『「女は黙って従え」と婚約破棄されたので、実家の軍隊を率いて王都を包囲しますわ』

放浪人

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第五章:正義の進軍

第42話 進軍の歌

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我々の進軍路は北の山岳路。父が懸念した通り、その道は過酷を極めた。冬の雪解け水で道はぬかるみ、場所によっては川のようになっている。一歩足を踏み外せば谷底へ真っ逆さまという、危険な断崖絶壁も続いた。

しかし兵士たちの士気は全く衰えなかった。それどころか彼らは、この困難さえも楽しんでいるかのようだった。

「おい、足元に気をつけろよ!」 「大丈夫だ!この程度の坂、ヴィクトリア様への忠誠心に比べれば平地も同然よ!」

彼らは冗談を言い合い、互いに手を貸し合いながら険しい山道を進んでいく。特に私の改革によって新たに徴兵された若い兵士たちの熱意は、凄まじいものがあった。彼らは私を伝説の戦姫として心から崇拝しているのだ。その女神と同じ戦場に立てる。その事実が彼らを無敵の戦士へと変えていた。

最も困難を極めたのは、私が開発させた新兵器の運搬だった。分解された連射式速射弩と移動式投擲機の部品は、どれも重くかさばる。兵士たちは何十人がかりでそれを引きずり、押し上げ、時には崖に滑車をかけて吊り上げた。

「「「わっしょい!わっしょい!」」」

彼らの掛け声が谷間に響く。その額には大粒の汗が光っていたが、その顔は不思議と笑顔だった。この新しい兵器が我々に勝利をもたらしてくれる切り札であることを、彼らは本能的に理解しているのだ。

私は常に軍の先頭に立ち、兵士たちと同じ泥にまみれながら進んだ。時には馬を降り、ぬかるみに足を取られた荷車を兵士たちと一緒に押すこともあった。

「……ヴィクトリア様!そのようなこと、我々が!」

兵士たちが慌てて私を止めようとする。

「いいのよ。君主も兵士も、この戦いの前では同じ一人の戦士。苦労は皆で分かち合うべきでしょう?」

私が泥だらけの顔でにっこりと笑うと、兵士たちの顔がぱあっと明るくなった。彼らの私への忠誠心がさらに深まっていくのが肌で感じられた。これこそが私のやり方。玉座の上から命令するだけの王とは違う。民と兵士と同じ目線に立ち、共に未来を切り開く。それこそが私の目指す新しい君主の姿だった。

進軍を始めて三日目の夜、私たちは比較的開けた高原で野営をすることになった。兵士たちは焚き火を囲み、疲れた体を休めている。私も兵士たちと同じ固い干し肉を齧り、ぬるい水を飲んだ。

するとどこからともなく、リュートの優しい音色が聞こえてきた。あの吟遊詩人の若い兵士だ。彼は少し照れくさそうに、しかし誇らしげにあの歌を歌い始めた。

♪ 東の空に、銀の薔薇咲き誇る ♪ その名はヴィクトリア、我らが女神

最初は彼の小さな歌声だけだった。しかしすぐに周りの兵士たちがそれに合わせて口ずさみ始める。

♪ 泥にまみれし、その姿 ♪ 我らと、共に、未来を拓く

歌はいつの間にか新しい歌詞が付け加えられていた。この過酷な進軍の様子を歌ったものだ。

♪ 険しき山路、ぬかるむ道 ♪ 女神と、共なら、恐れはしない

一人、また一人と歌声の輪は広がっていく。やがてそれは野営地全体を包み込むほどの大合唱となった。

進軍の歌。それはもはやただの歌ではなかった。私たちの魂の叫び。私たちの結束の証。私たちの未来への祈り。その全てが込められていた。

♪ 獅子と薔薇の旗の下に、我らは一つ ♪ 進め、進め、同胞よ、新しい時代の夜明けは近い

私も思わずその歌を口ずさんでいた。涙が頬を伝ったが、それは悲しみの涙ではなかった。温かくて、そして力強い喜びの涙だった。

私は一人ではない。こんなにも多くの仲間たちが、私と同じ夢を見てくれている。その事実が何よりも私の心を強くしてくれた。

歌声は夜空に吸い込まれ、星々と共に輝いているかのようだった。遠く離れた王都にいるアルフォンスや宰相には、決して聞こえることのない歌。これは我々だけの革命のアンセムなのだ。

この歌声がある限り、私たちは決して負けない。どんな困難が待ち受けていようとも。私たちは歌いながら進み続ける。勝利のその日まで。

夜が明け、私たちは再び行軍を開始した。兵士たちの足取りは昨日よりもずっと軽やかだった。彼らは口々にあの歌を歌いながら、険しい山道を登っていく。その力強い歌声はまるで、これから我々が成し遂げる偉大な勝利を予言しているかのようだった。目指す最初の関門、北の砦は、もうすぐそこだ。
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