全てを諦めた公爵令息の開き直り

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続編 開き直った公爵令息のやらかし

56話 祝福を

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「おめでとうございます!ロレンツォ殿下、ソフィア様。」
「……おめでとう、ソフィア。」
「ありがとう。」
「シリル様…お兄様……ありがとうございますっ」

春の訪れと共に程なくして……ロレンツォ殿下とソフィア・アルベリーニ子爵令嬢の婚姻式が、厳かな雰囲気の元、執り行われた。
第5王子という事や、お母君のベルティーナ第4側妃様のお立場の弱さも相まって、恐らく他の兄王子方の婚姻式よりは些か華やかさには欠けるのだろうが、それでも、きちんとアデリートの直系王族としての式を挙げられたのだ。
心の内では殿下を良く思わない者も居るかもしれないが、それでも式に参列した主だった貴族方は、新たに契りを交わされた若い二人に賛辞を送り、礼儀正しく接していた。

予定通りに式が終わり、お互い気を遣いたくない新郎新婦のお二人は、披露宴はごくごく身内の者だけでのささやかなものになさったので、僕らはつい気安い心地でお二人を祝って楽しんでいた。
誰よりも弱いお立場でご苦労されながら、ようやくここまで来られた殿下とソフィア様は、歓びと安堵が入り混じった笑顔で、互いに微笑み合われている。
その仲睦まじい様子を、母ベルティーナ様は嬉しさとほんの少しの寂しさをもって、見守っておられた。

そして……。

「ソフィア、おめでとう!」
「……ランベルト兄様ぁ!」

ひと際明るい声で祝福の声を掛けられて、ソフィア様の表情がパッと明るくなった。
可愛い妹の晴れ姿に歓び勇んでやって来たのは、礼式用の騎士の格好をした彼女の兄君だった。
そして、その兄君の後ろからやって来られたのは、彼女の実家アルベリーニ子爵家のご家族方で。

しばらく家族に囲まれて、互いに歓びを分かち合った後、僕らの方にも来て下さった。

「シリル様、私の家族を紹介させて下さいませ。……私の兄で長男の現子爵家当主、ファウスティーノ・アルベリーニとその奥方のティーナ・アルベリーニ子爵夫人、その娘のビアンカに息子のフィオリーノで…」

幸せな笑顔を綻ばせているソフィア様は、集まられたアルベリーニ家の紹介をして下さった。
先ずは現当主一家の紹介からで、厳格な雰囲気が漂う子爵のファウスティーノ様が当主らしく真面目な顔をして頭を下げて礼をして下さり、僕も幾分緊張しながら礼を返した。

「私の姉でヴィオーラ伯爵家に嫁いだ長女のオルテンシア・ヴィオーラ伯爵夫人。そして、改めてもう一度ご紹介させて頂きますね。もう一人の兄で、騎士団に所属している3男のランベルトです。」
「こんにちは!シリル様とは夏ぶりですよね。お元気そうで何より。」
「ランベルト卿もご健勝の様で。お久しぶりです。」

サフィルのすぐ上の兄君であるランベルト卿とは、僕がヴェネトリア学園に通い始めてしばらくした頃に、サフィルから紹介されて。
夏季休暇でエウリルスへ帰国する際、王都の城門から見送って下さって以来だった。
ご本人の気さくな性格も相まって、些か気安い雰囲気で久々の邂逅を喜んでいると。

「…あ、お母様!……シリル様、こちらが私の母でチェチーリア・アルベリーニ前子爵夫人です。」
「………貴女が、ソフィア様やサフィルのお母様……。」
「初めまして、クレイン公子様。チェチーリア・アルベリーニと申します。」

アルベリーニ家を支える前子爵夫人で、サフィル達のお母君であられる凛とした眼前の女性は、深くお辞儀をして下さり、僕も同じく深く礼をして。
改めて目にすると、その女性は一族の母らしく堂々としつつも、穏やかな笑みを向けて下さる。

「初めまして、シリル・クレインと申します。ご令息のサフィル・アルベリーニ卿には、大変お世話になっております。ご挨拶が遅れ、申し訳ございませんでした。これを機に、どうぞお見知りおき下さい。」
「そんな、それはこちらの方こそですよ。私共は貴方様に本当に助けて頂きましたのに、お礼どころかご挨拶すら今になってしまい、申し訳ない限りです。こうして娘のソフィアが無事、ロレンツォ殿下との婚姻を果たせたのも、貴方様のお力添えあっての事と存じております。本当に……ありがとうございました。」

一族の長として気丈に振舞いつつも、末娘の幸せそうな笑顔を目に出来て、彼女はその目じりに薄っすらと涙を滲ませておられた。
それから、長兄のファウスティーノ様も同じ様に礼を述べて下さり。
久しぶりの再会に、ご家族は皆とても喜ばれていた。
こうして家族水入らずで会えたのは本当に久しぶりで、子爵家前当主のデルフィーノ・アルベリーニ様のお葬式以来だったそうだから。
前回の、悲しい再会とは打って変わって、今回は誠におめでたい席での再会に、皆様涙ぐんで喜びを分かち合っておられた。

そうして互いに挨拶を交わした後、主役の花嫁であるソフィア様は花婿のロレンツォ殿下に呼ばれて、一緒にヴァレンティーノ王太子殿下夫妻に挨拶に行かれ、一旦この場を離れられた。

この前、殿下にお願いした件だったが、そんな事をするまでも無く、サフィルは家族の方へ近寄ろうとはせず、殿下の傍に付き従ったままでいる。
むしろ、ソフィア様を呼び寄せて下さっていた。

「……少し、宜しいでしょうか。」

こうしてご家族全員が集まるというのは、なかなかない機会だから。
どうしても、伝えなければならない……大切な話を。
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