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1話
しおりを挟む「ええと、アグラ様……ご自分で言っている意味、理解できていますか?」
「当たり前だ、リリス。お前との婚約は破棄させてもらう。それだけのことさ」
「……」
やっぱりわかっていない。目の前にいる侯爵であり婚約者でもあるアグラは、自分の言っている言葉の意味が理解できていないようだ。
「私は真実の愛に目覚めたのだよ。相手は侯爵令嬢……伯爵令嬢でしかないお前とは身分も違う相手だ。お前程度ではどうすることもできまい」
「……」
アグラは……彼は自分の言っている意味を理解できているのだろうか? 確かに立場だけを見るならば、伯爵令嬢でしかない私は何も出来ないけれど……。アグラは侯爵令息ではなく立派な侯爵家の当主だ。まだ彼は24歳と若いけれど、私程度では何も言えない地位の持ち主だった。ちなみに私は19歳です。
「私の立場ならこの程度の婚約破棄は造作もない。慰謝料なんて支払わないからな。その辺りもよくわかっておけよ?」
「婚約破棄をしておいて、慰謝料を支払わない? そんなこと許されるはずがありません! それから、関係各所にはアグラ様の自己都合による婚約破棄だと言ってもらいますよ!」
この人は本当に何を言っているのだろうか? 婚約破棄を無理矢理にでも行うならば、慰謝料が発生するのは当然のことだ。さらには私の家系の評判も悪くなるので、関係各所にはその婚約破棄の理由もしっかりと話して貰わないと困る。
今回の場合で言えば、アグラ様が幼馴染と結婚したいがために婚約破棄をしたという事実を語ってもらうというわけだ。そうでなければ私の方に原因があったのではと思われてしまうし、立場的に弱い私は不利にしかならないからだ。こんなこと、普通は言わなくても分かるはずなのに……何を考えているんだろうか、アグラは。
「馬鹿なことを言うな、リリス。そんなことをすれば我が家系の印象が悪くなってしまうではないか」
「仕方ないでじょう? それだけのことをするんですから。婚約破棄というのはそのくらい重いものなんです」
「ふざけるな!」
「ひっ……!」
いきなりアグラは激昂し始めた。私はとても驚いてしまう。
「ふざけるなよ、リリス。なぜ侯爵と言う崇高な立場である私がお前如きの言うことを聞かないといけないのだ!」
「いえ……そういう決まりですから……」
「うるさい! 私の立場を最大限利用して、全てを覆い尽くしてやるわ! 慰謝料は支払わないし、周りにはお前が原因で婚約破棄に至ったと話しておこう!」
「なっ……そんな……!」
激昂したアグラは本気のようだった。これ以上反論すると殴られそうだったので、私は黙るしかなかった。そんな……こんな理不尽がまかり通るなんて絶対におかしい……。
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