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第二章:侮辱と決別
第14話 王都よ、さらば
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ゲオルグの傷の手当てを終え、私たちは再び故郷への道を急いだ。彼の傷は幸い深くはなかったが、これ以上の戦闘は避けなければならない。追手を警戒し、私たちは街道を避け険しい山道を選んで進んだ。
夜通し馬を走らせ、夜が白々と明け始める頃、私たちは視界が開けた高い丘の上に出た。そこからは私たちが脱出してきたエーデルラント王国の王都が、その全景を見せていた。
朝日を浴びて、白亜の城壁と天を突くような尖塔が美しく輝いている。まるでおとぎ話に出てくるような壮麗な光景だ。あの中に、あれほどまでの欲望と陰謀が渦巻いているとは誰も思うまい。
馬を止め、私は黙ってその光景を見つめていた。仲間たちも何も言わず、私の隣で馬を止める。
ほんの数日前まで、私はあの都の中にいた。偽りの婚約者として息を殺して生きていた。それがまるで遠い昔のことのように感じられる。
(……色々なことがあった)
初めて王都に来た時の胸のときめき。アルフォンス殿下との冷え切った関係。他の令嬢たちからの心無い陰口。唯一の光だったエリオット殿下との出会い。そして私の誇りがズタズタに引き裂かれた、あの夜会。
楽しかった思い出などほとんどない。あったのは屈辱と我慢、そして諦めだけだった。
それでもあの都は、私がこの国の未来の王妃として生きるはずだった場所。その未来を、私は自らの手で捨て去った。いや、違う。捨てたのではない。『選んだ』のだ。偽りの栄光よりも、過酷だが真実の戦いを。
「……ヴィクトリア様」
ゲオルグが心配そうに私の顔を覗き込む。彼の肩にはまだ痛々しい包帯が巻かれていた。
「もう、よろしいのですか?あの都に、未練など……」
彼の問いに、私は静かに首を振った。そして自分でも驚くほど晴れやかな気持ちで、答えることができた。
「未練なんて欠片もないわ。あるのは、これからやるべきことへの覚悟だけよ」
私は馬上から、ゆっくりと王都に向かって頭を下げた。それは別れの挨拶。そして過去の自分との、決別の儀式だった。
(さようなら、か弱かった私) (さようなら、ただ耐えることしか知らなかった私)
顔を上げた時、私の瞳にもう迷いはなかった。あるのはローゼンベルクの次期当主として、そしてこの国の腐敗を正す者としての、強い意志の光だけだ。
「さあ、行きましょう。私たちの故郷へ」
私の声は夜明けの澄んだ空気に、凛と響いた。仲間たちは力強く頷き、再び馬の腹を蹴った。
私たちは王都に背を向け、東へと向かう。太陽が昇る、その方角へ。それはまるで私たちの未来を暗示しているかのようだった。
馬を走らせながら、私はこれからの戦いに思いを馳せる。王都に戻ったルドルフは宰相に敗北を報告するだろう。リヒター宰-相とアルフォンスは私の想像を絶する怒りに燃え、ローゼンベルク家を潰すため本格的に動き出すはずだ。
おそらく正規軍を動かし、私たちの領地へ侵攻してくる。そうなればこれはもう、ただの権力闘争ではない。国を二分する内乱の始まりだ。
(望むところよ)
私は戦いを恐れない。私には王国最強と謳われる父がいる。私に絶対の忠誠を誓ってくれる精強な騎士団がいる。そして何よりも、守るべき愛する領民たちがいる。
負けるはずがない。
風が私の髪を激しく揺らす。その風が王都の匂いを、私の記憶から全て運び去ってくれるようだった。
王都よ、さらば。
私は心の中で、はっきりとそう告げた。もう二度と振り返らない。私の進む道は、前にあるのだから。
次に私が、あの都の名を口にする時。それはローゼンベルクの軍勢を率いて王都の城門に、降伏勧告を突きつける時だ。その日まで、しばしの別れ。
朝日が私たちの行く手を黄金色に照らし出していた。それは新しい時代の幕開けを告げる、希望の光に見えた。私たちの本当の戦いは、今始まったばかりなのだ。
夜通し馬を走らせ、夜が白々と明け始める頃、私たちは視界が開けた高い丘の上に出た。そこからは私たちが脱出してきたエーデルラント王国の王都が、その全景を見せていた。
朝日を浴びて、白亜の城壁と天を突くような尖塔が美しく輝いている。まるでおとぎ話に出てくるような壮麗な光景だ。あの中に、あれほどまでの欲望と陰謀が渦巻いているとは誰も思うまい。
馬を止め、私は黙ってその光景を見つめていた。仲間たちも何も言わず、私の隣で馬を止める。
ほんの数日前まで、私はあの都の中にいた。偽りの婚約者として息を殺して生きていた。それがまるで遠い昔のことのように感じられる。
(……色々なことがあった)
初めて王都に来た時の胸のときめき。アルフォンス殿下との冷え切った関係。他の令嬢たちからの心無い陰口。唯一の光だったエリオット殿下との出会い。そして私の誇りがズタズタに引き裂かれた、あの夜会。
楽しかった思い出などほとんどない。あったのは屈辱と我慢、そして諦めだけだった。
それでもあの都は、私がこの国の未来の王妃として生きるはずだった場所。その未来を、私は自らの手で捨て去った。いや、違う。捨てたのではない。『選んだ』のだ。偽りの栄光よりも、過酷だが真実の戦いを。
「……ヴィクトリア様」
ゲオルグが心配そうに私の顔を覗き込む。彼の肩にはまだ痛々しい包帯が巻かれていた。
「もう、よろしいのですか?あの都に、未練など……」
彼の問いに、私は静かに首を振った。そして自分でも驚くほど晴れやかな気持ちで、答えることができた。
「未練なんて欠片もないわ。あるのは、これからやるべきことへの覚悟だけよ」
私は馬上から、ゆっくりと王都に向かって頭を下げた。それは別れの挨拶。そして過去の自分との、決別の儀式だった。
(さようなら、か弱かった私) (さようなら、ただ耐えることしか知らなかった私)
顔を上げた時、私の瞳にもう迷いはなかった。あるのはローゼンベルクの次期当主として、そしてこの国の腐敗を正す者としての、強い意志の光だけだ。
「さあ、行きましょう。私たちの故郷へ」
私の声は夜明けの澄んだ空気に、凛と響いた。仲間たちは力強く頷き、再び馬の腹を蹴った。
私たちは王都に背を向け、東へと向かう。太陽が昇る、その方角へ。それはまるで私たちの未来を暗示しているかのようだった。
馬を走らせながら、私はこれからの戦いに思いを馳せる。王都に戻ったルドルフは宰相に敗北を報告するだろう。リヒター宰-相とアルフォンスは私の想像を絶する怒りに燃え、ローゼンベルク家を潰すため本格的に動き出すはずだ。
おそらく正規軍を動かし、私たちの領地へ侵攻してくる。そうなればこれはもう、ただの権力闘争ではない。国を二分する内乱の始まりだ。
(望むところよ)
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負けるはずがない。
風が私の髪を激しく揺らす。その風が王都の匂いを、私の記憶から全て運び去ってくれるようだった。
王都よ、さらば。
私は心の中で、はっきりとそう告げた。もう二度と振り返らない。私の進む道は、前にあるのだから。
次に私が、あの都の名を口にする時。それはローゼンベルクの軍勢を率いて王都の城門に、降伏勧告を突きつける時だ。その日まで、しばしの別れ。
朝日が私たちの行く手を黄金色に照らし出していた。それは新しい時代の幕開けを告げる、希望の光に見えた。私たちの本当の戦いは、今始まったばかりなのだ。
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