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第47話【元勇者、マリーの決断を聞く】
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「――またせたね」
個室に通されて1時間を少しばかり過ぎた頃、入口のドアが開きリリエルが顔を出して向かいの席に座り従業員に自分用の香茶を持ってこらせてから部屋を退室させた。
「さて、どこから話そうかね……おっと、その前にそこの護衛の兄さんは同席していてもいいのかい? ここからは他人に聞かれたくない話もあると思うんだがね」
リリエルは横に座る俺を見てマリーにそう確認をする。
「構いません。彼には私の話は既にしてありますので」
「……本当にアンタの男じゃないんだね? 赤の他人によくそこまで心を開いたものだ」
リリエルはそう言いながら香茶に口をつけてから先程マリーが渡した手紙を取り出した。
「弟からの頼みは病気になってからすぐに一度手紙が届いていたよ。自分はそう長くはないからもしもの時があればマリエルを成人するまで後継人として見てやって欲しいとね」
リリエルはそう言うと昔マリーの父が送ったとされる手紙を取り出してマリーに手渡した。
「読んでみるかい?」
「良いんですか?」
「まあ、私が言っていることが本当だと分かってもらうために持ってきたんだからね」
「ありがとうございます」
マリーはお礼を言ってその手紙をゆっくりと読んだ。
「お父さん……」
手紙を読み終わったマリーの目からは大粒の涙が溢れている。
「さて、その手紙を信じてもらえたならばここからが本題だよ。マリエル、アンタはこれからの自分のあり方をこの場で決めなきゃいけない。誰の意見も聞いてはいけない、それをすればうまくいかなかった時に人のせいにしたくなる弱い自分が必ず出てくるから」
リリエルはそう言うと突然自分の話を始めた。
「私も早くに旦那を亡くしたんだけど幸か不幸か子供が居なかったから自分の事だけを考えることが出来た。もちろん、その頃はまだ私も若くて美人だったから未亡人でもいいと言ってくれる男はいたさ、だが私の旦那はあの人だけだと自分で決めてあの人の店を守る決意で今までやってきたのよ」
真剣に話を聞くマリーにリリエルは口角をあげて言う。
「弟との約束があるからマリエルは成人するまで私が面倒をみることは約束する。ただし、この店を手伝うのが条件だよ。それと、成人するまで1年あまりの短い期間だけどその間にやりたい事を考えて暇をみつけて勉強をすることだね。成人になったら弟との約束は終わりだからその後はマリエルの好きにしたらいい、もちろんそのままうちに残って私の娘として将来店を継いでくれてもいいし、やりたいことが出来たなら応援もするよ」
そう言ってリリエルは優しく笑う。
(話を総括するとマリーは成人するまでリリエルのお店で働きながらやりたい事について考え、勉強をする。成人してからは好きにしても良いがそのままお店で働いてもいいということだな。伯母さんが良い人で良かったよ。これで安心して依頼を終わる事が出来る)
「はい……でも……」
マリーは分かっていた事とはいえやはりいざとなるとためらいが出てしまう。
「――将来の事は今すぐ決められることじゃあないだろうが今はお父さんの願いを叶えてあげる事が一番じゃないか?」
部外者が口を挟むのはどうかと少しためらったが俺は思った事を彼女に伝えた。
「大丈夫。マリーならばきっと夢を見つけてそれを叶えられる力がある。一緒に旅して見てきた俺が言うんだから間違いないさ」
どこからくる自信か分からないが俺ははっきりとマリーにそう言い聞かせた。
「……わかりました。リリエル伯母さん宜しくお願いします」
マリーが一瞬だけ俺を見たような気がしたがすぐにそう言うとリリエルに頭をさげてお願いをした。
「アンタはどうするんだい?」
マリーがこれからの事を決めた後、リリエルが俺の方を向いてそう問いかける。
「俺は普通の冒険者だからそれに見合った仕事を探すつもりだ。ただ、マイルーンに来たからには大森林にある遺跡の探索をしてみたい気持ちがあるのでもしかしたらそちらの町に移動するかもしれない」
「そうかい、そいつは残念だね。なかなか腕っぷしも強そうだから用心棒を兼ねてうちで雇ってやろうと思っていたんだがね。まあ、冒険者なんて人種は目の前にある探究心に逆らえないもんなんだろうね」
「期待に添えずすまないな」
「いいって事さ。アタシはね……」
リリエルはそう言うとマリーの方を見ると彼女は思いつめた表情でジッと膝の上に握った手を見つめていた。
「ふう、たった1年が待てないかねぇ」
リリエルは大きなため息をついてマリーに声をかける。
「行きたければ行ってもいいよ。ただし後悔はするんじゃないよ」
リリエルの言葉にマリーはビクッとなり目に涙を浮かばせながら俺を見てやがて決断した事を告げた。
「いえ、ここでお世話になります。1年間いろんな事を知るために一生懸命に勉強したいと思います」
「分かったよ。マリエル……いや、マリーの1年間はアタシが責任を持って見てやるよ。だからそんなに心配そうな顔をせずに自分のやりたい事をしっかりとやり遂げてまた顔を見せな。遺跡なんかでおっ死んじまったなんて情けない奴にはマリーはやれないからね」
リリエルは俺に向かってそう言うとマリーをそっと抱きしめた。
個室に通されて1時間を少しばかり過ぎた頃、入口のドアが開きリリエルが顔を出して向かいの席に座り従業員に自分用の香茶を持ってこらせてから部屋を退室させた。
「さて、どこから話そうかね……おっと、その前にそこの護衛の兄さんは同席していてもいいのかい? ここからは他人に聞かれたくない話もあると思うんだがね」
リリエルは横に座る俺を見てマリーにそう確認をする。
「構いません。彼には私の話は既にしてありますので」
「……本当にアンタの男じゃないんだね? 赤の他人によくそこまで心を開いたものだ」
リリエルはそう言いながら香茶に口をつけてから先程マリーが渡した手紙を取り出した。
「弟からの頼みは病気になってからすぐに一度手紙が届いていたよ。自分はそう長くはないからもしもの時があればマリエルを成人するまで後継人として見てやって欲しいとね」
リリエルはそう言うと昔マリーの父が送ったとされる手紙を取り出してマリーに手渡した。
「読んでみるかい?」
「良いんですか?」
「まあ、私が言っていることが本当だと分かってもらうために持ってきたんだからね」
「ありがとうございます」
マリーはお礼を言ってその手紙をゆっくりと読んだ。
「お父さん……」
手紙を読み終わったマリーの目からは大粒の涙が溢れている。
「さて、その手紙を信じてもらえたならばここからが本題だよ。マリエル、アンタはこれからの自分のあり方をこの場で決めなきゃいけない。誰の意見も聞いてはいけない、それをすればうまくいかなかった時に人のせいにしたくなる弱い自分が必ず出てくるから」
リリエルはそう言うと突然自分の話を始めた。
「私も早くに旦那を亡くしたんだけど幸か不幸か子供が居なかったから自分の事だけを考えることが出来た。もちろん、その頃はまだ私も若くて美人だったから未亡人でもいいと言ってくれる男はいたさ、だが私の旦那はあの人だけだと自分で決めてあの人の店を守る決意で今までやってきたのよ」
真剣に話を聞くマリーにリリエルは口角をあげて言う。
「弟との約束があるからマリエルは成人するまで私が面倒をみることは約束する。ただし、この店を手伝うのが条件だよ。それと、成人するまで1年あまりの短い期間だけどその間にやりたい事を考えて暇をみつけて勉強をすることだね。成人になったら弟との約束は終わりだからその後はマリエルの好きにしたらいい、もちろんそのままうちに残って私の娘として将来店を継いでくれてもいいし、やりたいことが出来たなら応援もするよ」
そう言ってリリエルは優しく笑う。
(話を総括するとマリーは成人するまでリリエルのお店で働きながらやりたい事について考え、勉強をする。成人してからは好きにしても良いがそのままお店で働いてもいいということだな。伯母さんが良い人で良かったよ。これで安心して依頼を終わる事が出来る)
「はい……でも……」
マリーは分かっていた事とはいえやはりいざとなるとためらいが出てしまう。
「――将来の事は今すぐ決められることじゃあないだろうが今はお父さんの願いを叶えてあげる事が一番じゃないか?」
部外者が口を挟むのはどうかと少しためらったが俺は思った事を彼女に伝えた。
「大丈夫。マリーならばきっと夢を見つけてそれを叶えられる力がある。一緒に旅して見てきた俺が言うんだから間違いないさ」
どこからくる自信か分からないが俺ははっきりとマリーにそう言い聞かせた。
「……わかりました。リリエル伯母さん宜しくお願いします」
マリーが一瞬だけ俺を見たような気がしたがすぐにそう言うとリリエルに頭をさげてお願いをした。
「アンタはどうするんだい?」
マリーがこれからの事を決めた後、リリエルが俺の方を向いてそう問いかける。
「俺は普通の冒険者だからそれに見合った仕事を探すつもりだ。ただ、マイルーンに来たからには大森林にある遺跡の探索をしてみたい気持ちがあるのでもしかしたらそちらの町に移動するかもしれない」
「そうかい、そいつは残念だね。なかなか腕っぷしも強そうだから用心棒を兼ねてうちで雇ってやろうと思っていたんだがね。まあ、冒険者なんて人種は目の前にある探究心に逆らえないもんなんだろうね」
「期待に添えずすまないな」
「いいって事さ。アタシはね……」
リリエルはそう言うとマリーの方を見ると彼女は思いつめた表情でジッと膝の上に握った手を見つめていた。
「ふう、たった1年が待てないかねぇ」
リリエルは大きなため息をついてマリーに声をかける。
「行きたければ行ってもいいよ。ただし後悔はするんじゃないよ」
リリエルの言葉にマリーはビクッとなり目に涙を浮かばせながら俺を見てやがて決断した事を告げた。
「いえ、ここでお世話になります。1年間いろんな事を知るために一生懸命に勉強したいと思います」
「分かったよ。マリエル……いや、マリーの1年間はアタシが責任を持って見てやるよ。だからそんなに心配そうな顔をせずに自分のやりたい事をしっかりとやり遂げてまた顔を見せな。遺跡なんかでおっ死んじまったなんて情けない奴にはマリーはやれないからね」
リリエルは俺に向かってそう言うとマリーをそっと抱きしめた。
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