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「はぁ、なんだよこりゃ。俺様のモンハウが潰れてんじゃねーか!」

 まさかの展開に、俺はセシリアの手を引いて通路の奥へと走ってしまった。
 直ぐにしまったと思った。どうせなら回れ右して階段の上に行くべきだったと。
 今なら間に合う──そう思って振り返った時、男とすれ違った。

「はっ。女連れでダンジョンデートとま、最近のガキはほんっとムカつくぜ!」
「なっ。誰がデートだ──「いば!!」──げっ」

 なんて足の速い奴だ。くそっ。
 こいつ、トレインマンか。

 わざとモンスターを連れ回して、他人にそれを擦り付ける。
 まさかそうやってモンハウを階段下に作ったのか!?

「セシリア走れ! 階層のどこかに魔法陣があるはずだ。今ならモンスターも付いてきている。だったら魔法陣まで引っ張って行けば、階段下からは消える」
「ぁ、あい」
「そうすれば階層の魔法陣を使えば階段に移動しても安全なはずだ」
「はいっ」

 返事はいつものように元気だが、さっき魔力切れ寸前までいったんだ。
 そう長くは走れないだろう。
 それは俺も同じだ。

 座って少しは回復したが、目頭が今でも少し傷む。
 早く魔法陣を見つけなきゃ。

「い、いばっ」
「セシリア、頑張れ!」

 彼女の手を掴んで振り返ると、すぐ後ろにモンスターの群れが。

「止まれっ」
「いばっ。いぃ……うぅぅーっ。い、いしっ」
「石? 魔石をどうしようってんだ」
「ちがぁ。石っ。まおう石っ」

 魔王? ま……

「魔法……魔法なのか!?」
「そうっ。石、石ちょーあい」

 魔法石──名前からすると、何かの魔法が封印されているとかそういうのか?
 繋いだ手を解いて巾着を取り出す。
 どれだ……どれが魔法石だった?

「セシリア、魔法石どれだ?」
「ここ、ここっ」

 横に並んだセシリアが、紫色の石を掴んだ。

「まおぉ、いぅ!」
「魔法? え、魔力切れじゃ!?」
「まおーいし! ────っ!」

 たちまち風が巻き起こる。
 その風がモンスターを薙ぎ払った。

 もしかして消費する魔力をあの石が代用しているのか!?
 だけどあの石がどのくらい持つか。
 他に魔法石があるかもしれない。

 巾着を開くと紫色の石が三粒入っているのが見えた。

「セシリア、魔法石だ」
「ぁ、あい」

 もしかすると、俺の一時停止にも効果あるんだろうか?
 
 二つをセシリアに渡して、一つを自分で握る。
 彼女の隣に立って一時停止使用。

 何かが──体の中に流れてくる感じがした。
 これ、魔力の代用じゃなくって、魔力を補充するアイテムかよ。
 目頭の傷みが引いた。
 やれる!

「セシリア、魔力残量は?」
「まあいいっ」

 まぁいい、のかまだいい、のか。

「俺がモンスターの動きを止める。十秒だ。止められるのは十秒。ただし何度か連続で使える」
「はいっ」

 まぁ数日とはいえ、一緒にいたのならもう分かってるよな。

「奥の奴は止められない。だけど動かない奴が壁になってこっちまで来れないだろう。お前は魔力消費量の少ない方法で言ってくれっ」
「はいっ」

 モンスターが動き出す──一時停止。
 
「おぉー、なかなか粘るじゃねえか」
「は?」
「ほうら、追加だ」

 声がした。後ろからだ。
 さっきのトレインマン!?

 振り向いた時には奴は直ぐそこに──止めてやる!
 
「はっ」
「は?」

 き、消えた?
 なんで──いや、今はそれどころじゃない。
 止まれ!
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