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第34話【元勇者、マリーの相談にのる】

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「特にトラブルが無ければ今日の夕方にはポンドール王都へ着く予定です。王都ではセントラドと同じようにマイルーンまでの地図を買いたいと思っています」

 マリーは馬車を走らせながら横に座る俺と今後の予定のすり合わせを行う。

「王都ではまだ何か売るものはあるのか?」

「王都はいろんな町から多くの品物が集まってくるので私が持ってきている商品は多くの需要はないでしょうから特には売るつもりはないです。ただ、これからマイルーンに向うことが決まっているので少しばかり商品を仕入れてみようかと思っています」

「ふうむ。それでどんな商品を仕入れる予定なんだ?」

「それなんですけど、何が良いか私も悩んでいるのです。やっぱり農業国なので基幹産業も農業でしょうから鉄製のクワスキが良いのでしょうか?」

 マリーは真剣に仕入れの品物について俺に相談を持ちかけてくる。

「俺は冒険者であって農業を職業にしている訳ではないからなんとも言えんが国をあげて基幹産業としているものに対して国が対策をとっていないとは考えにくいと思うぞ。つまり農業に関してはこの国の品物よりもマイルーンの方が充実していると考えた方が俺は納得いくんだがマリーさんはどう思う?」

 俺の問いかけにマリーは顔を赤くして「そ、そうでしたね」と言って苦笑いをした。

「ならば、どういった物ならば売れますかね?」

 マリーは「こほん」と小さく咳払いをしてから再度俺の意見を求めてくる。

「結局のところ何処でもそうなんだが、なかなか手に入らないものか手には入るが量が足りないものが売れるのは分かるよな?」

「はい。ですが私はマイルーンに住む人たちの必要としている物には詳しくないですので各地を旅していたアルフさんならば何かヒントがあるかと思いまして……」

「ははは、ヒントねぇ」

 俺は彼女の期待をした視線を受けながら何か妙案が浮かばないかと頭をひねる。

(農業従事者が多い国……か。畑を荒らす獣除けなんかがあれば売れそうだな。だが魔道具なんて素人に作れる訳がないし、やはりここは穀物や野菜を除いた肉類を運んだ方が良いのかもしれんな)

 俺はそう考えて彼女に自分の意見を言ってみた。

「穀物を主に作ってる国だからそれ以外の肉類なんかは意外と需要があるんじゃないか? その他だと着るものかな?」

「うーん。さすがにポンドールの王都から生肉を運ぶのは現実的ではないですよね? せめて干し肉くらいでないと腐ってしまいますよ。着るものは流行り廃りがあるので売れる保証はありませんがマイルーンの民が全員農業をしている訳ではありませんので隣国の王都で流行っている服と宣伝すれば多少は売れるかもしれませんね」

「あ、それで本当ならば一日のみ王都に滞在するつもりだったのですけど仕入れを見て回るとなると一日では少しばかり厳しいと思うんです。ですからすみませんがもう一日ほど滞在を延ばしたいと思っています」

「そうか。それで仕入れには俺も付いていった方がいいか?」

「いえ王都ですし、それほど悪質な店は無いと思っていますのでひとりで見て回りたいです」

「そうか。本来ならば俺も一緒に回った方が安全なんだが王都の中心地で襲ってくる盗賊は居ないだろうし、ここははひとつ任せてもいいのか?」

「アルフさんも自分のやりたい事があるのならばそちらを優先してもらっても大丈夫ですよ」

「そ、そうか? オレとしては冒険者ギルドにも顔を出してどういった依頼が出されているのか見ておきたいところではあるんだが……」

「ならばそれを優先しても良いですよ。私は商業ギルドへ行って地図の確保と近くの商店または卸しで買い付けをしていますので終わり次第合流すれば問題ないでしょう?」

「いや、しかし。やはり護衛対象から離れて別行動をするのは気が引けるので出来れば冒険者ギルドにも一緒に行ってくれると助かる。なに、依頼板を確認したらすぐにマリーさんの用事に同行するからそんなに手間になることは無いだろう」

 俺の提案に「わかりました。では、そうしますね」と快くマリーは受け入れてくれた。

 ◇◇◇

 その後は大きなトラブルも無く俺たちはそろそろ王都の外壁が見えてくる位置までたどり着いていた。

「地図の情報からするとそろそろ王都の外壁が見えるはずですが……」

 森の中を右に大きく曲がった道の先で木々が急に切れており視界が一気に広がったその先に高い外壁を備えた王都へ続く道が見えた。

「もう半時間くらいですかね。予定よりも少しばかり早く着いた感じがしますが途中でのトラブルが無かったからでしょう。無事にたどり着けて良かったです」

「地図も役に立ったし、俺も馬車の護衛を考えながらする野営は貴重な体験だったよ。今は野生の獣も少なくなっているようで前ほど難しくはないようだがな」

「そうでしょうけどアルフさんは徹夜で見張りをされていたのですから街に着いたらゆっくりと休んでくださいね」

「ああ、そうさせて貰うよ」

 マリーの気遣いに俺は素直に返事をしてうなずいた。
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