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38.クズと元クズ
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小さい頃。俺も砂遊びをしたことがあった。
意味もなく砂の山や泥団子を作ったこともあった。道を作ってそこに水を流してみたりな。川を表現していたかもしれないが、それを理解できていたのは幼少期の俺だけだった。
「なんという完成度だ……っ」
それを目にした瞬間、俺は震えていた。
西洋の城が建っていた。これが砂で作られたものだとわかっている。それでも、思わず実物の景色を想像してしまえるほどの完成度だ。
もはや芸術の領域……。ただの遊びとは言えない。その芸術品に目を奪われる。
「ふぅ……」
良い汗かいたとばかりに大迫が額を腕で拭った。
そう、この作品を生み出したのは大迫で間違いないようだった。なぜか周りにいる子供達が「すごいよけんたろー」と褒め称えている。
大迫は随分と褒めそやされた後、子供達の親御さんが来て感謝されていた。どうやら大迫は親がいない間の子供の面倒を見てやっていたようだった。
「さ、佐野くんっ!?」
あっ、見つかった。
大迫が作った芸術品に目を奪われていたせいで帰ることを忘れていた。
「よう大迫。その砂の城すごいじゃん」
大迫に話しかけるのは気まずいなんてものじゃなかったけれど、砂の芸術品を無視することもできなかった。
「……バカにしてるの?」
なんでそうなるんだよ。俺、ただ褒めただけだよね?
「バカになんかしてないよ。本当にすげえって思ったから……」
って、言っても無駄か。俺と関わることなんて大迫も望んではいないだろう。
帰ってしまおうかと背を向けた時、大迫に声をかけられる。
「さ、佐野くんっ」
「ん?」
「僕……別に幼女をたぶらかしていたわけじゃないからね!」
「いや、なんの心配をしてんだよ」
さっきの子供達のことを言ってるのか? そういえば女の子しかいなかったか。それも全員小学生にもなってないような年頃に見えた。
「母親が迎えに来てるのも見てたよ。遊び相手になってやってたんだろ?」
「ま、まあね……。むしろみんな落ち込んでる僕を元気づけようとしてくれていたけど……」
後半声が小さすぎて聞こえなかった。わざわざ聞き返すのも面倒なのでスルーする。
「えらいじゃんか。近所に優しいお兄さんがいると、きっと子供も親も安心するぞ」
「優しい……か」
大迫は遠くを見ていた。その目に浮かべる感情を、俺は知っている気がする。
「佐野くんは、僕のこと責めないの?」
「もし大迫を責める権利があるとしたら、それは俺じゃなくて千夏ちゃんだろ」
もし千夏ちゃんが怒っていたら、俺は大迫を本気で潰していたかもしれない。
「その千夏も責めないんだよね……いつも怒ってたくせに、こういう時は怒らないんだ。僕は、怒られて当然のことをしたっていうのにね」
両親にこっぴどく叱られたとは聞いている。わざわざ俺にも謝罪に来た大人だ。きっと筋の通った説教をしたのだろう。
それを証明するように、今の大迫からは敵意が感じられなかった。
「そんなに後悔しているのに、なんであんなことしたんだ?」
「……佐野くんにはわからないだろうね。自分の存在が恥ずかしくて、それでもどうにかしたいって気持ちがさ」
前言撤回。ちょっと睨まれてしまった。
「どうにかしようとして、無理やり千夏ちゃんを自分の彼女にしようとしたってか?」
「……」
睨み返せば、大迫は押し黙った。
気持ちがどうにもならなくなって、自分でも信じられない行動に出てしまった。それが悪いことだったのはわかっているのだ。
……わかっていても、どうしようもない気持ちを処理できるわけじゃない。
「ぼ、僕だって、みんなに自慢できる存在になりたい。誰かに舐められるのは苦しいんだよ。バカにされないように、下に見られないように……そう思って何が悪いんだ!」
悲痛な叫びだった。大迫は涙を流しながら絞り出す。
「人気者の綾乃と付き合ってると思っていた。みんなにもそう思われるように振る舞ってきた。でも、それがただの勘違いだったなんて……いい笑い者だよ……。そんなの認めるわけにはいかないじゃないか……!」
だから焦って代わりの恋人を作りたかった。大迫にとって、代わりの相手に千夏ちゃんは都合が良かったのだろう。
「……」
身勝手な言い分だ。
こんなことを誰かの前で口にしてしまえば、悪感情を抱かせると簡単に想像できる。大迫だって、それくらいわかっているはずだ。
でも、自分以上に、周囲が身勝手に振る舞っているように見えてしまったりもする。
だからずるいって思うし、だったら自分も身勝手にしてやろうって気持ちにもなる。
──そうやって、クズになっていく奴もいる。
「なあ大迫。お前は自分を変えたいって思ったことがあるか?」
しかし、俺には大迫をクズだとなじる資格はない。
だって、以前の俺はチビで根暗で言い訳ばかりの最低野郎だったのだから。俺もクズだったってことだ。
「……変わりたいって、数え切れないほど思ってきた」
しばらく泣いていた大迫だったけれど、絞り出すようにそれだけを言った。
結局のところ、変わりたいってのはきっかけ次第だ。俺が千夏ちゃんに相応しい男になりたいと決意したように。
それから次に大事なことは方向性。どう変わりたいかを明確な目標にすることだ。
それがわからないと、努力そのものが難しくなる。先の見えない努力は続けられないからだ。
別に、大迫は好きな奴ではない。それどころか、俺の方が敵視してきたほどだ。千夏ちゃんの幼馴染ってだけで、無条件で彼女に優しくされていることに嫉妬してきた。
「大迫、これから俺の家に来るか?」
それでも放っておけなかったのは、過去の自分と重ねてしまったから。ただそれだけのことでしかない。
意味もなく砂の山や泥団子を作ったこともあった。道を作ってそこに水を流してみたりな。川を表現していたかもしれないが、それを理解できていたのは幼少期の俺だけだった。
「なんという完成度だ……っ」
それを目にした瞬間、俺は震えていた。
西洋の城が建っていた。これが砂で作られたものだとわかっている。それでも、思わず実物の景色を想像してしまえるほどの完成度だ。
もはや芸術の領域……。ただの遊びとは言えない。その芸術品に目を奪われる。
「ふぅ……」
良い汗かいたとばかりに大迫が額を腕で拭った。
そう、この作品を生み出したのは大迫で間違いないようだった。なぜか周りにいる子供達が「すごいよけんたろー」と褒め称えている。
大迫は随分と褒めそやされた後、子供達の親御さんが来て感謝されていた。どうやら大迫は親がいない間の子供の面倒を見てやっていたようだった。
「さ、佐野くんっ!?」
あっ、見つかった。
大迫が作った芸術品に目を奪われていたせいで帰ることを忘れていた。
「よう大迫。その砂の城すごいじゃん」
大迫に話しかけるのは気まずいなんてものじゃなかったけれど、砂の芸術品を無視することもできなかった。
「……バカにしてるの?」
なんでそうなるんだよ。俺、ただ褒めただけだよね?
「バカになんかしてないよ。本当にすげえって思ったから……」
って、言っても無駄か。俺と関わることなんて大迫も望んではいないだろう。
帰ってしまおうかと背を向けた時、大迫に声をかけられる。
「さ、佐野くんっ」
「ん?」
「僕……別に幼女をたぶらかしていたわけじゃないからね!」
「いや、なんの心配をしてんだよ」
さっきの子供達のことを言ってるのか? そういえば女の子しかいなかったか。それも全員小学生にもなってないような年頃に見えた。
「母親が迎えに来てるのも見てたよ。遊び相手になってやってたんだろ?」
「ま、まあね……。むしろみんな落ち込んでる僕を元気づけようとしてくれていたけど……」
後半声が小さすぎて聞こえなかった。わざわざ聞き返すのも面倒なのでスルーする。
「えらいじゃんか。近所に優しいお兄さんがいると、きっと子供も親も安心するぞ」
「優しい……か」
大迫は遠くを見ていた。その目に浮かべる感情を、俺は知っている気がする。
「佐野くんは、僕のこと責めないの?」
「もし大迫を責める権利があるとしたら、それは俺じゃなくて千夏ちゃんだろ」
もし千夏ちゃんが怒っていたら、俺は大迫を本気で潰していたかもしれない。
「その千夏も責めないんだよね……いつも怒ってたくせに、こういう時は怒らないんだ。僕は、怒られて当然のことをしたっていうのにね」
両親にこっぴどく叱られたとは聞いている。わざわざ俺にも謝罪に来た大人だ。きっと筋の通った説教をしたのだろう。
それを証明するように、今の大迫からは敵意が感じられなかった。
「そんなに後悔しているのに、なんであんなことしたんだ?」
「……佐野くんにはわからないだろうね。自分の存在が恥ずかしくて、それでもどうにかしたいって気持ちがさ」
前言撤回。ちょっと睨まれてしまった。
「どうにかしようとして、無理やり千夏ちゃんを自分の彼女にしようとしたってか?」
「……」
睨み返せば、大迫は押し黙った。
気持ちがどうにもならなくなって、自分でも信じられない行動に出てしまった。それが悪いことだったのはわかっているのだ。
……わかっていても、どうしようもない気持ちを処理できるわけじゃない。
「ぼ、僕だって、みんなに自慢できる存在になりたい。誰かに舐められるのは苦しいんだよ。バカにされないように、下に見られないように……そう思って何が悪いんだ!」
悲痛な叫びだった。大迫は涙を流しながら絞り出す。
「人気者の綾乃と付き合ってると思っていた。みんなにもそう思われるように振る舞ってきた。でも、それがただの勘違いだったなんて……いい笑い者だよ……。そんなの認めるわけにはいかないじゃないか……!」
だから焦って代わりの恋人を作りたかった。大迫にとって、代わりの相手に千夏ちゃんは都合が良かったのだろう。
「……」
身勝手な言い分だ。
こんなことを誰かの前で口にしてしまえば、悪感情を抱かせると簡単に想像できる。大迫だって、それくらいわかっているはずだ。
でも、自分以上に、周囲が身勝手に振る舞っているように見えてしまったりもする。
だからずるいって思うし、だったら自分も身勝手にしてやろうって気持ちにもなる。
──そうやって、クズになっていく奴もいる。
「なあ大迫。お前は自分を変えたいって思ったことがあるか?」
しかし、俺には大迫をクズだとなじる資格はない。
だって、以前の俺はチビで根暗で言い訳ばかりの最低野郎だったのだから。俺もクズだったってことだ。
「……変わりたいって、数え切れないほど思ってきた」
しばらく泣いていた大迫だったけれど、絞り出すようにそれだけを言った。
結局のところ、変わりたいってのはきっかけ次第だ。俺が千夏ちゃんに相応しい男になりたいと決意したように。
それから次に大事なことは方向性。どう変わりたいかを明確な目標にすることだ。
それがわからないと、努力そのものが難しくなる。先の見えない努力は続けられないからだ。
別に、大迫は好きな奴ではない。それどころか、俺の方が敵視してきたほどだ。千夏ちゃんの幼馴染ってだけで、無条件で彼女に優しくされていることに嫉妬してきた。
「大迫、これから俺の家に来るか?」
それでも放っておけなかったのは、過去の自分と重ねてしまったから。ただそれだけのことでしかない。
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