実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら

文字の大きさ
28 / 103
俺は冒険者として生きている

19

しおりを挟む



 「……ツヤツヤだね。」
 「いやぁ凄いね、秘薬に使われる材料ってやつはさ…ははは……。 」
 「うわっ、もちんもちんだぁ。」
 「お陰で毎日なでくり回されて大変なんだ。」




 俺が大怪我をしたって話を聞いたマルさんがお見舞に来てくれた。まだ包帯は取れないけど、あの秘薬の材料で作られた黒くて臭い薬…通称ドブ薬(と、俺は勝手に名付けた)を飲まされ続けて1週間もすれば、再生力がばんばん働いて肌質が赤ちゃんみたいになっていた。なんなら髪も綺麗になった。

 普通顔の俺ですらなんか俳優になった気持ちにさせられる美肌に戸惑っていると、毎日もにもにと保護者達が触りに来る。

 とくに頬の弾力が気持ち良いらしく、数時間おきに揉まれている。俺に逃げ場はないのだ…。




 「まぁさ、元気そうで良かったよ。」
 「ご心配おかけしましてすいませんでした。」
 「しっかし、君いつの間にあんな立派な男達引っ掛けたの?君、αだよね?αより屈強男子捕まえてどうするつもり?」
 「いやあれ保護者枠だから…。」
 「でも若いよね?傍から見たら保護者なんて隠し事の言い訳にしか聞こえないよ。」
 「隠し事なんて誰でも持ってんだから深入りしてくれるな。あいつら暴れると手に負えないんだからな!」




 暴れられてこんな怪我しました!なんてマルさんに言えるわけなく俺は複雑な気持ちで口を紡ぐと、空気を読んだマルさんからの質問はそこで切れる。俺は別に特別扱いしてほしいわけでもないから、保護者達の正体がバレたことによって不自由な暮らしになるならきっとこの街から出ていくだろうな。

 いざとなれば人里でなくともいいわけで。暮らそうと思えばどこでも良いような気がしてくる。魔法でなんとでもなる。

 マルさんに頬をもにもにされながら考えていると、不意に頭上が暗くなったので何事かと視線を向ければ、すぐ近くにコクヨウがいて俺を見下ろしていた。




 「うわっ、急に現れるなよ。驚いたわ。」
 「昼飯の時間だ。」
 「普通に声かけてくれよ。マルさんビックリして固まっちゃったじゃん。」
 「危害は加えておらん。」
 「はいはい、マルさんお昼ご飯食べていく?今日はハクアが作ったから肉だと思われる。」
 「……いや、お嫁さんが待っててくれるから帰る。早く治って仕事出来るといいねアル。」
 「もう少しの辛抱だから頑張る。」




 ドブ薬さえなけりゃこんな怪我へっちゃらなんだけどね。すっかり怪我をした場所から魔力の名残は消えて、もうほぼただの傷なのである。

 魔力が中和されつつあるのに、まだドブ薬飲ませるからこんな俺はプルンプルンなんだな…もちもちは嫌いじゃないけどね。

 マルさんと別れの挨拶をし、コクヨウが見送ってくれる。保護者達はすっかり大森林ギルドでは馴染んでいるようでマルさんとも仲良しだ。

 俺だけがあの討伐任務から置いてけぼりな気がして寂しいので気合いで早く治さないとなぁ。




 「少し動けるようならキッチンに行くと良い。ハクア様が張り切って肉を刻んでおられたからな。」
 「また離乳食みたいな噛みごたえないご飯じゃなきゃ良いなぁ…。」



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜

明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。 その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。 ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。 しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。 そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。 婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと? シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。 ※小説家になろうにも掲載しております。

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

愛などもう求めない

一寸光陰
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

処理中です...