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15話 ファングとカエサル・ベイル その2

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「ファング王子殿下、1つよろしいでしょうか……?」

「なにかな、カエサル殿?」


 この期に及んでの悪あがきなのか、それとも改心したという現れなのか……カエサル様はファング王子殿下への進言の許可を取ったのだ。ファング王子殿下は快くそれを引き受けた。なんというか……心の余裕が違うわね。

「私のトーマスへの想いは間違っているというのでしょうか……? トーマスは確かに、浮気をしないと言いました。口約束でしかないかもしれませんが、確かな約束でもあります」

「確かにそうかもしれないな」


 カエサル様は必死な様子だった……まあ、息子のトーマス様に関することだから必死になるのは分かるけれど、少しは私の気持ちも察して欲しい。カエサル様は私とトーマス様の婚約が決まった時に、私のことを実の娘のように愛すると言ってくれたお方なのだから……。

「トーマスのこの口約束を信じていただくことは出来ないのでしょうか……? 何卒、トーマスにもう一度、機会を与えてやってください!」

「気持ちは分かるがカエサル殿……それは、私ではなくリリム嬢が決めることだ」

「た、確かにそうですが……」


 カエサル様は何とも情けない表情で私を見ていた。私に頷いて欲しいと言った面持ちなのだろうか。本当に、こんな情けないカエサル様は見たくなかった。第一、言葉を出す相手が違っている。どうして、カエサル様が息子の尻拭いをしているのか……。

 こういうことはトーマス様がしっかりと言葉で伝えなければならないはずなのに……彼は、先ほどから沈黙を貫いていた。

「リリム嬢、何度も聞くのは忍びないが……トーマス殿との関係を継続する意志はあるのか?」


 ファング王子殿下の質問だったけれど、私は首を横に振った。


「いいえ、ファング王子殿下……私は婚約の解消を望む気持ちに変わりはありません」

「そうか……だそうだ、カエサル殿。残念だったな」

「そ、そんな……!」


 そんな……! という言葉は以前の私が言いたいセリフだった。決して今のカエサル様が出して良い言葉ではないだろう。

「私はトーマス様からの言葉を直接に聞いてみたいと思っております。カエサル様という緩衝材を排した生の言葉を……」

「リリム……」


 予想外の展開だったのだろうか? トーマス様は意外な程に戸惑う様子を見せていた。私の考えが変わることはないだろうけれど、トーマス様からの言葉は聞いてみたい。それが今の私の望みでもあった。
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