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第六章:王都包囲と新時代
第57話 新たなる誓い
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王都が開城したその日の午後。王宮の玉座の間では、歴史的な会談が開かれていた。集まったのは、この革命を成し遂げた主要な人物たちだ。
新しい王となるエリオット。私、ヴィクトリア・フォン・ローゼンベルク。私の父であり王国最強の将軍ゲルハルト。中立派をまとめ上げた老獪なセドリック伯爵。そして辺境から私と共に馳せ参じた諸侯たち。
玉座の間は昨日までの淀んだ空気が嘘のように浄化され、新しい時代の始まりにふさわしい厳粛な雰囲気に満ちていた。玉座は空席のままだ。エリオットはその玉座の前に立ち、私たちと同じ目線で向き合っていた。
「……皆、集まってくれて感謝する」
エリオットの静かな、しかし威厳に満ちた声が響いた。
「ご存知の通り、父上は退位され、我が兄アルフォンスは王位継承権を放棄した。そして国を壟断してきた宰相リヒターは今、地下牢にいる。……古い時代は終わったのだ」
彼はそこで一度言葉を切り、私に向き直った。
「……そしてその新しい時代を切り開いてくれたのが、ここにいるヴィクトリア殿だ。彼女の勇気と知略がなければ、我々は今頃まだ宰相の圧政の下で呻いていたことだろう。……国を代表して心から礼を言う、ヴィクトリア」
彼は私に向かって深々と頭を下げた。王が臣下に頭を下げる。前代未聞のその光景に、その場にいた誰もが息を呑んだ。
「おやめください、陛下!私はただローゼンベルクの誇りを守るために戦ったまでです!」
私は慌てて彼に駆け寄った。しかし彼は顔を上げると、真剣な眼差しで私を見つめた。
「……だからこそ私は君に頼みたい。いや、この国の新しい王として、君に命じる」
「……命令、ですと?」
「そうだ。……ヴィクトリア・フォン・ローゼンベルク。君にこの国の宰相の地位を与える。私と共にこの国の舵を取ってほしいのだ」
宰相。そのあまりに予想外の言葉に、私は絶句した。周りの諸侯たちからも驚きのどよめきが上がる。それはそうだ。今まで宰相の地位は王都の有力な大貴族が世襲で受け継いできたもの。それを辺境の、しかもつい昨日まで反逆者と呼ばれていたうら若き女性である私が継ぐなど、誰も想像だにしなかっただろう。
「……陛下、お待ちください!そのご指名はあまりにも……!私のような戦しか知らない無骨者に、国の政治が務まるはずも……」
私が戸惑いながら反論すると、今まで黙っていたセドリック伯爵が口を開いた。
「……ふぉっふぉっふぉ。戦姫殿はご謙遜なさる。貴殿の手腕は、この老いぼれの目から見ても見事なものであったぞ」
彼は私に優しく微笑みかけた。
「軍を率いる統率力、敵の意表を突く策略、そして民の心を掴むカリスマ。……そのどれもが国を治める者にとって不可欠な資質じゃ。いやそれどころか、貴殿は経済を動かし外交を制する才覚までお持ちだ。……貴殿以上に宰相にふさわしい人物など、この国のどこを探してもおるまいよ」
老獪な伯爵からの最大級の賛辞。それに他の諸侯たちも次々と同調の声を上げた。
「そうだ!セドリック伯の言う通りだ!」 「我々はヴィクトリア宰相閣下の誕生を支持する!」
私はその予想外の展開に、ただ呆然とするしかなかった。父までもが誇らしげな顔で頷いている。
エリオットはそんな私にそっと手を差し伸べた。
「……ヴィクトリア。私は君主として君に命令した。だがこれは一人の男としての、私の心からの願いでもある。……私は玉座の上から君を見下ろす王になりたいのではない。君と同じ目線に立ち、手を取り合ってこの国の未来を創っていきたいのだ。……私のパートナーになってはくれないだろうか?」
その真摯な瞳。その真っ直ぐな想い。私はもはや断ることなどできなかった。それに彼の言う通りだ。この国を本気で変えたいのなら、中途半端な立場ではいられない。やるからには最後まで、この手で見届けなければ。
私はゆっくりと、その差し出された手を取った。
「……分かりました、陛下。……その大役、謹んでお受けいたします。このヴィクトリア・フォン・ローゼンベルク、我が身命を懸けて貴方様とこの国のたに尽くすことを、ここに誓います」
新たなる誓い。それは王と宰相として、そして志を同じくする二人の若者としての、固い固い約束だった。私が彼の手を握り返した瞬間、玉座の間は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
古い時代は終わり、新しい時代が始まった。それは国王と宰相が手を取り合い、民のために国を治めるという、この国の歴史上誰も見たことのない全く新しい政治の形。その最初の一ページが、今、記されたのだ。私の胸にはこれから始まる、困難な、しかし希望に満ちた未来への期待が満ち溢れていた。
新しい王となるエリオット。私、ヴィクトリア・フォン・ローゼンベルク。私の父であり王国最強の将軍ゲルハルト。中立派をまとめ上げた老獪なセドリック伯爵。そして辺境から私と共に馳せ参じた諸侯たち。
玉座の間は昨日までの淀んだ空気が嘘のように浄化され、新しい時代の始まりにふさわしい厳粛な雰囲気に満ちていた。玉座は空席のままだ。エリオットはその玉座の前に立ち、私たちと同じ目線で向き合っていた。
「……皆、集まってくれて感謝する」
エリオットの静かな、しかし威厳に満ちた声が響いた。
「ご存知の通り、父上は退位され、我が兄アルフォンスは王位継承権を放棄した。そして国を壟断してきた宰相リヒターは今、地下牢にいる。……古い時代は終わったのだ」
彼はそこで一度言葉を切り、私に向き直った。
「……そしてその新しい時代を切り開いてくれたのが、ここにいるヴィクトリア殿だ。彼女の勇気と知略がなければ、我々は今頃まだ宰相の圧政の下で呻いていたことだろう。……国を代表して心から礼を言う、ヴィクトリア」
彼は私に向かって深々と頭を下げた。王が臣下に頭を下げる。前代未聞のその光景に、その場にいた誰もが息を呑んだ。
「おやめください、陛下!私はただローゼンベルクの誇りを守るために戦ったまでです!」
私は慌てて彼に駆け寄った。しかし彼は顔を上げると、真剣な眼差しで私を見つめた。
「……だからこそ私は君に頼みたい。いや、この国の新しい王として、君に命じる」
「……命令、ですと?」
「そうだ。……ヴィクトリア・フォン・ローゼンベルク。君にこの国の宰相の地位を与える。私と共にこの国の舵を取ってほしいのだ」
宰相。そのあまりに予想外の言葉に、私は絶句した。周りの諸侯たちからも驚きのどよめきが上がる。それはそうだ。今まで宰相の地位は王都の有力な大貴族が世襲で受け継いできたもの。それを辺境の、しかもつい昨日まで反逆者と呼ばれていたうら若き女性である私が継ぐなど、誰も想像だにしなかっただろう。
「……陛下、お待ちください!そのご指名はあまりにも……!私のような戦しか知らない無骨者に、国の政治が務まるはずも……」
私が戸惑いながら反論すると、今まで黙っていたセドリック伯爵が口を開いた。
「……ふぉっふぉっふぉ。戦姫殿はご謙遜なさる。貴殿の手腕は、この老いぼれの目から見ても見事なものであったぞ」
彼は私に優しく微笑みかけた。
「軍を率いる統率力、敵の意表を突く策略、そして民の心を掴むカリスマ。……そのどれもが国を治める者にとって不可欠な資質じゃ。いやそれどころか、貴殿は経済を動かし外交を制する才覚までお持ちだ。……貴殿以上に宰相にふさわしい人物など、この国のどこを探してもおるまいよ」
老獪な伯爵からの最大級の賛辞。それに他の諸侯たちも次々と同調の声を上げた。
「そうだ!セドリック伯の言う通りだ!」 「我々はヴィクトリア宰相閣下の誕生を支持する!」
私はその予想外の展開に、ただ呆然とするしかなかった。父までもが誇らしげな顔で頷いている。
エリオットはそんな私にそっと手を差し伸べた。
「……ヴィクトリア。私は君主として君に命令した。だがこれは一人の男としての、私の心からの願いでもある。……私は玉座の上から君を見下ろす王になりたいのではない。君と同じ目線に立ち、手を取り合ってこの国の未来を創っていきたいのだ。……私のパートナーになってはくれないだろうか?」
その真摯な瞳。その真っ直ぐな想い。私はもはや断ることなどできなかった。それに彼の言う通りだ。この国を本気で変えたいのなら、中途半端な立場ではいられない。やるからには最後まで、この手で見届けなければ。
私はゆっくりと、その差し出された手を取った。
「……分かりました、陛下。……その大役、謹んでお受けいたします。このヴィクトリア・フォン・ローゼンベルク、我が身命を懸けて貴方様とこの国のたに尽くすことを、ここに誓います」
新たなる誓い。それは王と宰相として、そして志を同じくする二人の若者としての、固い固い約束だった。私が彼の手を握り返した瞬間、玉座の間は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
古い時代は終わり、新しい時代が始まった。それは国王と宰相が手を取り合い、民のために国を治めるという、この国の歴史上誰も見たことのない全く新しい政治の形。その最初の一ページが、今、記されたのだ。私の胸にはこれから始まる、困難な、しかし希望に満ちた未来への期待が満ち溢れていた。
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