星の堕ちた世界で~終末世界のエルフ~

黒幸

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21 テケリ・リ

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『ミレイユ。だから、ちゃんと読もうと言いましたよね』
「そんなこと、言ったっけ?」
「まあまあ。過ぎたことは仕方ないよ」

 紅茶色というより、アプリコットカラーと言った方が分かりやすいかな。
 街中でよく見かけるトイプーで赤みがかった薄めの茶色のようなのがいるよね。
 あれに似た毛色をしているトイプーではない、タレ耳のうさちゃんことホーランドロップの姿にようやく戻ったバルディエルは、定位置である右肩に乗っかっている。
 『リトリー・オンライン』の時は重さを感じなかったけど、今はしっかりと重さを感じる。
 とはいえ、重さはスマホ程度だから、めっちゃ重いという訳じゃない。
 むしろ重いのは存在感の方とも言う。

「そ、そうだね。ユーくんの言う通り、過ぎたことだし、気にしても仕方ないよねー。まずはさっさとやって帰ればいいかな?」
「うんうん」

 レイさんは生温かい目で見守ってくれているといったところで……。
 コニーさんはというと仕事人よろしく、周囲に対する警戒を解いてない。
 あまりレイド慣れをしていないわたしとユーくんが、緊張感のあまり感じられないノリでいる訳だ。
 妙な初心者テンションとでも言えば、いいのだろう。

 もっとも『リトリー・オンライン』ではそれなりにレイドをこなしていたんだけど。
 現実とVRではやはり、勝手が違うのだ。

「でも、無理はできないしね」
「うん」
「その通りだね」

 そう。
 『リトリー・オンライン』はもう一つの現実を謳っていたけど、VRゲームだから、プレイヤーが死なないように配慮されていた。
 もし絶命の危機に陥ったら、グリゴリが緊急措置を取ってくれる。
 予め、登録されているホームポイントに自動的に転送されるのだ。
 でも、現実は違う。
 死んでしまえば、それまで。
 危なくなったからといって、グリゴリがどうにかしてくれる保証はない。

 『リトリー・オンライン』はリアルなのが売りだった。
 自然の風景や建築物もそうだけど、緊迫感のあるバトルが妙に生々しいと話題になっていたほどだ。
 でも、現実とは違う。
 痛覚がないのだから。
 実際は切られたり、刺されたら痛いし、痛いだけでは済まない。
 ゲームと違って、簡単に治療もできない。

 だから、無理はできないし、しちゃいけないのだ。

『テケリ・リ』
「「「…………!?」」」

 かなり遠いと思う。
 微かに聞こえただけだったから。
 それでもコニーさんを除く、三人で完璧にフリーズした。
 今、聞こえた何かは聞こえたら、もしかして、すぐに逃げるべきという噂の……。
 空耳なら、いいんだけど。

「シ……ゴ……」

 コニーさんがまた、何かを呟いた。
 はっきりとは聞こえない。
 何かの名らしき単語のように聞こえた。
 はっきりとは分からない。
 そして、彼女は小首を傾げて、何やら思案しだした。
 わたし達はただ見守るしかない……。

「こうしましょう。あなたがたはあちらへ向かう。そして、ブロッブを狩るといい。あたくしはこちらへ向かう。おーけー?」
「お、おーけー? いいよね、二人とも」
「あ、うん。いいけど」
「ボクもそれで構わないよ。しかし、コニーくん、一人で大丈夫かい?」
「大丈夫。問題ない」

 コニーさん、普通に声出るじゃん!
 しかもめっちゃきれいな声だし……。
 ちょっと片言ぽいのが気になる。

 『リトリー・オンライン』では世界標準で通じる言語があって、自動的に翻訳されているので外国の人とも普通に会話が成立していた。
 まさか、それが現実にも適用されるとは思わなかった。
 だから、外国の人だけでなく、人間ではない別の生き物とも会話が成立する。
 便利ではあるけど、不思議な世界なのだ。

 だから、コニーさんもひょっとしたら、外国の人なのか、それとも……。
 まぁ、大した問題ではないと思う。
 こうしてお喋りができているんだし。
 何か、近寄りがたい雰囲気がするとは思ったんだよね。

 ともかく、わたしはそのように一人合点した。
 不思議そうな顔をしているユーくんと分かっているんだか、分かっていないんだか、どこか他人事のように涼しい顔をしているレイさんと危険の少ないブロッブがいる方角へと歩みを進めた。
 「テケリ・リ」と耳障りな鳴き声がする方角に背を向けて……。
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