逃げるための後宮行きでしたが、なぜか奴が皇帝になっていました

吉高 花

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は?

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「最初はそうだったんだ。でもなんか今回は妙に早くお鉢が回ってきたから皇帝になることにした。その方がお前を探しやすいだろうと思ったしな。先に言っとくがな、俺はお前をずっと探していたんだぞ」

「え? なにそれ知らない。私が知っているのは、前の人生であなたが綺麗な奥さんと幸せそうに仲睦まじくしていた姿だけよ。鼻の下伸ばしてたくせに」

「なんだそれ。ああ、それ前の人生だな? 繰り返す前の。お前もこの人生二回目か? 俺は二回目だ。前回は失敗したからな、盛大に文句言いながら死んだら、どうやらやり直しになったようだ」

「は?」

 やり直し、って文句言ったら出来るものなの? おかしくない?

 しかし目の前の男は、なんだか軽い感じであり得ないことを語るのだった。

「あのトラックの時も、俺はそれはもう後悔して死んだんだ。お前との約束があったからな! あれが宙ぶらりんになったから、大後悔しながら死んだんだよ。そうしたら、次に気がついたらこの世界に生まれ変わっていてさ」

「は?」

「なのに何処を探してもお前はいなくて。なんか昔から付き纏ってくる女がそれっぽいことを言ったりするから、もしかしてお前が半端に記憶をなくしているだけで中身はお前なのか? とかずっと疑っててさ。そのうちに先代皇帝がそいつと結婚しろって言いだしたから、どうせそんなことになるような縁だったらやっぱり記憶はなくてもお前なんだろうと思って、素直に結婚したんだよ。でもやっぱりどうしてもしっくりこなくて。また死ぬ直前に思ったのは、結局あいつはお前じゃなかった」

「はあ?」

 私は思わず目を剥いて、そしてそんな私を見たこいつは、ちょっとだけ気まずそうな顔をした。

「だからそういう顔をするなよ……俺が間違えたんだ。あいつは昔やたら意味深なことを言ったりしてたから、もしかして、とか思っちまったんだよ。だけどこの前お前に偶然会ったときに確信した。本物のお前なら一目でわかると」

 それは、あの白昼の往来でばったり出会ったときのことだろう。
 私も一目でわかったよ。瞬時に確信したさ。
 でもね。

「……なに嬉しそうに言っているのよ。この妻帯者が」

 そう、その事実は変わらないのだ。

「だから間違えたんだって……悪かったよ。でもあれだけの腐れ縁だったんだぞ、俺たち。しかもやり直すために生まれ変わったはずなのに、なんでいつまでも出会えないんだって思うだろ。だから、実はお前の方には記憶がなくて、完全に別人に生まれ変わっているのかと思っちまったんだよ」

「ふうん。でもそれで幸せだったんなら良かったじゃない」

 こいつの幸せそうな笑顔の記憶がまた蘇る。私はあの顔がどうしても忘れられなかった。そしてあの時のショックな気持ちも。

 しかしこの男は言った。

「幸せだったさ。お前と結婚したと思っていた間はな」

「なにそれ」

「でもまた同じ年に死んでしまった。その時俺は確信したんだ。やっぱりあいつはお前じゃあなかったんだと。そんでまた盛大に文句言いながら死んだら、今度はやり直しになった」

「だからそんな理由でやり直せるものなの!? 人生だよ!?」

「だって俺はお前とやり直す人生を願って転生したんだぞ! なのに出会いもしないってなんだ! 話が違うじゃねえか! ふざけんな! って散々文句言いながら死んだらまた同じ人間に生まれたってことは、そういうことだろ」

「なにそれ、そして私は毎回それに付き合わされて生まれ変わっていたわけ!?」

「そうだな。でもやっと見つけた。だから俺たち、今からやり直そうぜ」

「ふざけんな!」

 私は思わず叫んでしまった。
 なんだそれ。そんな理由で私は生まれ変わって、そしてまたやり直しているの!?

「主上、どうされましたか?」

 おっと、大声を出したから宦官が来てしまった……。

「なんでもない。もう下がっていいぞ。こいつは戻さないで朝までいさせるから」
「御意」

「ちょっと!」

 私はびっくりして止めようとしたけれど、宦官はあっという間にまた存在を消してしまった。
 そしてこいつは当たり前のような顔をして言うのだ。

「俺は忙しいんだよ。昼間は仕事が山積みなんだ。ゆっくり話せるのは夜くらいしかない」

「いやでも、私は今日は『こいつつまんなかった。捨てる』って言ってもらおうと思っていたのに! なのに朝までとか言っちゃったら、皇帝に気に入られたと判断されちゃうじゃないか! 下手すると寵愛がーとか言われちゃうやつじゃないか!!」

 私は真っ青になった。

 待って! 私は! 家に帰りたいの!
 後宮の鳥の籠なんてまっぴらごめんなのよ!!

 というのにこいつは。

「寵愛でいいだろ。なにしろずっと探してやっと見つけたんだから。これからはずっと一緒にいてくれるだろ?」

 って、なにを嬉しそうにしてやがるんだ!

「なに言ってんの! 思い出話くらいなら付き合うけど、現実を見ろ! 私はあんたの百何番目かの妻になんてなる気はないんですからね! 勝手にやってろ、こんなに後宮に美女を並べて勝手なことを言ってるんじゃない!」

 私はもうやけくそになって、声の限りに叫んだ。
 そうだよ、今後宮には、もう百二人のこいつのお妃がいるんだよ!

 私はあんたの百三番目になんてなる気はない!!
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