208 / 369
番外編その2 サフィル・アルベリーニの悔恨
9話
しおりを挟む
「……?」
「気が付いたか?サフィル。」
フッと目を開くと、無機質な声音で上から声を掛けて来たのは。
「ジーノ……」
ベッドに横になっている私を、何の感情も読み取れない無表情で見つめて来るジーノは。
「アンタのそのどっちつかずな態度、ホント、イライラする。」
急にそんな喧嘩腰で言って来るものだから。
「……何の…話だよ。」
私もつい、声を低くしたが。
ジーノは。
「だって、そうだろ?アンタはさ…殿下の命令は取り敢えず聞くけど…殿下に将来の側近として選んで頂いた癖に、全然忠誠は尽くさないし。あの公子の事も、好きなのか何なのか知らないけど、コソコソ盗み見る割に、何をするでも無いし。いい加減ハッキリしろよ。」
「……お前に、私の何が分かるんだよっ」
そんな、知った風な口を。
私だって。
しなくて済むのなら、こんな事、願い下げだ。
でも、自分が何もかもを放棄すれば、家族はどうなる?妹は?
シリル様に至っては。
ただ、遠くから拝見して、眺められればそれでいい。
少しでも、笑って、楽しく過ごされておられるのなら。
ただでさえ、こんなややこしい事態に直面している自分なのに、何が出来る訳も、無いではないか。
ずっと殿下の隣から、私の事も見ていた筈だろう。
それなのに、お前はそんな事も分からないのか。
ここ最近の殿下の私への酷い仕打ちも知っている筈なのに。
それでもジーノはそんな事を口にするから。
私はどうにも腹立たしくて仕方なかったが、ジーノが。
「知らないね、アンタの事なんて。興味も無ければ知りたくもない。アンタなんて居る必要、俺には全然分かんねーのに。でも、殿下はそうじゃないみたいだ。」
そう言って、私から視線を外したジーノが、横の方を見やると、其処には。
私の服の裾を握りしめて、ベッドに上体だけ預けて椅子に座ったまま眠りこけている殿下の姿が、目に映って。
「殿下、動かなくなったお前を見て、真っ青になって俺に泣き付いて来られたんだ。『無性に腹が立って抑えきれなかったけど、まさか、動けなくなるほどだとは思わなかったんだ。だって、アイツ…いつも俺が癇癪を起しても、平然とした顔してたからっ!どうしようジーノ……サフィルまで死んじゃったら…俺…』って。だから、あの公子が巫子を呼びに行ったみたいだったけど、俺が先に回収したんだ。何の成果も出せてない癖に、それなのに……殿下にあんな顔…させるなんて。」
……悔しい。
ジーノは、そう呟いて。
子爵家の子息としてぬくぬくと育った自分とは違い。
汚い路地裏の隅で身をかがめ、スリや盗みを働いて、その日暮らしをしていた幼少のジーノは、ガラの悪い大人に捕まり、ボコボコにされかけていた時に殿下と出会って、助けられて。
そして、自分の従者から護衛騎士へと掬い上げて貰った者だったから。
彼からすれば、あんなでも殿下はまさに救いの神そのものだ。
だから、彼は殿下の一番信頼している従者で、母君以外では一番大切にされていた。
どんなに怒りをコントロール出来ずに暴れても、その暴力がジーノに向かう事だけは無かったから。
それだけ大事にされているのに、悔しい、だなんて。
「アンタは、乞食だった俺とは違って、学院に通わせてもらって、課題まで手伝ってもらえてるのにっ!もっと何か…出来る筈だろ?!何の為に今まで勉強してきたんだよ!下働きなら、俺だってやる!だから、殿下を助ける為に、もっと真剣に動いてくれよ……っ!」
殿下に対して忠誠心の無い私など、全く信用していない筈のジーノが。
それでも、そんな私にすら救いを求める様に、言って来るから。
私はもう、それ以上何も言えなかった。
「気が付いたか?サフィル。」
フッと目を開くと、無機質な声音で上から声を掛けて来たのは。
「ジーノ……」
ベッドに横になっている私を、何の感情も読み取れない無表情で見つめて来るジーノは。
「アンタのそのどっちつかずな態度、ホント、イライラする。」
急にそんな喧嘩腰で言って来るものだから。
「……何の…話だよ。」
私もつい、声を低くしたが。
ジーノは。
「だって、そうだろ?アンタはさ…殿下の命令は取り敢えず聞くけど…殿下に将来の側近として選んで頂いた癖に、全然忠誠は尽くさないし。あの公子の事も、好きなのか何なのか知らないけど、コソコソ盗み見る割に、何をするでも無いし。いい加減ハッキリしろよ。」
「……お前に、私の何が分かるんだよっ」
そんな、知った風な口を。
私だって。
しなくて済むのなら、こんな事、願い下げだ。
でも、自分が何もかもを放棄すれば、家族はどうなる?妹は?
シリル様に至っては。
ただ、遠くから拝見して、眺められればそれでいい。
少しでも、笑って、楽しく過ごされておられるのなら。
ただでさえ、こんなややこしい事態に直面している自分なのに、何が出来る訳も、無いではないか。
ずっと殿下の隣から、私の事も見ていた筈だろう。
それなのに、お前はそんな事も分からないのか。
ここ最近の殿下の私への酷い仕打ちも知っている筈なのに。
それでもジーノはそんな事を口にするから。
私はどうにも腹立たしくて仕方なかったが、ジーノが。
「知らないね、アンタの事なんて。興味も無ければ知りたくもない。アンタなんて居る必要、俺には全然分かんねーのに。でも、殿下はそうじゃないみたいだ。」
そう言って、私から視線を外したジーノが、横の方を見やると、其処には。
私の服の裾を握りしめて、ベッドに上体だけ預けて椅子に座ったまま眠りこけている殿下の姿が、目に映って。
「殿下、動かなくなったお前を見て、真っ青になって俺に泣き付いて来られたんだ。『無性に腹が立って抑えきれなかったけど、まさか、動けなくなるほどだとは思わなかったんだ。だって、アイツ…いつも俺が癇癪を起しても、平然とした顔してたからっ!どうしようジーノ……サフィルまで死んじゃったら…俺…』って。だから、あの公子が巫子を呼びに行ったみたいだったけど、俺が先に回収したんだ。何の成果も出せてない癖に、それなのに……殿下にあんな顔…させるなんて。」
……悔しい。
ジーノは、そう呟いて。
子爵家の子息としてぬくぬくと育った自分とは違い。
汚い路地裏の隅で身をかがめ、スリや盗みを働いて、その日暮らしをしていた幼少のジーノは、ガラの悪い大人に捕まり、ボコボコにされかけていた時に殿下と出会って、助けられて。
そして、自分の従者から護衛騎士へと掬い上げて貰った者だったから。
彼からすれば、あんなでも殿下はまさに救いの神そのものだ。
だから、彼は殿下の一番信頼している従者で、母君以外では一番大切にされていた。
どんなに怒りをコントロール出来ずに暴れても、その暴力がジーノに向かう事だけは無かったから。
それだけ大事にされているのに、悔しい、だなんて。
「アンタは、乞食だった俺とは違って、学院に通わせてもらって、課題まで手伝ってもらえてるのにっ!もっと何か…出来る筈だろ?!何の為に今まで勉強してきたんだよ!下働きなら、俺だってやる!だから、殿下を助ける為に、もっと真剣に動いてくれよ……っ!」
殿下に対して忠誠心の無い私など、全く信用していない筈のジーノが。
それでも、そんな私にすら救いを求める様に、言って来るから。
私はもう、それ以上何も言えなかった。
59
あなたにおすすめの小説
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結】それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。
するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。
だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。
過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。
ところが、ひょんなことから再会してしまう。
しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。
「今度は、もう離さないから」
「お願いだから、僕にもう近づかないで…」
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる