婚約者に捨てられた訳ありΩは辺境でしたたかに生きることにしました

和泉臨音

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2.南の英雄、ランドリア辺境伯ルーティス

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「ふふ、喜んでくれて嬉しい。お相手は南のランドリア辺境伯ルーティス様だよ。知ってるでしょう? 二年前竜を倒し、魔獣の大量発生から国を守った英雄だ。ちなみにボクの叔父上だよ」

(喜べって……おい。それってただの厄介払いだろうがっ!)

 コルトは叫びたい気持ちをぐっと抑えて口を結ぶ。
 基本的に身分の違いすぎるファリシアンとコルトの会話は昔からこうだった。コルトが思ったことを言い返すことはほぼない。

 南のランドリア領はここから馬車で一月以上離れた土地だ。魔獣が多く発生する死の山脈を領地に持ち、人の住める場所が少ない未開の地だといわれている。王都にいる権力にしがみつく綺羅きらびやかな貴族からは敬遠される土地である。
 しかし魔獣の侵攻を食い止めたり、その魔獣から取れる素材や死の山脈に眠る貴重な鉱物を管理するという重要な役目を担っており、さらに海を挟んではいるものの他国とも隣接している。
 自分は関わりたくないが誰かにしっかりと守護してもらい豊富な資源は流通させてほしい。貴族間でそんな下心が見え隠れする要所なのである。

「叔父上は英雄気質っていうかちょーっと変わり者だけど、キミの特異なΩフェロモンとは相性もいいし、お似合いだと思うよ」

 にっこりと上機嫌に微笑むファリシアンとは裏腹に、コルトの顔からは表情が完全になくなった。

 ルーティス・レザーテ=ランドリア辺境伯。
 その容赦ない戦いぶりに『闘神』や『残虐伯』の異名を持つ人物だ。何度も破談しているコルトとは逆に、三十歳近くになっても一度も結婚も婚約もしたことがない、高位の貴族にしては稀有な人物としても有名である。

 コルトはルーティスを王宮のパーティーで一度遠目に見たことがある程度で、話すどころか挨拶をしたこともない。
 ファリシアンと同じく銀の髪に緑の瞳の美丈夫だったが、雰囲気はまったく違っていた。

 ファリシアンは甘やかされて育ったせいか、午後の暖かい日差しのようにほわほわと優しい雰囲気がある。必死さがないというか、常に余裕があって彼の周りの人々も笑顔が絶えず、明るい空気を放っている。
 一方ルーティスは近くに寄るだけで殺されるんじゃないかという迫力があった。眼光鋭く例えるなら極寒地の猛吹雪だ。用がないなら……いや、あったとしても近寄りたくない。うす暗くて冷たい印象である。彼の護衛の者たちも同様で殺伐とした雰囲気をまとい眼光が鋭かった。

 どちらもαらしい容姿のよさは持ち合わせているが、闘神の異名を持つルーティスと、守られることが仕事みたいなファリシアンでは体格が全く違った。
 比べるのもおこがましいのだろう。ファリシアンがこれから鍛錬を積んだとしてもルーティスほど立派な体躯を手に入れられるとは思えない。
 立派なお方だとは思うが、自分から近寄りたいとは思わないし、辺境伯と子爵子息など身分違いの縁談も甚だしい。身分違いということなら侯爵令息であるファリシアンとの今の婚約もおかしな話ではあったのだが、希少な男Ωゆえに許された話なのだろう。

 なんだかなぁ、と、コルトは急に気が抜けてしまった。

「ランドリア辺境伯も了承されたのですか?」
「叔父上が? まさか~」

(いやいや、俺はしがない子爵家の行き遅れ欠陥Ωだから事後報告でいいとしても、辺境伯にそれはどうなの?!)

 曲がりなりにも南の英雄と呼ばれる国の重要人物なのだ。
 コルトがもはや表情を隠すことなく怪訝そうに見つめれば、ファリシアンはニコリと微笑んだ。

「でも大丈夫! 国王陛下が乗り気だったし王命になるから問題なし!」
「国王陛下が?」
「そそ、南の英雄がいつまでも独り身ってのも体裁悪いし、ミラ姫がお願いするって言ってたからね。動いてくれると思うよ」

(陛下がわざわざ俺なんかをなぜ辺境伯に? と思ったけど、なるほどファリシアン様とミラ姫の話、本当なんだな)

 少し前からだが、ミラ王女がファリシアンに熱を上げているという噂は聞いていた。
 だが一応自分という婚約者がいる手前、姫の一方的な恋慕だと思っていたが違ったようだ。

 思わずコルトは苦笑してしまう。己がどんなに努力をしようとも、生まれつきのものは変えようがない。
 このΩらしくない容姿も、αを誘うことができないフェロモンも、変えようがないのだ。

「…………わかりました」
「よかった~コルトが話の分かる人で。ありがとう、今まで楽しかったよ。キミのこれからの幸せを祈ってる」

 幸せそうに微笑むファリシアンに、これ以上コルトは何も言う気は起きなかった。
 
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