五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人

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第35話 正規手順

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 直接の依頼を突っぱねてから数日後。
 工房の扉が開き、分厚い羊皮紙の束を抱えたリュシアンが入ってきた。
 彼の外套からは、外の冷たい空気と、かすかな枯れ葉の匂いがする。

「エリシア。救恤院の本部を経由して、辺境から正式な発注書が届きました」

 リュシアンがテーブルに広げた書類には、ギルドと救恤院の認印がしっかりと押されていた。
 無理な納期設定もなく、前金も規定通りの額が、正規のルートで振り込まれている。
 そして書類の束の最後に、一枚の短い手紙が添えられていた。

 『規定を無視した非合理な要求をしたこと、謝罪する。手続きはすべて救恤院に一任した。領民のため、どうかお願いする。ロルフ』

 あの傲慢だった男が、自らの非を認め、「お願いします」と頭を下げてきたのだ。
 エリシアは手紙の文字を指先でそっと撫でた。

「……ふふっ」

 自然と、小さな笑みがこぼれる。
 かつては命を削り合うような関係だった相手と、今は確固たる制度の壁を挟んで、健康的な取引ができている。
 お互いの境界線を守りながら、必要な時だけ協力し合う。この関係の安定感が、ひどく心地よかった。

「これで、心置きなく仕事に取り掛かれますね」

 リュシアンが穏やかに微笑み、ティナの作業台の進捗を確認しに行く。
 ティナもすっかり工房の空気に馴染み、不器用ながらも一生懸命に糸を紡いでいた。
 すべてが、静かで温かい日常として回っている。

「そうだ、エリシア」

 振り返ったリュシアンの表情が、少しだけ真剣なものに変わった。

「来月、クララが入学する初等学校の面談がありますね。……準備は進んでいますか?」

 その言葉に、エリシアの指先がピクリと止まった。

♦︎♦︎♦︎
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