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第五章:正義の進軍
第41話 獅子旗、立つ
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ローゼンベルクの長い夜が、明けようとしていた。東の空が深い藍色から徐々に白み始める。その荘厳な光は、これから始まろうとしている歴史的な一日の幕開けを静かに告げていた。
領都の城門前には、広大な平野を埋め尽くすほどの大軍勢が集結していた。我がローゼンベルクの精鋭兵、新たに徴兵された若者たち、そして私の檄に応じて馳せ参じてくれた辺境諸侯の屈強な兵士たち。その総数、七千。彼らが吐き出す白い息と鎧の擦れる音だけが、夜明け前の冷たい空気の中に響いている。
林立する槍の穂先は朝露に濡れて鈍い光を放っていた。そしてその頭上には幾千もの旗が、風を待って静かに垂れ下がっている。黄金の獅子と白銀の薔薇をあしらった我がローゼンベルク家の旗。山狼を描いたヒルデガルド辺境伯夫人の旗。岩山と槌を象ったドナート辺境伯の旗。辺境の獅子たちが今、一つの旗の下に集ったのだ。
私はこの大軍勢を城壁の上から見下ろしていた。隣には父とコンラートが、同じく固唾を飲んでその光景を見守っている。
私はこの日のためにあつらえられた白銀の鎧に身を包んでいた。それは機能性を追求しながらも、女性的な流麗な曲線を描く美しい鎧だった。腰には愛剣『銀薔薇』。朝日がその白銀の鎧を照らし、私の姿はまるで光そのものを纏っているかのように輝いて見えた。
「……ヴィクトリア。皆、お前を待っている」
父が静かに促す。私は深くうなずいた。そして兵士たちが待つ城門前の演台へと向かった。
私が演台の上に姿を現すと、さざ波のようなどよめきが七千の軍勢の間に広がっていく。全ての兵士の視線が私一人に集中する。その瞳に宿るのは緊張と興奮、そして私への絶対的な信頼の光。
私はマイクなどないこの世界で、全ての兵士の心に届くように腹の底から声を張り上げた。それはもはや令嬢のか細い声ではなかった。軍を率いる将軍の声だった。
「――ローゼンベルクの、そして辺境の勇猛なる戦士たちよ!」
私の声が静寂を切り裂く。皆、息を殺して私の次の一言を待っている。
「長かった冬は終わった!そして我々が偽りの王に虐げられてきた長い冬の時代も、今日この日をもって終わりを告げる!」
地鳴りのような雄叫びが上がる。
「我らがこれから向かうは王都!我らがこれから行うはただの戦ではない!これは腐敗した権力者から、我々の未来を、家族を、そして誇りを取り戻すための**『正義の戦い』**である!」
私は腰の剣を抜き放ち、その切っ先を王都のある東の空へと向けた。
「もはや多くを語る必要はないだろう!諸君らのその胸には、すでに燃えるような怒りの炎と揺るぎない覚悟が宿っているはずだ!」
私は兵士たちの顔を一人一人見渡すように、ゆっくりと視線を動かした。
「ならば今こそその力を示す時だ!我らが故郷の獅子と薔薇の旗の下に、王都へ進軍する!そして、あの傲慢な王子と狡猾な宰相の首を刎ね、この国に真の夜明けをもたらすのだ!」
私のそのあまりに直接的な言葉に、兵士たちの興奮は頂点に達した。
「さあ行こう、同胞よ!我々の歌を歌いながら!歴史にその名を刻む偉大なる進軍を、今始めるのだ!」
私がそう叫び終えた、その時。
ブオオオオオオオオッ!
城壁の上に並んだ角笛隊が、一斉に出陣の角笛を吹き鳴らした。その勇壮な音色はローゼンベルクの谷間に木霊し、戦士たちの魂を震わせる。
「「「うおおおおおおおおおおっ!!」」」
七千の雄叫びが一つとなり天を揺るがした。巨大な城門がギギギ……と音を立てて開かれていく。
私は演台を降りて愛馬に飛び乗り、全軍の先頭に立つ。私の掲げた銀薔薇の剣が、朝日を浴びてキラリと光った。
「――全軍、前へ!」
私の号令一下、ローゼンベルクの獅子旗が大きく翻った。そして七千の軍勢が、一つの巨大な生き物のようにゆっくりと動き出す。目指すは王都。全ての始まりの場所、そして全ての終わりの場所。
正義の進軍が、今、始まった。この一歩がやがて王国を根底から揺るがす巨大な歴史のうねりとなることを、この時の私たちはまだ知らなかった。ただ胸に希望と怒りを抱いて、ひたすらに東を目指した。
領都の城門前には、広大な平野を埋め尽くすほどの大軍勢が集結していた。我がローゼンベルクの精鋭兵、新たに徴兵された若者たち、そして私の檄に応じて馳せ参じてくれた辺境諸侯の屈強な兵士たち。その総数、七千。彼らが吐き出す白い息と鎧の擦れる音だけが、夜明け前の冷たい空気の中に響いている。
林立する槍の穂先は朝露に濡れて鈍い光を放っていた。そしてその頭上には幾千もの旗が、風を待って静かに垂れ下がっている。黄金の獅子と白銀の薔薇をあしらった我がローゼンベルク家の旗。山狼を描いたヒルデガルド辺境伯夫人の旗。岩山と槌を象ったドナート辺境伯の旗。辺境の獅子たちが今、一つの旗の下に集ったのだ。
私はこの大軍勢を城壁の上から見下ろしていた。隣には父とコンラートが、同じく固唾を飲んでその光景を見守っている。
私はこの日のためにあつらえられた白銀の鎧に身を包んでいた。それは機能性を追求しながらも、女性的な流麗な曲線を描く美しい鎧だった。腰には愛剣『銀薔薇』。朝日がその白銀の鎧を照らし、私の姿はまるで光そのものを纏っているかのように輝いて見えた。
「……ヴィクトリア。皆、お前を待っている」
父が静かに促す。私は深くうなずいた。そして兵士たちが待つ城門前の演台へと向かった。
私が演台の上に姿を現すと、さざ波のようなどよめきが七千の軍勢の間に広がっていく。全ての兵士の視線が私一人に集中する。その瞳に宿るのは緊張と興奮、そして私への絶対的な信頼の光。
私はマイクなどないこの世界で、全ての兵士の心に届くように腹の底から声を張り上げた。それはもはや令嬢のか細い声ではなかった。軍を率いる将軍の声だった。
「――ローゼンベルクの、そして辺境の勇猛なる戦士たちよ!」
私の声が静寂を切り裂く。皆、息を殺して私の次の一言を待っている。
「長かった冬は終わった!そして我々が偽りの王に虐げられてきた長い冬の時代も、今日この日をもって終わりを告げる!」
地鳴りのような雄叫びが上がる。
「我らがこれから向かうは王都!我らがこれから行うはただの戦ではない!これは腐敗した権力者から、我々の未来を、家族を、そして誇りを取り戻すための**『正義の戦い』**である!」
私は腰の剣を抜き放ち、その切っ先を王都のある東の空へと向けた。
「もはや多くを語る必要はないだろう!諸君らのその胸には、すでに燃えるような怒りの炎と揺るぎない覚悟が宿っているはずだ!」
私は兵士たちの顔を一人一人見渡すように、ゆっくりと視線を動かした。
「ならば今こそその力を示す時だ!我らが故郷の獅子と薔薇の旗の下に、王都へ進軍する!そして、あの傲慢な王子と狡猾な宰相の首を刎ね、この国に真の夜明けをもたらすのだ!」
私のそのあまりに直接的な言葉に、兵士たちの興奮は頂点に達した。
「さあ行こう、同胞よ!我々の歌を歌いながら!歴史にその名を刻む偉大なる進軍を、今始めるのだ!」
私がそう叫び終えた、その時。
ブオオオオオオオオッ!
城壁の上に並んだ角笛隊が、一斉に出陣の角笛を吹き鳴らした。その勇壮な音色はローゼンベルクの谷間に木霊し、戦士たちの魂を震わせる。
「「「うおおおおおおおおおおっ!!」」」
七千の雄叫びが一つとなり天を揺るがした。巨大な城門がギギギ……と音を立てて開かれていく。
私は演台を降りて愛馬に飛び乗り、全軍の先頭に立つ。私の掲げた銀薔薇の剣が、朝日を浴びてキラリと光った。
「――全軍、前へ!」
私の号令一下、ローゼンベルクの獅子旗が大きく翻った。そして七千の軍勢が、一つの巨大な生き物のようにゆっくりと動き出す。目指すは王都。全ての始まりの場所、そして全ての終わりの場所。
正義の進軍が、今、始まった。この一歩がやがて王国を根底から揺るがす巨大な歴史のうねりとなることを、この時の私たちはまだ知らなかった。ただ胸に希望と怒りを抱いて、ひたすらに東を目指した。
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