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第三章:獅子の覚醒
第29話 国境の守り
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新兵器の導入により我がローゼンベルク軍の戦力は飛躍的に向上した。王都の正規軍と正面からぶつかり合っても、もはや負ける気はしない。しかし私の心には、まだ一つだけ懸念が残っていた。
それは我が領地の西側に国境を接する、隣国グリューネヴァルト王国との関係だ。グリューネヴァルト王国は長年に渡りエーデルラント王国と緊張関係にある。もし私たちが王都との内乱に突入したその隙を突いて彼らが我が領地に侵攻してくるようなことがあれば、私たちは二正面作戦という最悪の事態に陥ってしまう。
王都のリヒター宰相も、おそらく同じことを考えているはずだ。彼はきっとグリューネヴァルト王国に密使を送り、我々の背後を突くように唆すだろう。
(……先手を打たなければ)
私は決断した。宰相が動く前に私自身がグリューネヴァルト王国と交渉の場を持つのだと。
「……ヴィクトリア。お前、正気か?」
私の計画を打ち明けると、父は心底驚いた顔をした。
「グリューネヴァルトの現国王フリードリヒは、油断ならん男だぞ。『狡猾狐(こうかつぎつね)』の異名を持つ一筋縄ではいかん相手だ。そんな男と交渉するなど危険すぎる」
「分かっております、父上。しかしこのまま手をこまねいていては、いずれ背後から刺されることになる。危険を冒してでも後顧の憂いは断っておくべきですわ」
私の揺るぎない決意に、父は深くため息をついた。
「……分かった。お前がそこまで言うのなら止めはせん。だが必ず屈強な護衛を連れていくのだぞ」
「いいえ、父上。護衛はコンラートと他数名だけ。大軍を率いていけばかえって彼らを刺激してしまいます。私は誠意を以て話し合うつもりですわ」
数日後、私はコンラートとわずか十名の騎士だけを連れてグリューネヴァルト王国との国境へと向かった。国境に定められた中立地帯の古い砦で、フリードリヒ王と会見する約束を取り付けたのだ。
砦に到着すると、すでにグリューネヴァルトの物々しい鎧に身を固めた騎士たちが私たちを待ち構えていた。その敵意に満ちた視線が突き刺さる。
やがて砦の謁見の間に通された。玉座には年の頃四十代半ば、痩身で神経質そうな一人の男が座っていた。彼こそが『狡猾狐』フリードリヒ王。その切れ長の瞳は獲物を品定めするかのように、私をじっとりと見つめている。
「……ほう。貴殿が噂の『戦場の銀薔薇』か。思ったよりも可愛らしい姫君ではないか。戦場よりも舞踏会の方がお似合いに見えるがな」
フリードリヒ王は皮肉のこもった笑みを浮かべた。典型的な揺さぶりの手口だ。
「お褒めに預かり光栄ですわ、陛下。ですが私はもう、舞踏会で扇を振るう趣味はございませんの。剣を振るう方が性に合っております」
私もにっこりと笑みを返し、彼の挑発を受け流した。私のその堂々とした態度に、フリードリヒ王は少し意外そうな顔をした。
「……ふん。口だけは達者なようだな。で、本日は何のご用かな?我が国と一戦交えたいというのであれば、いつでもお相手するが?」
「とんでもない。私は戦ではなく、平和を結びに来たのです」
私は単刀直入に本題を切り出した。
「ご存知の通り、我がローゼンベルクは今、エーデルラント王国の中央と戦っております。これは我々の未来を懸けた正義の戦い。……この内乱に乗じて陛下が我が領地に兵を進めるおつもりがないことを、確かめさせていただきたく参上いたしました」
私のあまりに率直な物言いに、フリードリヒ王は目を細めた。
「……面白いことを言う。つまり我々に手を出すなと、そう警告しに来たというわけか?」
「いいえ。警告ではありません。『提案』ですわ」
私は懐から一枚の羊皮紙を取り出した。それは私が起草した条約案だ。
「ここに『相互不可侵条約』の締結を提案いたします。我々がエーデルラント王国の内乱を収めている間、グリューネヴァルト王国は我が領地に一切手出しをしない。……その見返りとして」
私はそこで一度言葉を切った。フリードリヒ王がゴクリと喉を鳴らすのが分かった。
「……我々がエーデルラント王国の実権を握った暁には、長年両国の係争地となっている、あの『鉄鉱石』が豊富に採れる西部の丘陵地帯、その採掘権の半分を貴国にお譲りいたしましょう」
「な……!?」
私の破格の提案に、フリードリヒ王は玉座から身を乗り出した。あの丘陵地帯は両国にとって、喉から手が出るほど欲しい宝の山だ。それを半分譲る、と。
「……正気か、姫君。そのようなこと、お主の一存で決められることではあるまい」
「ええ。今の私の一存では決められません。しかし、いずれエーデルラントの実権を握る未来の私ならば可能ですわ。これは未来への投資。信じるか信じないかは、陛下、あなた次第です」
フリードリヒ王は腕を組み、深く考え込んでいる。彼の狡猾な頭脳が猛烈な勢いで損得勘定をしているのが見て取れた。
エーデルラントの内乱に介入すれば、確かに漁夫の利を得られるかもしれない。しかし相手はあの王国最強のローゼンベルク軍だ。下手をすれば大火傷を負うことになる。
しかしこの提案を受け入れれば、一切血を流すことなく長年の懸案だった鉄鉱石の利権の半分が手に入るのだ。
「……ふ、ふははは……!はっはっはっは!」
やがてフリードリヒ王は、腹を抱えて笑い出した。
「……面白い!実に面白いぞ、姫君!お主、気に入った!ゲルハルト公はとんでもない傑物を娘に持ったものだな!」
彼は立ち上がると、私に手を差し出した。
「よかろう!その提案、乗った!我がグリューネヴァルト王国は、貴殿らの革命が終わるまで静観を約束しよう。いや、むしろ影ながら応援させてもらうとしようか!」
私はその手を強く握り返した。
「……感謝いたします、陛下。賢明なご判断ですわ」
こうして私は、王都の貴族には決して真似のできない、辺境の実力者同士だからこそ可能な大胆な外交によって、後顧の憂いを完全に断ち切ることに成功した。
砦を後にする私たちを、グリューネヴァルトの騎士たちが今度は敬意のこもった眼差しで見送っていた。狡猾狐を手玉に取った若き戦姫。私の名はこの日を境に、隣国にまで轟くことになったのだ。
これで全ての準備は整った。私たちはただ一つの敵――王都だけを見据えて戦うことができる。来るべきその日のために。
それは我が領地の西側に国境を接する、隣国グリューネヴァルト王国との関係だ。グリューネヴァルト王国は長年に渡りエーデルラント王国と緊張関係にある。もし私たちが王都との内乱に突入したその隙を突いて彼らが我が領地に侵攻してくるようなことがあれば、私たちは二正面作戦という最悪の事態に陥ってしまう。
王都のリヒター宰相も、おそらく同じことを考えているはずだ。彼はきっとグリューネヴァルト王国に密使を送り、我々の背後を突くように唆すだろう。
(……先手を打たなければ)
私は決断した。宰相が動く前に私自身がグリューネヴァルト王国と交渉の場を持つのだと。
「……ヴィクトリア。お前、正気か?」
私の計画を打ち明けると、父は心底驚いた顔をした。
「グリューネヴァルトの現国王フリードリヒは、油断ならん男だぞ。『狡猾狐(こうかつぎつね)』の異名を持つ一筋縄ではいかん相手だ。そんな男と交渉するなど危険すぎる」
「分かっております、父上。しかしこのまま手をこまねいていては、いずれ背後から刺されることになる。危険を冒してでも後顧の憂いは断っておくべきですわ」
私の揺るぎない決意に、父は深くため息をついた。
「……分かった。お前がそこまで言うのなら止めはせん。だが必ず屈強な護衛を連れていくのだぞ」
「いいえ、父上。護衛はコンラートと他数名だけ。大軍を率いていけばかえって彼らを刺激してしまいます。私は誠意を以て話し合うつもりですわ」
数日後、私はコンラートとわずか十名の騎士だけを連れてグリューネヴァルト王国との国境へと向かった。国境に定められた中立地帯の古い砦で、フリードリヒ王と会見する約束を取り付けたのだ。
砦に到着すると、すでにグリューネヴァルトの物々しい鎧に身を固めた騎士たちが私たちを待ち構えていた。その敵意に満ちた視線が突き刺さる。
やがて砦の謁見の間に通された。玉座には年の頃四十代半ば、痩身で神経質そうな一人の男が座っていた。彼こそが『狡猾狐』フリードリヒ王。その切れ長の瞳は獲物を品定めするかのように、私をじっとりと見つめている。
「……ほう。貴殿が噂の『戦場の銀薔薇』か。思ったよりも可愛らしい姫君ではないか。戦場よりも舞踏会の方がお似合いに見えるがな」
フリードリヒ王は皮肉のこもった笑みを浮かべた。典型的な揺さぶりの手口だ。
「お褒めに預かり光栄ですわ、陛下。ですが私はもう、舞踏会で扇を振るう趣味はございませんの。剣を振るう方が性に合っております」
私もにっこりと笑みを返し、彼の挑発を受け流した。私のその堂々とした態度に、フリードリヒ王は少し意外そうな顔をした。
「……ふん。口だけは達者なようだな。で、本日は何のご用かな?我が国と一戦交えたいというのであれば、いつでもお相手するが?」
「とんでもない。私は戦ではなく、平和を結びに来たのです」
私は単刀直入に本題を切り出した。
「ご存知の通り、我がローゼンベルクは今、エーデルラント王国の中央と戦っております。これは我々の未来を懸けた正義の戦い。……この内乱に乗じて陛下が我が領地に兵を進めるおつもりがないことを、確かめさせていただきたく参上いたしました」
私のあまりに率直な物言いに、フリードリヒ王は目を細めた。
「……面白いことを言う。つまり我々に手を出すなと、そう警告しに来たというわけか?」
「いいえ。警告ではありません。『提案』ですわ」
私は懐から一枚の羊皮紙を取り出した。それは私が起草した条約案だ。
「ここに『相互不可侵条約』の締結を提案いたします。我々がエーデルラント王国の内乱を収めている間、グリューネヴァルト王国は我が領地に一切手出しをしない。……その見返りとして」
私はそこで一度言葉を切った。フリードリヒ王がゴクリと喉を鳴らすのが分かった。
「……我々がエーデルラント王国の実権を握った暁には、長年両国の係争地となっている、あの『鉄鉱石』が豊富に採れる西部の丘陵地帯、その採掘権の半分を貴国にお譲りいたしましょう」
「な……!?」
私の破格の提案に、フリードリヒ王は玉座から身を乗り出した。あの丘陵地帯は両国にとって、喉から手が出るほど欲しい宝の山だ。それを半分譲る、と。
「……正気か、姫君。そのようなこと、お主の一存で決められることではあるまい」
「ええ。今の私の一存では決められません。しかし、いずれエーデルラントの実権を握る未来の私ならば可能ですわ。これは未来への投資。信じるか信じないかは、陛下、あなた次第です」
フリードリヒ王は腕を組み、深く考え込んでいる。彼の狡猾な頭脳が猛烈な勢いで損得勘定をしているのが見て取れた。
エーデルラントの内乱に介入すれば、確かに漁夫の利を得られるかもしれない。しかし相手はあの王国最強のローゼンベルク軍だ。下手をすれば大火傷を負うことになる。
しかしこの提案を受け入れれば、一切血を流すことなく長年の懸案だった鉄鉱石の利権の半分が手に入るのだ。
「……ふ、ふははは……!はっはっはっは!」
やがてフリードリヒ王は、腹を抱えて笑い出した。
「……面白い!実に面白いぞ、姫君!お主、気に入った!ゲルハルト公はとんでもない傑物を娘に持ったものだな!」
彼は立ち上がると、私に手を差し出した。
「よかろう!その提案、乗った!我がグリューネヴァルト王国は、貴殿らの革命が終わるまで静観を約束しよう。いや、むしろ影ながら応援させてもらうとしようか!」
私はその手を強く握り返した。
「……感謝いたします、陛下。賢明なご判断ですわ」
こうして私は、王都の貴族には決して真似のできない、辺境の実力者同士だからこそ可能な大胆な外交によって、後顧の憂いを完全に断ち切ることに成功した。
砦を後にする私たちを、グリューネヴァルトの騎士たちが今度は敬意のこもった眼差しで見送っていた。狡猾狐を手玉に取った若き戦姫。私の名はこの日を境に、隣国にまで轟くことになったのだ。
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