Ocean

リヒト

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Ocean 2

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霊体なんだから飛んで行けるかと思ったら、そんなこともなく、普通に歩いて家に向かう。

病院には、明るくなってから行くわ。

だって、真夜中の病院とか絶対ぇ無理‼︎

…… うん、無理ムリ、怖えぇもん‼︎


菜花ん家から徒歩1分。

築40年の我が家では、母ちゃんが物干しのある縁側に正座して洗濯物を畳んでた。

普段通りに見えるけど、朝早い出勤の母ちゃんが日付け越えて起きてること自体、実は珍しい。

…… 眠れねぇんだろうな。


二階に上がると、奥にある俺の部屋に行く途中で、引き戸を開けっぱなしのまま大の字で腹出して寝てる五年生の弟の寝相が目に入る。

コイツはもうすっかり夢の中だな。

まだ背は小さい方だけど、うんと小っちゃかった頃、俺を“にーに”って呼んで“やきゅ、しゅる?”なんて自分の背丈くらいある俺のバット引きずってチョコチョコ付いてきてたのが懐かしい。

…… と思ったら、パジャマの股間に小っちゃいテント張ってて、オトコなんだなーおまえもよ、と微笑ましく思う。

ついこの間まで俺が風呂に入れてやってたのに、どんどん成長してんだな。


隣の部屋からは、ドア越しに中2の弟がまだ据え置き機でFPSバトルロワイヤルゲームをしてる音がしてる。

多分ヘッドフォンはしてるけど、今必死で戦ってると見えて、操作音がカチャカチャうるせぇ。

こいつは最近やたらと背が伸びてきて、俺を見下ろすくらいになった。

そして、いつの頃からか俺のことを“兄貴”なんて呼ぶようになってた。

ちょっと前まで“兄ちゃん”つってたくせに……。


『いー加減寝ろよ。おまえもそろそろ地区戦だろ?

一戦一戦大事にしてけよ、後悔しても遅せぇんだからな』


なんて呟いてみるけど、生意気盛りのコイツには逆効果か。
 
俺にもそんな頃があったからな……いや、あんま無かったか。


「…… クソッ‼︎」


俺の呟きが聞こえてたとは思えないけど、いまいましげにコントローラを投げ出す音と乱暴に機器のスイッチを切る気配がして、苦しそうに高回転してたゲーム機の冷却ファンの音が止む。


静かになった弟の部屋の前から、そっと立ち去る。


おまえが今どんな顔してんのか、見なくても分かるよ。

俺、おまえの兄ちゃんだからな。



自分の部屋に戻ってみると、試合に発つ前に一念発起して片付けたままになってた。

大分断捨離したからサッパリしてキレイなもんだ。

いつもは母ちゃんに“部屋が汚い”って怒られてたけど、この部屋見て、どう思ったかな。

俺も一応この夏で野球終わりにする覚悟決めてたから、それなりに心の整理つけたつもりだったんだ。

まさか、あれから帰って来れなくなるとは思ってなかったけど……。


俺の居ない家。

俺が今ここに居ることを、誰も知らないんだよな。


夜が更け、明けていくまで、俺は自分の部屋で過ごすことにした。

ベッドに横になっても眠気のひとつも起きず、いつものようにシコる気にもなれない。

ケータイは多分、試合に持って行った荷物の中だ。

とっくに電池切れてるだろうし、メールもメッセージも溜まってんだろうな…… 触れないから意味ないけど。


そうやって分かっているつもりでも、棚のマンガに手を伸ばし、触れないことに愕然として、またバタリと横になる。

ベッドには寝れるのに物には触れないんだなー。

することもなくこんな風にただ何かを思って時間を過ごすことなんか久しく無かったから、何だか新鮮だけど、暇過ぎて、俺らしくもなく色々良くないことが思い浮かんでしまう。


最後かも知れないだろ。


なんて、昔やったRPGの主人公の台詞を思い出す。

もう一回やりてぇな、あのゲーム。

…… 今ならあの時のあいつの気持ち、ちゃんと解る気がするわ。



明け方、俺は家を出た。

薄青い光の中、近所の外飼いの犬に吠えられながら、俺はまだ確かに存在してるんだなって思う。

我思う、故に我有り。か。

思わなくなったら、“俺”はどこへ行くんだろう。


のんびりと見慣れた町の景色を眺めながら歩いて病院に着くと、菜花が教えてくれた東棟3階の奥の病室へ向かう。

エレベーターのボタンが押せないから、階段を使うしかない。

うわー階段とかダル、って二段抜かしで3階まで駆け上がってみて、全然息が切れてないことにびっくりしてる。

昨夜から気付いてはいたけど、生身じゃないからか、やたらと身体が軽くて体力が無尽蔵に湧いてくる気がする。

あと少し、もう少し、って騙し騙しやってきた腰と左膝の痛みも、使い過ぎてぶっ壊れかけてる右肘のヤバい疼きも、手のひらの破けたマメが治りかけたのがヒビ割れてビリビリする感じも、全く無い。

気分良く動けるのが逆に気持ち悪くて、俺の本体がどうなってるのか、知るのがちょっと怖い。


思い切ってドアを擦り抜け、病室に入ると、小柄だけどガタイの良い人間が部屋の真ん中のベッドに寝かされてる。

…… これ、ほんとに俺か?

信じられない気持ちで近付いていく。


怪我した筈の頭には包帯を押さえるネットが被せられていて、顔は半分近くが酸素マスクみたいなもので覆われてるから、目元と顎くらいしか見えるところがない。

眠ってる自分の顔なんか見たことないから他人の寝顔みたいに思えるけど…… あ、でもこれ、間違いなく俺だわ。

右手首、タッチのとき地面で擦り剥いた傷が、瘡蓋になってる。

捕球の位置がずれてヒビ入ったことのある左手の親指が太くなって曲がってるし、スパイクの接触で切った右手の甲の傷痕が、真っ黒に日焼けした肌に白く浮いている。

自分では気付かなかったけど、掛け物から出てる左足首と膝下にも何かの傷の手当てがしてある。

外から見たら分からない部分…… 腰、膝、肘まで合わせみると、俺って結構満身創痍だったんだな。


俺の身体は今、沢山のチューブやコードで点滴やら機械やら何やらに繋がれ、計器モニターで監視されているらしい。

健康診断のときに見たことがある心電図の機械が、波形を打ち出してる。

これ、ドラマとかだと表示が“0”になってピーっつって死亡確認するヤツだよな……。


見慣れた形の腕にそっと触れようとすると、指先にピリッと静電気が流れるような感じがして、手を引っ込める。


なんだ?今の。


もう一度試したら、今度は手のひらにバチっときて弾かれ、愕然とする。


おいおい、自分で自分の身体に触れないって、そんなんありかよ。


さすがにちょっと焦ってきて、手首を掴もうとする。

けど、やっぱりビリビリして掴めない。

力任せに無理矢理いこうとしたら、バン!と強い衝撃を感じて完全に弾かれてしまった。


どうなってんだ。

てか、“体外離脱”の体験談は何かで読んだことあるけど、“戻る”ってどうやるんだろ?

“夜中に目覚めたら自分の寝ている姿が見えた”

“飛べるし外にも出れるけど、このまま戻れなくなったらどうしよう、怖いなと思ってたらいつの間にか身体に戻ってた”

みたいな報告は数々あるのに、戻れなくなったとか、どうやって戻ったとかいうのは読んだことないなー…… そりゃそうか、戻れなくなったら…… 戻れないんだ。

それだけ自然に、無意識の内に戻ってるもんなんだろうな。

そういえば、外出て普通に街を歩いたり他人と会話したりしたっていう記事も見ない。

10人に1人は一生の内一回くらい体外離脱の経験をするらしいが、俺みたいなパターンは、報告されてる例が無いってことか……。


ベッドの上、自分の身体の上に仰向けになってみる。

このまま“幽体離脱~!”の逆再生的に、吸収される感じで戻れないもんかなーなんて期待したけど、そう都合よくはいかなかった。

なんか数センチ浮いてる感じがして、身体には一部たりとも触れられる気配すらない。


身体を跨いで立ち、おりゃ!ってプロレスの受け身みたく背中から飛び込んでみる。

と、弾かれた上にバランスを崩して、狭いベッドから転がり落ちてしまう。

隣に横になって、かーらーのー……ていっ!て転がってみるも、やっぱ弾き返される。

今度は腹這いになって…… って、うわ、なんかこれ、自分とセックスしてるみてぇだ。気持ち悪っ。


この状況、見える人が見たら何て思うだろう。

そう思ったら可笑しくなってきて、ひとり虚しく笑う。

だって笑うしかねぇだろ、こんなん。

現実感が逆に現実味なんか全くなくしてくれちゃってて、夢ん中で夢見てるみたいな感じがしてんだもん。


思い付く限りのことを試しても身体に戻るどころか触れることすらできず、さてどうしたもんかな、と腕を組んで見覚えのある窓に寄りかかって立つと、外はもうすっかり朝だ。

壁のデジタル時計のカレンダーを見て、眼下の病院前通りにいつもより車通りが少ないことに納得。

土曜日か。

試合の日は、日曜だった。

俺、こんな風になって、明日で一週間経つってことだな。

何が理由で目を覚ませないでいるのかは分かんねぇけど、こんな物々しい機械類に繋がれてるってことは……。


その時、誰かが廊下をこちらに向かって来る気配を感じて、意識を澄ます。

この感じは…… 良く知ってる人物だ。

来た、と思って入り口に目をやると、スライドドアがそ~っと20cmくらい開き…… ちょっと間を置いて、なんかすげぇ低い位置から菜花が顔を出す。


「居たぁ~!」


強めに囁く声。囁く意味あるか?ってくらいの。

菜花も階段を駆け上がって来たとみえて、軽く息を切らしてる。

おまえはエレベーター使えるだろうに…… 何やってんだよ。


「もう!起きたら居ないんだもん、びっくりすんでしょ!」


おまえが起きるまで俺が大人しく添い寝してるとでも思ったのかよ。

その発想のがびっくりだわ。


「一緒に病院行こうって言ったじゃん!」


『あぁ、悪り悪り』


なんか理不尽な気がしないでもないけど、心配してくれてたことは分かるから、とりあえず謝る。

いずれ、ベッドで朝まで菜花ちゃんと一緒!は無理だって分かれよ。

あれ以上おまえの傍に居たら俺、欲望に負けて絶対シコってたと思うわ……。


「ヒロはきっとここに居るって思ってたけどね」


真っ直ぐに俺の居る窓辺に寄ると、顔見て安心したのか、嬉しそうに微笑んでる。

素直に可愛い。

可愛いけど、なんだろうな。

俺の隣で窓の外を眺めてる菜花のさっきの行動に、なんとなく引っかかるものがある。

なんつったらいいのか…… 。

俺の本体、あっちなんだけど。

普通、あっちに先に行かね……?


その時、また人の来る気配がして、割と勢いよくドアが開く。


「おはようございまーす、失礼しまー…… わっ」


俺らの母ちゃんくらいの年頃の、看護師だ。

菜花が居るのを見て、びっくりしてる。


「え、ここ、面会制限中って聞いてたけど」


「そ、そうなんですか⁈ …… すみません……」


しおらしく菜花が謝る。


「うふふ。まぁそうだよね、早く会いたいよね。

…… 若いって良いなぁ」


看護師が何か勘違いしてるらしく意味あり気に微笑んで見せると、菜花はバツが悪そうに俯いている。

おまえ、許可出てないのにコッソリ来たな。


看護師が点滴を台にセットしたり、俺の鼻に着けてるヤツにチューブ挿れてズゴゴゴって何か吸い取ったり、酸素マスクみたいなやつに繋がってる機械を確認したりと忙しく動き回った後で菜花の方をチラッと見ると、


「あと5分くらいで別の人が点滴繋ぎに来るから、ね」


「はい……」


それまでには退出するように、ってことか。

とりあえず見逃してくれるようだ。


「キミも早く起きてあげなさいな。

こんなに待ってくれてる人が居るんだから……」


看護師が俺の身体に向かって言い残し、病室から出て行くと、菜花がホッとしたように呟く。


「良かったぁ…… 。

本体、ちゃんと生きてんじゃん」


『多分な』


「多分て…… しっかり生きてるでしょコレ。

ほら、あったかい」


『勝手に弄んなよ』


菜花が俺の手を持ち上げて指先を握っているのを見てたら、なんだか恥ずかしくなって取り返そうとするけど、試したときと同じく何故か弾かれてしまい、触れることが出来ない。

溜め息を吐く俺を見て、菜花はそっと俺の右手を元に戻す。


「てかさ、なんであんた戻らないの?」


『…………。』


戻らないんじゃねぇよ、戻れないんだよ。

身体見つけたら戻れるだろ、って単純に考えてたから来てみたものの、これじゃあまるっきりお手上げだ。


「ほら、さっさと戻りなよ」


『できるんならやっとるわ。

…… 散々試したんだよ』


「いいから!そこ、横んなってみ!」


だから無理だ、っつってんの。

自分で見て確認しないと信用しねぇっておまえ、ウチの母ちゃんかよ……。


思いながらも仕方なく、菜花の指示通り自分の身体の上に横になって見せる。

やっぱり5cmくらい浮き上がってるし…… 全然戻れる気がしない。


「目、閉じて」


『なんか意味あんのかコレ』


「分かんない!分かんないけど…… オラっ!戻れ!戻れ~!」


『…………。』


両手をかざし、指をモニャモニャやって、俺の身体に念?を送っている、菜花。


『…… もういいよ』


「何が」


『別にさー、戻ったところで何がどうなる訳じゃねぇし』


「何がどうなって欲しいってのよ」


『や、別に』


身体に戻っても時間が戻る訳じゃなし、起こったことが帳消しになる訳でもない。

脳にダメージ受けてたとすれば麻痺とか何かの後遺症が残るかも知れないし…… もしかしたらこのまま……。

最悪の事態が思い浮かぶ。


「せっかく県代表で地区大会決まってんのに……」


『後のことはあいつらが何とかしてくれるだろ。

なんてったって今、中村がノってるし、修二もムラはあるけどイイ感じだ。

俺居なくても大が居るし、…… 今年の1年、すげぇぞ?

あいつらはプロ行くだろうな、間違いなく』


「何それ、他人事みたいに…… 高校最後だよ?

自分で勝ちに行きたい!って思わないの?」


そんなこと言ったって、どうしろってんだよ。

俺だって戻れるもんなら戻りたいよ、グラウンドに。

俺が…… 短い人生懸けて今まで積み上げてきたこと、全部燃やし尽くして終わりたいよ、どうせなら。


『いや、事実を受け入れてるまでよ。

…… 俺はこのまま引退だろ』


菜花の悔しそうな顔。

唇噛んで拳握りしめて、今にも泣き出しそう…… あ、来るな、コレ…… ほら来たー、


「あきらめんな‼︎ バカタレがぁッ‼︎」


『んガッ⁈』


目から星が出る。

拳が来るのは見えてた。

でも、擦り抜けちゃって当たることはないと思ってたから、油断して避け損ねた。

多分、菜花も。


『…… おま…… グーで鼻……、

おぁー痛って…… 曲がるっつーの』


痛みで涙目になる。

霊体だってのに、このリアルな痛覚はどういうことなんだ。

けど、久しぶりの感覚に俺、“生きてる”って感じる。

 
『大会前なんだからよ…… 手ぇ大事にしろよな。

おい、指、大丈夫か?グーパーしてみ?』


人を素手で殴ると自分も相応のダメージを受けるってのは、人殴ったことのある奴にしか分かんないと思う。

だから、自分も痛い思いをする覚悟を持ってないと、殴れない。

解説しよう!

ガキの頃から何度となく菜花ちゃんのパンチを“愛の鞭”として甘んじて受け止めてきた俺には、この痛みを菜花ちゃんの心の痛みとして共有し、理解することが出来るのだ!

…… なんて、俺ってドM?

何にしろ俺だけだろ、おまえがこんな遠慮なく殴れんの。

殴り返して来ないのも俺だけだからな、多分。


それにしても相変わらずイイ体幹、イイ肩、イイバネ持ってんなぁ。今のパンチ、腰入ってたし。

そこに限っては、つくづく女にしとくの勿体ねぇわ。


「…… 触れた」


『あ?』


うん、鼻血は出てねぇみたいだな。

押さえた手を確認しながら聞き返すと、菜花が興奮して右手をグーパーしながら叫ぶ。


「ヒロに触れたよね今⁈ ねぇ⁈ 何で⁈」


触るってレベルの優しいもんじゃなかっただろと心中ツッコミつつ、不思議に思う。

そういえばそうだ。


『知るかよ……』


涙目で鼻押さえたまま、試しに俺の方からは菜花に触れるもんなのか、手を伸ばしてみる。

今ならもしかして……?


「…… ちょっと」


『やっぱダメかぁ』


俺の手は、菜花の胸元を擦り抜けてしまう。


「どこ触ろうとした」


『え?…… いやその、位置的に丁度いいっていうか、掴み易…… グフっ……!』


鳩尾に腹パン食らった上に膝蹴りによる金的を受けてくの字になって悶絶する俺を尻目に、菜花がクルリと踵を返すして病室から出て行く。


ぐぉ…… 軽く仕返ししようとして酷でぇ返り討ちに遭ってしまった。

腹パンは咄嗟に腹筋固めたからダメージ防げたけど、二段速攻で来るとは思わなかったから一番大事なとこは守れなかったんだぜ……。

しっかしコイツ、昔取った杵柄ってヤツか、やっぱ実戦慣れしてんなぁ。的確に急所突いてくるもんなぁ。

…… これなら暴漢痴漢に襲われても一人で撃退出来んだろな。


なんて頼もしく思いながら、引き摺られるようにして、俺も自分の身体が寝ているベッドを後にする。

う~、タマ上がっちゃって戻らねぇっつーの。


『ど…… どこ行くんだよ』


まだ腰をトントンしてる俺に、


「見て分かんない⁈部活だよ!」


言われてみれば菜花、エナメルバッグとバットケース持ってんな。

廊下の床掃除をしてた清掃スタッフのオバチャンが振り返り、デカい独り言を言いながら競歩みたいな勢いで歩く女子高生を呆気に取られて眺めている。


『あー、ソフト部は河川敷公園のグラウンドか』


「そうだよ、学校のグラウンドは天下の野球部サマの1年が占領してますからねっ。

専用の球場まであんのに、なんなの、野球部ばっか優遇されて。

あたしらだって大会だっつーの!ほんとムカつく……。

てか、なんでついて来んの⁈

早く戻りなよ、自分んとこに」


『しょーがねぇだろ、おまえから離れられねぇんだもん』


「だからなんでよ⁈」


『知らねぇよ、俺の意志じゃねぇし』


病院前の通りを河川敷の方へ向かう途中、すれ違った婆さんが振り返って怪訝そうに俺たちの方を見ているのが目に入る。

あの人には見えてんのかな?俺が。

いや…… 多分、、、


『あのさ、外で俺に話し掛けんの、やめた方がいいよ?

おまえ今、完全にヤバいヤツだぞ』


ピタリと足を止めて振り返ると、背後の俺に向かって“イーッ‼︎”って歯を剥いて顔をしかめて見せる、菜花。

婆さんがビクッとしてよろけながら足早に立ち去るのが見える。


菜花は俺を背中にくっつけたまま、またツカツカと歩き出す。

歩くのに合わせて左右に揺れるポニーテール。

…… 俺の言ってる意味分かってんのかな、こいつ。


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