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2話 放心状態
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私はその後どうやって屋敷まで帰ったか分からなかった。放心状態だったことは分かっているけれど……気付いたら自分の部屋にいたのだ。そのくらい傷付いてしまったということになる。
「最初から利用されていただけだなんて……」
「エリアス様……なんと申し上げて良いか……」
私の専属メイドであるラーナが私を気遣ってくれている。嬉しいことではあるんだけれど、放心状態の私は気の利いた言葉を掛けらずにいた。
最初から利用されていただけ……アレク様はレナ様と一緒になる気満々だったわけだ。普通に考えれば家柄などを考慮すれば、そちらの方が正しいと言えるのだろうけれど。私は薬士としての才能をアレク様に献上していただけに過ぎなかったということか。
工場生産で大量精製が可能になっているということは、私なんかいなくてもアレク様の家系は今まで以上に儲かるのだろう。いや、工場生産体制が充実するのだから、儲けは今までの比ではないはずだ。私程度の才能でも彼の家系の収入の一部にはなれていたのだから、工場生産体制を確立した今となっては最も大きな収入源になるのかもしれない。
私の数か月間の頑張りはその助けをしていただけに過ぎなかったということか。私は本当に何をしていたんだろうか……悲しいけれど、涙すら出て来ない。自分が情けなさ過ぎて……お父様達に合わせる顔もないわ。
「エリアス、入っても良いかしら?」
「ユリア姉さま……?」
そんな時、部屋の外から姉さまの声がした。私はすぐに入り口を開ける。
「姉さま……」
「事情はお父様から聞いているわ。とても話せる状況ではないだろうけれど……入っても良いかしら?」
「あ、はい……大丈夫です」
「ありがとう」
ユリア姉さまは18歳の私の4歳上の22歳だ。私の事を昔から可愛がってくれている優しい人。私はそんな姉さまに心配は掛けられないと考え、室内に招いた。
「まさか、アレク・ギース侯爵が身勝手な婚約破棄をするなんて、思ってもいなかったわ」
「はい、私もです。私は利用されていただけのようです……」
「あなたの薬士としての技術を奪う為に利用されたということね?」
「そういうことです……」
技術を盗まれ利用された……この事実は本当に厳しかった。大好きなユリア姉さまに知られているというのも大きい。姉さまには知られたくなかったことだからだ。
「お父様も言っていたけれど、決して許せることではないわね」
「そう言っていただけるのは嬉しいのですが……」
子爵令嬢である私の家系は貴族全体を見てもそこまで大きな権力は持っていない。当主であるお父様もそれは同じだ。侯爵であるアレク様に逆らえばどうなるか……結果は火を見るより明らかだった。私は自分のことで、バルトロメイ家に迷惑を掛けたくはない。
「私のことで、姉さまやお父様達に迷惑を掛けたくないのです……」
「あら、そんなに気にする必要はないわよ」
「姉さま?」
「味方になってくれる方はいるということよ。例えばブラック家と聞けば思い当たらないかしら?」
「ブラック家……それって……」
シャビトス王族の親戚として知られている公爵家になる。とても位の高い貴族の名前だ。
「ブラック公爵家がどうかしたのですか?」
「あなたはこの数カ月、アレク様のところに行っていたから知らないでしょうけど……実はブラック家の方々とバルトロメイ家は近しい存在になっているのよ。この意味はわかるわよね?」
「え、ええ……? そ、それって……」
なんだか話題が予期せぬ方向に向かっているような気がした。ユリア姉さまは不敵な笑みを浮かべている。まさかとは思うけれど、ブラック家の方と婚約でもしたと言うの……?
「最初から利用されていただけだなんて……」
「エリアス様……なんと申し上げて良いか……」
私の専属メイドであるラーナが私を気遣ってくれている。嬉しいことではあるんだけれど、放心状態の私は気の利いた言葉を掛けらずにいた。
最初から利用されていただけ……アレク様はレナ様と一緒になる気満々だったわけだ。普通に考えれば家柄などを考慮すれば、そちらの方が正しいと言えるのだろうけれど。私は薬士としての才能をアレク様に献上していただけに過ぎなかったということか。
工場生産で大量精製が可能になっているということは、私なんかいなくてもアレク様の家系は今まで以上に儲かるのだろう。いや、工場生産体制が充実するのだから、儲けは今までの比ではないはずだ。私程度の才能でも彼の家系の収入の一部にはなれていたのだから、工場生産体制を確立した今となっては最も大きな収入源になるのかもしれない。
私の数か月間の頑張りはその助けをしていただけに過ぎなかったということか。私は本当に何をしていたんだろうか……悲しいけれど、涙すら出て来ない。自分が情けなさ過ぎて……お父様達に合わせる顔もないわ。
「エリアス、入っても良いかしら?」
「ユリア姉さま……?」
そんな時、部屋の外から姉さまの声がした。私はすぐに入り口を開ける。
「姉さま……」
「事情はお父様から聞いているわ。とても話せる状況ではないだろうけれど……入っても良いかしら?」
「あ、はい……大丈夫です」
「ありがとう」
ユリア姉さまは18歳の私の4歳上の22歳だ。私の事を昔から可愛がってくれている優しい人。私はそんな姉さまに心配は掛けられないと考え、室内に招いた。
「まさか、アレク・ギース侯爵が身勝手な婚約破棄をするなんて、思ってもいなかったわ」
「はい、私もです。私は利用されていただけのようです……」
「あなたの薬士としての技術を奪う為に利用されたということね?」
「そういうことです……」
技術を盗まれ利用された……この事実は本当に厳しかった。大好きなユリア姉さまに知られているというのも大きい。姉さまには知られたくなかったことだからだ。
「お父様も言っていたけれど、決して許せることではないわね」
「そう言っていただけるのは嬉しいのですが……」
子爵令嬢である私の家系は貴族全体を見てもそこまで大きな権力は持っていない。当主であるお父様もそれは同じだ。侯爵であるアレク様に逆らえばどうなるか……結果は火を見るより明らかだった。私は自分のことで、バルトロメイ家に迷惑を掛けたくはない。
「私のことで、姉さまやお父様達に迷惑を掛けたくないのです……」
「あら、そんなに気にする必要はないわよ」
「姉さま?」
「味方になってくれる方はいるということよ。例えばブラック家と聞けば思い当たらないかしら?」
「ブラック家……それって……」
シャビトス王族の親戚として知られている公爵家になる。とても位の高い貴族の名前だ。
「ブラック公爵家がどうかしたのですか?」
「あなたはこの数カ月、アレク様のところに行っていたから知らないでしょうけど……実はブラック家の方々とバルトロメイ家は近しい存在になっているのよ。この意味はわかるわよね?」
「え、ええ……? そ、それって……」
なんだか話題が予期せぬ方向に向かっているような気がした。ユリア姉さまは不敵な笑みを浮かべている。まさかとは思うけれど、ブラック家の方と婚約でもしたと言うの……?
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