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第六章:王都包囲と新時代
第58話 第二王子の戴冠
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数日後、王都の大聖堂においてエリオットの戴冠式が厳かに執り行われた。それは過去の王たちのような、贅を尽くした華美なものではなかった。しかしそこには、新しい時代の幕開けにふさわしい希望と威厳に満ちた空気が流れていた。
大聖堂には王国中の貴族たちが集まっていた。昨日まで宰相に媚びへつらっていた者も、日和見を決め込んでいた者も、今や皆神妙な顔で新しい王の誕生を見守っている。時代の流れが完全に変わったことを、誰もが肌で感じていた。
私はその最前列に父やセドリック伯爵と並んで座っていた。私が身に纏っているのはもはや白銀の鎧ではない。宰相としての地位を象徴する、深い紺色の礼服だ。ローゼンベルク家の色であり、そしてエリオットが私のために特別にあつらえさせてくれたものだった。
やがてファンファーレが鳴り響き、エリオットが姿を現した。彼はゆっくりと祭壇へと歩みを進める。その一歩一歩は若さに似合わず落ち着き払い、そして王としての覚悟に満ち溢れていた。
祭壇の前で彼は跪く。教皇が重々しく王冠を彼の頭上へと捧げた。
「――ここにエリオット・フォン・エーデルラントを、この国の正当なる王として戴冠することを宣言する!」
教皇の高らかな宣言と共に、聖堂内は万雷の拍手に包まれた。王冠を戴いたエリオットはゆっくりと立ち上がり、集まった貴族たちに向き直った。その姿は神々しいまでに輝いて見えた。彼こそがこの国を導く、新しい光なのだ。
通常、戴冠式はここで終わり祝宴へと移る。しかしエリオットは思わぬ行動に出た。彼は祭壇から降りると、まっすぐに私の元へと歩み寄ってきたのだ。
どよめきが聖堂内に広がる。誰もが王が何をしようとしているのか分からずに、固唾を飲んで見守っていた。
エリオットは私の前に立つと、その場で跪いた。新国王が臣下の前に跪く。再び前代未聞の光景が繰り広げられた。
「……陛下!何を……!」
私が慌てて彼を立たせようとする。しかし彼は私の手を静かに制した。
「……ヴィクトリア。いや、我が宰相殿。この戴冠式の場で、改めて君に感謝と敬意を示したい」
彼は集まった全ての貴族たちに聞こえるように、はっきりと告げた。
「この国の平和は君なくしてはありえなかった。君のその気高い魂と、揺るぎない正義感が我々を救ってくれたのだ。……ありがとう、ヴィクトリア」
そして彼は側に控えていた侍従から一つの箱を受け取った。その箱を開けると、中には白銀に輝く美しい勲章が納められていた。それは獅子と薔薇が精巧に彫り込まれた特別なデザイン。この国の歴史上、誰にも与えられたことのない最高位の勲章だった。
「……これより君に、この国最高の栄誉『白銀薔薇大十字勲章』を授与する。そして改めて君をエーデルラント王国初代宰相に任命する。……どうかこれからも私の隣で、その知恵と力を貸してほしい」
彼はその勲章を私の胸につけてくれた。ひんやりとした金属の感触。それは私がこれから背負っていく責任の重さのようでもあった。
聖堂内は再び割れんばかりの拍手に包まれた。新しい王と若き宰相。二人のその固い絆の結びつきを目の当たりにし、もはやその新しい体制に異を唱える者など一人もいなかった。
そしてエリオットのサプライズは、それだけでは終わらなかった。彼は聖堂の扉の方を向き合図を送った。すると扉が開き、一人の老騎士がゆっくりと中へと入ってきた。その肩にはまだ傷の跡が残っている。しかしその足取りはしっかりとしていた。
「……ゲオルグ!」
私は思わず声を上げた。セドリック伯爵の屋敷に匿われていると聞いていたゲオルグ。彼が、無事にこの場所に。
ゲオルグは私の前に進み出ると、涙を流しながら跪いた。
「……ヴィクトリア様。ご無事で何よりにございました。……そしてこの老いぼれをお助けくださり、誠に……」
「……もう良いのです、ゲオルグ。よくぞ無事で戻ってきてくれました」
私は彼の手を取り、立ち上がらせた。主君と忠臣の感動的な再会。その光景に多くの貴族たちが目頭を熱くしていた。
第二王子の戴冠。それはただの儀式ではなかった。新しい王がその公正さと慈悲深さを天下に示し、新しい時代の価値観を人々の心に深く刻み付けた、歴史的な一日となったのだ。古いしがらみは断ち切られた。ここから本当の国の再建が始まる。私は隣に立つ若き王の横顔を見つめながら、その決意を新たにしていた。
大聖堂には王国中の貴族たちが集まっていた。昨日まで宰相に媚びへつらっていた者も、日和見を決め込んでいた者も、今や皆神妙な顔で新しい王の誕生を見守っている。時代の流れが完全に変わったことを、誰もが肌で感じていた。
私はその最前列に父やセドリック伯爵と並んで座っていた。私が身に纏っているのはもはや白銀の鎧ではない。宰相としての地位を象徴する、深い紺色の礼服だ。ローゼンベルク家の色であり、そしてエリオットが私のために特別にあつらえさせてくれたものだった。
やがてファンファーレが鳴り響き、エリオットが姿を現した。彼はゆっくりと祭壇へと歩みを進める。その一歩一歩は若さに似合わず落ち着き払い、そして王としての覚悟に満ち溢れていた。
祭壇の前で彼は跪く。教皇が重々しく王冠を彼の頭上へと捧げた。
「――ここにエリオット・フォン・エーデルラントを、この国の正当なる王として戴冠することを宣言する!」
教皇の高らかな宣言と共に、聖堂内は万雷の拍手に包まれた。王冠を戴いたエリオットはゆっくりと立ち上がり、集まった貴族たちに向き直った。その姿は神々しいまでに輝いて見えた。彼こそがこの国を導く、新しい光なのだ。
通常、戴冠式はここで終わり祝宴へと移る。しかしエリオットは思わぬ行動に出た。彼は祭壇から降りると、まっすぐに私の元へと歩み寄ってきたのだ。
どよめきが聖堂内に広がる。誰もが王が何をしようとしているのか分からずに、固唾を飲んで見守っていた。
エリオットは私の前に立つと、その場で跪いた。新国王が臣下の前に跪く。再び前代未聞の光景が繰り広げられた。
「……陛下!何を……!」
私が慌てて彼を立たせようとする。しかし彼は私の手を静かに制した。
「……ヴィクトリア。いや、我が宰相殿。この戴冠式の場で、改めて君に感謝と敬意を示したい」
彼は集まった全ての貴族たちに聞こえるように、はっきりと告げた。
「この国の平和は君なくしてはありえなかった。君のその気高い魂と、揺るぎない正義感が我々を救ってくれたのだ。……ありがとう、ヴィクトリア」
そして彼は側に控えていた侍従から一つの箱を受け取った。その箱を開けると、中には白銀に輝く美しい勲章が納められていた。それは獅子と薔薇が精巧に彫り込まれた特別なデザイン。この国の歴史上、誰にも与えられたことのない最高位の勲章だった。
「……これより君に、この国最高の栄誉『白銀薔薇大十字勲章』を授与する。そして改めて君をエーデルラント王国初代宰相に任命する。……どうかこれからも私の隣で、その知恵と力を貸してほしい」
彼はその勲章を私の胸につけてくれた。ひんやりとした金属の感触。それは私がこれから背負っていく責任の重さのようでもあった。
聖堂内は再び割れんばかりの拍手に包まれた。新しい王と若き宰相。二人のその固い絆の結びつきを目の当たりにし、もはやその新しい体制に異を唱える者など一人もいなかった。
そしてエリオットのサプライズは、それだけでは終わらなかった。彼は聖堂の扉の方を向き合図を送った。すると扉が開き、一人の老騎士がゆっくりと中へと入ってきた。その肩にはまだ傷の跡が残っている。しかしその足取りはしっかりとしていた。
「……ゲオルグ!」
私は思わず声を上げた。セドリック伯爵の屋敷に匿われていると聞いていたゲオルグ。彼が、無事にこの場所に。
ゲオルグは私の前に進み出ると、涙を流しながら跪いた。
「……ヴィクトリア様。ご無事で何よりにございました。……そしてこの老いぼれをお助けくださり、誠に……」
「……もう良いのです、ゲオルグ。よくぞ無事で戻ってきてくれました」
私は彼の手を取り、立ち上がらせた。主君と忠臣の感動的な再会。その光景に多くの貴族たちが目頭を熱くしていた。
第二王子の戴冠。それはただの儀式ではなかった。新しい王がその公正さと慈悲深さを天下に示し、新しい時代の価値観を人々の心に深く刻み付けた、歴史的な一日となったのだ。古いしがらみは断ち切られた。ここから本当の国の再建が始まる。私は隣に立つ若き王の横顔を見つめながら、その決意を新たにしていた。
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