上 下
8 / 48

008

しおりを挟む
「おはようワオール」
『ワオォ?』

 午前中は講義が無いので昼の十二時にアラームをセットしてログイン。
 アラームセットはログインロビーの声《・》に伝えるだけという、親切設定になっていた。

 朝の八時過ぎだったはずが、ゲーム内では太陽が西に傾き始める頃。
 まだ夕方ではないが、これはさっさとやれることをやっておかなきゃな。

「こんにちはお客ニャん」
「こんにちはにゃんご。相変わらずか?」
「相変わらず、閑古鳥が鳴いてるニャ」
「ははは。まぁ俺が頑張るからさ。っと、買取を頼む。チュチュの尻尾と――マンティスの鎌とスライムゼリーも収集品か。とにかく買ってくれ。あ、忘れるところだった。チュチュの肉もな」

 収集品とチュチュの肉を売りさばいて792Gに。
 買取価格は尻尾が8G、鎌が10G、ゼリーは5Gだ。これに肉代も合わせてこの金額だ。
 毛皮だなんだのを売ればもう少しお金になるだろうが、素材は残しておきたい。ネズミ肉を除いて。

「あと薪木も頼む。肉を焼きながら作業するからさ、火加減見ててくれないかにゃんご」
「え…………まぁ、いいニャけど」

 空腹用の肉を焼きつつ、俺は壁を立てるための丸太を切る作業をする。

「にゃんご。簡易大工道具一式にノコギリとか入ってるのか?」
「入ってるニャよ。丸太で壁を作るなら、切った丸太を地面に立ててからハンマーで上から叩けばいいニャ」
「じゃあ簡易大工道具一式とハンマーを買う」

 それぞれ500Gずつ。残金は605G。財布がとても寒い。

 とにかくまずは丸太を切りそろえよう。
 これは『大工』スキルだな。

 スキルをタップすると、更に項目が出てくる。
 木材加工――その他自動アシスト。
 この二つか。
 自動アシストって、何をアシストしてくれるのだろうか。
 とりあえず丸太を切るなら、木材加工だろうか?
 タップすると、加工したい素材を選べと出る。そこに表示されたのはケヤキの丸太のみ。
 これをタップすると――。

「広い所に行けってか」
「丸太を切るニャか? そりゃあ丸太を置ける場所じゃないと、作業は出来ないニャよ」
「なるほど。変なところでリアル志向なんだな」

 今は昼間だ。モンスターも襲って来ない。
 お金が欲しいのでワオールには狩りをしてもらい、俺一人で作業をしよう。
 日が暮れる頃には周辺で焚火をして明るさを確保し、アクティブモンスターが寄ってこないようにすればいい。

 20メートルの木を4メートル×五本にし、全部で三百二十本の丸太が完成。
 更に地面に打ち付けるため、斧で先端を細くする作業――もしかして『その他自動アシスト』ってここで使えないか?

 試しにスキルを発動させたが何も起こらない。
 違ったか?

 斧を手に持ち丸太を削ろうとすると、【枝切】【ささ切り】というメッセージが浮かぶ。
 どちらかを選べってことかな。ささ切りっていうと、あのごぼうみたいなヤツだよな。そうそう、それそれ。
 選択すると、斧を振り下ろす位置にマーカーが。
 そこに斧を当てれば、カッターでえんぴつを削るかのようにサクっと。

 お、しかもこの削りカス。そのままアイテムとして残ってるじゃないか!
 これ、薪木の代わりにならないか?

 全てを切り終える頃には夕方になった。

「よおおぉぉぉぉっし! 切り終えたぞおおおぉぉぉぉっ!!」
『ワオオオォォォーンッ』
「いちいち五月蠅いニャーもう」
「よし、ワオール。今度は手伝ってくれ」
『ワオ』

 丸太をワオールに支えてもらい、俺がハンマーで……あぁ、届かない。
 そうだった。丸太は四メートルあるんだった。
 粘土ブロックを作って、それで階段を作るか?
 いや、それだと勿体ない。

「梯子だったらあるニャよ」
「脚立じゃないんだろ?」
「違うニャ。でも作ることは可能ニャよ。二つの梯子を縄でくくればいいニャから」

 まぁバランスが良ければそれで脚立の代わりにはなる。
 そして梯子はひとつが300G。
 ワオールが仕留めた獲物の収集品を売って200Gの収入。残金は205Gとなった。

「お客ニャんにはいっぱい買って貰ったからニャー。縄はオマケするニャよ」

 と。
 でも縄って、たった10Gじゃないですかー。

 作業を進めるにあたってまずは焚火を設置。


「昨日の分の薪木が八セット残っているし、とりあえず――」

 ブロック塀から4メートルぐらいの所に一か所、焚火を設置する。
 明るい所にまず一本丸太を立て、ワオールに支えてもらう。
 そうしてハンマーを取り出し叩くが、上手く地面に打ち込めないな。
 よし、自動アシストだ。

 すると予想的中。こちらも自動アシストスキルを使うことで、さくさくというか、ガツーンガツーンと丸太を打ち込めるようになった。
 立てた丸太の横に、次の丸太をくっつけて立て、そして打つ。
 これがゲーム所以なんだろうな。丸太は全て見た目がそっくりそのまま。サイズだって一寸の狂いもない。
 直径は40センチぐらいかな。
 十本ほど立てたらもう危険区域だ。

 少しずらしたところに焚火を設置して火を点ける。
 そこに向かって丸太の壁を伸ばす。
 そしてまた焚火を設置して――壁を伸ばして――手持ちの薪木が無くなり、振り向けばブロック塀付近が暗闇に包まれていた。

「ワオール! 俺がにゃんごから薪木を買って火を点けるまで、頼むな!」
『ワオーンッ』
「早く点けるニャ。早くぅーっ!」





「ふぅ。なんとか生き延びた」
「生き延びたニャね~」
『ワッフワオォー』

 ワオールは元気だ。
 余裕そうだ。
 そりゃあHPが1000以上だもんな~。俺なんて100だし。

 ブロック塀で囲った中の焚火を気にしながら作業をし、立てた丸太は百本程。長さにして僅か40メートルだ。
 時に暗闇を走ってブロック塀の中へ逃げ込むこともあり、そうやって夜が明けると俺のHPは風前の灯にまで落ちていた。

「にゃんごぉ、HPってどうやって回復するんだよぉ?」
「お勧めはポーションを飲むことニャよ! 初級ライフポーション一本25Gニャ」
「他にはぁ?」
「……満腹度マックス状態で座っていたら回復するニャ……」

 最初と後とで声のテンションが全然違う。
 物を売るときには嬉々としているのになぁ。
 だが今の俺は貧乏だ。
『採取』に『調薬』と持っているんだ。自分でポーションを作れるだろう。

 でも薬草ってどこに生えているんだろうか?
 スマホを開いてスキル欄から『採取』をタップすると、する目の前の草に緑色のマーカーが現れる。
 え……薬草……なのか?

 マーカーの下にある草を摘んでみると、その瞬間に手から消えた。
 アイテムボックスには「謎の草」とある。

「にゃんごぉー。謎の草ってのをゲットしたんだがー」
「鑑定するニャよ。もしくはそのまま『加工』なり『調合』スキルがあれば使ってみるニャ」

 鑑定があるので使う。

***************************************
 元気草:薬草
 効果:そのまま食すとHPが5回復。
    ライフポーションの素材。
***************************************

 ふぅん。そのまま食べられるのか。
 食べてみると苦かった。
 ポーションにするとどのくらい回復する?
 にゃんごの販売リストから鑑定すると、回復量が50……おぉう、食べたの勿体ない。

 日中になるまでの時間は採取に専念。ワオールは狩り。
 日中からはまたケヤキの伐採に向かった。

 そうそう。ケヤキの苗木ってのをドロップしていたので、近くに植えておいた。
『植林』スキルがあると、植えるのに最適な場所がわかるだとか、成長速度を上げられるとかあるようだが……ここは無いので普通に。
 何年かかるかなー。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,780pt お気に入り:2,216

甘い婚約~王子様は婚約者を甘やかしたい~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:177pt お気に入り:385

女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています

恋愛 / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:686

俺を裏切り大切な人を奪った勇者達に復讐するため、俺は魔王の力を取り戻す

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,290pt お気に入り:91

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,130pt お気に入り:33

処理中です...