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再会と別れのキス
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「愛しています、ロイト。今までも、これからも」
「生まれ変わってもまた、こんな俺に会いに来てくれてありがとう」
「私の方こそ、気付いて下さって、ありがとうございます」
「愛している。今までも、これからも……」
寂しそうに、ロイトがティアとして声を発したナティスと、同じ言葉を繰り返す。
ロイトとティアにとって、これが最期の言葉なのだと、お互いがわかっていた。
どんなに願ったって、時が止まってしまったティアに、この先の未来はない。
ロイトがナティスの中に存在するティアを見つけ出し、真実を受け入れる覚悟をした事で、二人は再び別れを体験しなければならなくなった。
ナティスがティアとして、この先を生きるという選択を出来ないわけじゃない。
けれど姿形の違う状態で行われるそれは、本物のティアがもう居ない事をより強調するだけだろう。
そして、ナティスという新しく生まれた人間を、殺してしまう事でもある。
それでは誰も救われない。
だからナティスは、どんなに望まれようが懇願されようが、この先の未来をティアとして生きるつもりはなかった。
けれどあの日のように、突然引き裂かれる様な最期ではなく、きちんと終わらせる事は出来る。
この先、ロイトの幸せを祈る気持ちは、今度こそ伝えられる。
あの日、掴めなかったロイトの手を今度こそしっかりと掴んで、闇の中から引っ張り上げる機会を得たのは、とんでもない奇跡だ。
「泣かないで。私はいつでも、貴方の味方だから。どうか、幸せに……」
にこりと微笑んで、あの日言えなかった言葉を声に乗せる。
今度こそロイトに届く様にと、強く祈りを込めた言葉は、ふわりと落ちてきた唇に飲み込まれた。
奪うのとは違う、まるでティアの言葉を自分だけの物にしようとするそのキスは、とても優しい。
(ロイトはきっと、これから前へ進んでくれる)
言葉として聞くことは出来なかったけれど、そんな確信がある。
ティアの記憶や想いが、ナティスの中から消えてしまうわけではない。それは、ロイトも理解しているだろう。
それでも、ロイトは結局一度も、ナティスにこの先ティアとして生きて欲しいとは望まなかった。
だからこそ、ロイトにとって、これがティアとの再会と別れの口付けだと理解出来た。
ナティスがただ黙って、ロイトの優しいキスをティアとして受入れる事を選んだのは、それが伝わってきたからだ。
一瞬の様で永遠にも感じるその時間から解放されると、ロイトは夢から覚めた様に、普段通りに戻っていた。
どこかすっきりとした表情をしていたから、きちんとティアとの別れを受け入れたのだとわかる。
もう、その目は暗く濁ってはいなかったし、ナティスをナティスとして見てくれていた。
離れていくロイトをじっと見つめると、どこか照れた様な表情をしている。
ティアとの別れを、ナティスに見られたのが恥ずかしい、という複雑さが滲み出ていた。
確かに恋人同士の口付けを、間近で見るどころか体験する事になってしまったけれど、いくら何でもティアがナティスの一部となっている今、完全に別の人間として目を背けておく事は不可能だ。
実質的に、二人の逢瀬を覗き見るような状況になってしまったのは、不可抗力として許容して頂きたい。
これ以上触れていると、その優しい目はナティスに向けられているのではないかと、勘違いしてしまいそうだ。
そっと握っていた手を放そうと力を抜こうとした瞬間、逆にロイトにぎゅっとその手を握りしめられた。
ナティスはティアの生まれ変わりではあるけれど、ティアとして生きるつもりはない事は、十分に伝わっているはずだ。
そしてたった今、ロイトはティアときちんと最後の別れを済ませた。それもわかる。
だからきっと、ロイトの要件は終わったはずで、ナティスがもうここに留まる理由はない様に思われた。
(どうして、まだ私を引き止めようとするの?)
ぎゅっと握られた両手に視線を落とし、再び疑問と共に顔を上げると、ロイトはまだ照れた表情のままだった。
そして何かを決意したかのように、一歩距離を詰める。
先程までキスをしていた二人の間に、そう間隔は空いていなかったから、その距離は抱きしめ合っていないだけで、触れあいそうな位に近くなった。
「この先、俺がナティスを愛したら、ティアは気を悪くするだろうか?」
真剣な表情で問われた言葉が、ナティスの胸を抉る。
その愛の告白は、一体誰に向けられたものなのか。
「生まれ変わってもまた、こんな俺に会いに来てくれてありがとう」
「私の方こそ、気付いて下さって、ありがとうございます」
「愛している。今までも、これからも……」
寂しそうに、ロイトがティアとして声を発したナティスと、同じ言葉を繰り返す。
ロイトとティアにとって、これが最期の言葉なのだと、お互いがわかっていた。
どんなに願ったって、時が止まってしまったティアに、この先の未来はない。
ロイトがナティスの中に存在するティアを見つけ出し、真実を受け入れる覚悟をした事で、二人は再び別れを体験しなければならなくなった。
ナティスがティアとして、この先を生きるという選択を出来ないわけじゃない。
けれど姿形の違う状態で行われるそれは、本物のティアがもう居ない事をより強調するだけだろう。
そして、ナティスという新しく生まれた人間を、殺してしまう事でもある。
それでは誰も救われない。
だからナティスは、どんなに望まれようが懇願されようが、この先の未来をティアとして生きるつもりはなかった。
けれどあの日のように、突然引き裂かれる様な最期ではなく、きちんと終わらせる事は出来る。
この先、ロイトの幸せを祈る気持ちは、今度こそ伝えられる。
あの日、掴めなかったロイトの手を今度こそしっかりと掴んで、闇の中から引っ張り上げる機会を得たのは、とんでもない奇跡だ。
「泣かないで。私はいつでも、貴方の味方だから。どうか、幸せに……」
にこりと微笑んで、あの日言えなかった言葉を声に乗せる。
今度こそロイトに届く様にと、強く祈りを込めた言葉は、ふわりと落ちてきた唇に飲み込まれた。
奪うのとは違う、まるでティアの言葉を自分だけの物にしようとするそのキスは、とても優しい。
(ロイトはきっと、これから前へ進んでくれる)
言葉として聞くことは出来なかったけれど、そんな確信がある。
ティアの記憶や想いが、ナティスの中から消えてしまうわけではない。それは、ロイトも理解しているだろう。
それでも、ロイトは結局一度も、ナティスにこの先ティアとして生きて欲しいとは望まなかった。
だからこそ、ロイトにとって、これがティアとの再会と別れの口付けだと理解出来た。
ナティスがただ黙って、ロイトの優しいキスをティアとして受入れる事を選んだのは、それが伝わってきたからだ。
一瞬の様で永遠にも感じるその時間から解放されると、ロイトは夢から覚めた様に、普段通りに戻っていた。
どこかすっきりとした表情をしていたから、きちんとティアとの別れを受け入れたのだとわかる。
もう、その目は暗く濁ってはいなかったし、ナティスをナティスとして見てくれていた。
離れていくロイトをじっと見つめると、どこか照れた様な表情をしている。
ティアとの別れを、ナティスに見られたのが恥ずかしい、という複雑さが滲み出ていた。
確かに恋人同士の口付けを、間近で見るどころか体験する事になってしまったけれど、いくら何でもティアがナティスの一部となっている今、完全に別の人間として目を背けておく事は不可能だ。
実質的に、二人の逢瀬を覗き見るような状況になってしまったのは、不可抗力として許容して頂きたい。
これ以上触れていると、その優しい目はナティスに向けられているのではないかと、勘違いしてしまいそうだ。
そっと握っていた手を放そうと力を抜こうとした瞬間、逆にロイトにぎゅっとその手を握りしめられた。
ナティスはティアの生まれ変わりではあるけれど、ティアとして生きるつもりはない事は、十分に伝わっているはずだ。
そしてたった今、ロイトはティアときちんと最後の別れを済ませた。それもわかる。
だからきっと、ロイトの要件は終わったはずで、ナティスがもうここに留まる理由はない様に思われた。
(どうして、まだ私を引き止めようとするの?)
ぎゅっと握られた両手に視線を落とし、再び疑問と共に顔を上げると、ロイトはまだ照れた表情のままだった。
そして何かを決意したかのように、一歩距離を詰める。
先程までキスをしていた二人の間に、そう間隔は空いていなかったから、その距離は抱きしめ合っていないだけで、触れあいそうな位に近くなった。
「この先、俺がナティスを愛したら、ティアは気を悪くするだろうか?」
真剣な表情で問われた言葉が、ナティスの胸を抉る。
その愛の告白は、一体誰に向けられたものなのか。
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