極真っ当なことを述べているだけ。それだけなのに。
 …彼が言葉を紡ぐ度に胸がズキズキと痛むのは。

(─⁠…)

 その通りではある、…の、だが。
 どうして天荒の口から直接そう言われると、こんなにも悲しい気持ちになるのか。
 きゅと唇を噛み締め、知らず千種が瞳を揺らす。

「ち、ちくたたまは…ボクたちといっしょにいたいのっ…」
「ここにいたい、から、いるの…!」

「おい、余計なこと言うな!」

 “怖がってるクセに”、無理してまで上位聖獣の天荒に意見しなくても大丈夫だと、千種はそう言いたかっただけだった。

 それだけであったのに…。

「どういうことだ?」

 天荒の纏う雰囲気が急にガラリと変わった。

「まさか

(…っ、…!?)

「上位の聖獣と言う立ち場を利用して己より弱き者を脅し、鳥なき里の蝙蝠くだらぬ真似をしようとしていたのではなかろうな」

 その冷たい声音が言葉を紡ぎ終わると同時、ズンッ─⁠、と一気に空気がなった。

 ちいさな下位の聖獣達などまるで頭を押さえ付けられているかのように地面に伏し、ブルブルと体を震わせている。

 辛うじて…ではあるが、平気な千種も面布の下で顔色を悪くさせていた。

「ちが…っ…。ぼく、は……!」

 重い空気の息苦しさに胸を喘がせながら、千種が小刻みに頭を横に振る。

「己の立ち場を利用し弱者相手に威張り散らすなど、恥ずべき行為でしかない」

(だから違うっ!ぼくはそんなことしようだなんてっ…)

に、少しは上位聖獣としての気高さを持ったらどうだ。…醜悪な!」

「なっ…」

 吐き捨てられた言葉に千種の胸の奥深くが、一際激しく強く痛んだ。

 どうしてこんなことを言われなければならないのかと、怒りにも似た悲しみが込み上げて止まらない。

 どうして…。

 どうして彼は、こちらの言葉に耳を傾けてくれようとしないのかと、そこまで思って、気が付いた。

(…あぁ、…そっか)

 これが自分と彼の、『運命』なのだと。

(君に対してぼくが何かをしなくても…、……何も、しなくたって、結局君はぼくを…嫌うんじゃないか…)

 …─⁠─⁠─⁠きっと、己が、千種おのれで、ある限り。

 彼が、天荒かれで、ある限り。

 たとえ同じ聖紋を持っている者同士だとしても、自分達に限ってはこの痛みを伴うだけの溝が埋まることがない、そう言う『運命』なのだと、千種は気が付いてしまった。

(……なんだ…)

 千種の唇から自虐的な笑みがぽろりと零れた。

「‥は、…ははっ…」

「…ちく、た、たま…?」

 ぽろぽろ…。

 ぽろぽろ…と、零れていた。

「なんだ…ぼく…、…、ばかだったんだ…本当に…」

 詰ったのは一度目過去の自分。

「………報われるわけなんて…最初からなかったのに…、なにを………あんな…必死に…っ…」

「お前は何を突然わけのわからないことを…」

 天荒の困惑気味の声も、もう耳には入ってなかった。
 そして、天荒もやっと気が付いた。
 ちび達がとっくに気付いていたことに、遅れ馳せながら。

「千種…?」

 自分に背を向け深く項垂れるその顔から、ぽた…ぽた…と滴るものがあることに。

「あ…」

 少し言い過ぎただろうかと、天荒が放っていた威圧をそこで漸く落ち着ける。
 その瞬間、ちいさな下位の聖獣達が一斉に千種の傍に寄り、心配そうに見上げていた。

 この瞬間、己が犯した失態を天荒が知る。

 脅されていたら、彼等は決してこんな表情を千種に対して向けないだろう。
 天荒に対し、臆せず眦をつり上げたりしなかっただろう。

「千種、その…」

 勝手に、それも一方的にした誤解を謝ろうと、天荒が千種に声を掛けた。
 …が、謝罪する前に、自分よりも二回りも華奢な体躯の白狐は、あの時のように白い衣を靡かせ、天荒の前から逃げて行ってしまった。



【2025.09.19】
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