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Ocean 4
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俺がガキみたいに泣きじゃくる間、菜花はずっと何も言わずに抱き締めていてくれた。
少し落ち着いてきて、しゃくりあげながら、菜花の柔らかい二の腕のひんやりした感触を頬に感じて、ちょっと恥ずかしくなってくる。
菜花、引いてねぇかな。わんわん泣き散らかしちゃって。
でも…… こんなのが元々の俺だったよなぁ……。
『…… おまえと、キャッチボールしたかった。
何遍も家の前まで行ったよ。
でも、もう昔みたく遊べねぇんだなー、って。
いつの間にかおまえのがずーっと先行っちゃってて、俺は置いてかれた気がして……』
胸に抱えた俺の頭を撫でながら、菜花が優しい声で囁く。
「あたしも誘ってもらえなくなって寂しかったよ。
男の子だったら良かったのに、って。
そしたら、ずっと一緒に野球できたのになぁ、って。
ヒロが陰ですっごい頑張ってるの解るから、結果出せてんの自分のことみたいに嬉しかったし誇らしいと思ってたけど…… 何だかどんどん遠くに行っちゃう気がして……」
少し身体を離して、菜花が腕の中の俺を覗き込む。
顔を上げると、菜花の顔が近付いて、互いに吸い寄せられるように自然に唇を重ねる。
想いが通じるって、触れ合えるってシアワセなことなんだなぁ、って噛み締める。
「やっぱりあたし、ヒロがいい。他の誰かじゃ嫌だ。
…… 話、聞いてたんでしょ?」
話って、昼間の女子トークのことか。
頷く代わりに、菜花の瞳をじっと見つめる。
うん、なんだよ?
「ちょっと前、去年卒業した先輩から付き合おうって言われて、迷ってたことがあったの。
ヒロは女の子達に囲まれて楽しそうにおしゃべりしてるしさー…… なんかもうあたしのことなんかどうでもよくなっちゃったのかなーって不貞腐れてた頃だったから。
先輩いい人そうだし、話面白くて、案外楽しくやれそうかなーなんて。
でも…… 車の中で急にキスされそうになって、思いっきり鼻に頭突き食らわして逃げてきちゃった。
顔近付いて来たら、“うわ、気持ち悪っ!”って思って。
ヒロの顔浮かんで…… 。
やっぱり嫌だ!って思ったの。ヒロ以外とじゃ」
頭突きか。やるな、菜花。
昼間パンチを食らった鼻のツーンとした痛みを思い出す……その後の金的も。
誰か知らんけどパイセン、鼻だけで済んで良かったっスね……。
「サッカー部の彼からは、“岡田のこと、どう思ってんの?”って聞かれたよ。
あたしが答えずにいたら、“そっか、そうだと思ってた”って……。
彼、ヒロのこと思って、あたしの気持ち確かめに来たみたい。
いい友達持って幸せだね、ヒロ」
う…… そんなことが。
でも多分、あいつはホントにおまえのこと好きなんだと思うよ。
おまえをずっと見てたから、おまえの視線の先にも、おまえのこと見てるヤツのことにも気付いてたんだよ。
…… クソっ。俺、マジクソだな。
あいつには本当に悪いことした……。
でもやっぱり、菜花は譲れないわ。
菜花だけは、誰にも。
見つめ合って気持ちを確かめ合い、抱き締め合うと、心の底から安心する。
この先どうなろうと関係ないってくらいに。
「…… いい加減告って来いって、思ってたよ」
気付いてたよ。自信はなかったけど。
わざわざ突き放すような…… 試すようなことばっかやって、何してたんだろうな、俺。
『…… 俺だけは“ナイ”んじゃなかったのかよ』
泣き顔見られて恥ずいのを誤魔化したくて恨み言を言う俺に、菜花、
「あ、あれは、…… あの中にヒロのこと好きな娘が居たから……」
『あぁ?』
「あたしがヒロのこと取られるのが嫌で、必死でガードしてる!みたいに言われたからさ。
ヒロも、もしかしたらあたしみたいなのよりこんなコの方が…… って思ったから…… “告ってみたら?”って言っちゃった。
“でもあいつ大事な時期だから、今はやめといた方がいいかも”なんて、分かり易い牽制しちゃったりもしたけど。
…… バカだよね」
何だ。お互いに同じようなことしてたって訳か。
ほんとバカだな、俺もおまえも。
こんなことでもなければ、互いに後悔を残したまま、別の誰かと付き合って、でも結局忘れられなくて…… って女子達が観てるドラマみたいなことになってたかも知れない。
「知らないでしょ。ヒロってさ、結構モテるんだよ?」
『はぁ…… 慰めどーも 』
「や、慰めとかじゃないから!
中学のときから結構モテてたよ。
ほら、何だっけ、あの…… 英一先輩みたいなアイドル的な感じじゃなくてさ」
何だっけって。失礼なヤツだなー。
おまえ、周りの女子と一緒に散々騒いでたじゃねぇかよ。
英一さんカッコいい~♡抱かれたい~♡って。
まぁ、あの頃のおまえらには“抱かれる”の意味なんか分かってなかっただろうし…… あの人、男の俺から見てもカッコよかったからなー。
あの無敵の王子感。憧れるのも無理もねぇわ。
実際、中身は結構計算高くて大分腹黒かったけどな…… そういうとこも含みで、全部カッコ良かった。
「ヒロには割とガチめに想いを寄せてる娘、居たんだよ?陰ながら」
どうせなら表立ってモテたかったよ俺は……。
まぁ、告られたとしても断ったとは思うけどな。
「ヒロのこと好きなコはね、大体“性格良いから”とか“優しいよね”とか“おかん系だよね”って。
“筋肉スゴイ”、“キャッチャー体型カワイイ”、“野球部っていうより柔道部っぽい”」
あー、それは知ってるよ。
“褌似合いそう!”なんて言われたこともあるし。
勝手なこと言いやがるよなぁ…… 元々ガリの俺がこの身体造って維持するのにどんだけ苦労してると。
「“あんだけカラダ良かったら顔とか関係ないよねー”」
『…… それ普通にディスってね?』
「あたしは顔も割といいと思ってるけどね」
言っといて自分で恥ずかしくなったのか、
「…… 何ぁんでもいいでしょ!あたしにモテてんだから!」
聖母の抱擁がヘッドロックに代わり、実際逝きかける。
ぐえ。こいつのおっぱい、半分くらいは胸筋だろ……。
苦し紛れに菜花の腕を掴もうとして、何やら弾力のある膨らみを掴んでしまい、焦る。
な、なんだこれ。
ソフトテニスのボールみたいな感触の…… えっ何これ手が勝手に。
「ちょっ…… ちょっと」
怯んだ菜花が腕を弛めた隙を突いて、しっかり掴み直して揉んでみる。
や、マジで柔らかい。気持ちいい。
永久に揉んでいられるわ、この感触。
薄い布地の下、ポチッと浮き上がってる場所を指先が掠めると、菜花が微かに甘い吐息を漏らす。
「…… んっ……」
え、感じてんのかこれ?
俺に触られて?
俄然、興奮する。
ガバッと跳ね起き、菜花の上になる。
胸元を隠してる菜花の両手を掴んで脇に退かすと、下着の薄い生地を透かしてまん丸い膨らみとその先っぽの形が露わになる。
「…… やぁん……」
とか言いつつ菜花、全く嫌そうじゃない。
むしろそんな悩ましい声上げてみせちゃって、誘ってんだろ。
ほら俺、着てた筈のシャツ無くなって上裸になってるし。
てかまず、この下ノーブラじゃねぇかおまえ……。
ゴクリ。
馬乗りになって菜花の両手を掴んだまま、一応確認する。
『…… してもいい、つったよな?』
俺の下で、菜花が上目遣いに見上げる。
「…… うん…… 」
恥ずかしそうに目を潤ませて、
「…… いいよ。
ヒロの好きにして」
…… たまんねぇな。
言われてみたかった台詞、ナンバーワンだ!
菜花の言葉に興奮した俺、かぶり付くみたいにキスする。
菜花の唇、他の何にも喩え難いほど柔らかくて、ぷるんとしてて、気持ちいい。
下唇をはむはむ。
口を開いて、下唇も一緒にはむはむ。
普段あんだけ俺に対して強い態度とってるクセに、俺にされるままになってるのが可愛いくて、食っちまいたくなる。
あぁもうほんとに食っちまうぞ、こうなったら!
ガシッと背中ごと頭を掴んで舌先で唇をくすぐりながら差し込もうとすると、戸惑いがちにうっすらと開く。
本能のままに舌を差し挿れ、唇の裏側や口蓋を愛撫しながら更に奥へと舌を伸ばし、菜花の小っちゃな舌を誘い出すように根元を舐めて、出てきたところを絡め取って吸い上げる。
「んんっ…… んぅっ……」
俺の胸に置かれた菜花の手を掴み、指を絡めて握って引き寄せる。
こういうエッチなキス、してみたかったんだよな。
あぁ、ゾクゾクする。
菜花の口ん中、俺の舌で犯してるみたいで。
「はぁっ…… はぁっ……」
唇を離すと、息をするタイミングが分からなかったようで、菜花が息を切らしながらゆっくりと目を開く。
濡れた瞳が俺を捉える。
…… 何やら疑わしそうな眼差し。
「なんかヒロ、慣れてる……?」
『は?…… 俺、初めてだけど』
「ほんとに?」
俺の唇に目を落としながら、細い人差し指の先で触れる。
「じゃあ…… あの時から、誰ともしてない?」
『…… してねぇよ、』
する訳ねぇだろ、おまえ以外の女子には全く興味無いこの俺が。
他の女子には、誘うみたいに振られた下ネタ、媚びるような上目遣いや甘ったるい声、無遠慮なボディタッチにすら反応しないで、身も心もガッチリ貞操守ってきたんだぜ。
おまえにだけなんだよ、傍に居るだけで性的に興奮するのなんか…… 多分、あの時から植え付けられちゃってるから。
思い出しながら、唇に触れてる菜花の指先を掴んで自分の手の中に包み込み、両手を捕まえて再びキスにのめり込む。
小学2年のとき。
ここ…… 菜花の部屋でままごとに付き合わされてた俺は、何故か唐突に思ったことを口にしてたんだ。
このままなのかちゃんと、ずーっといっしょにいられたらいいのにな……。
「…… なのかちゃん。
大人になったら、ぼくとけっこんしてくれる?」
「いいよー」
即答だった。
あ、いや、そんな、“あーそーぼ” “いーいーよ” みたいなノリじゃなくて…… なんかもうちょっとさー、なんて、子ども心にも思った。
つーか言ったはいいが、結婚てどういうことなんだ?
「けっこんて、なにするか知ってる?」
「えーと、けっこんしたら、赤ちゃんうまれるよー」
人形を抱っこしてあやしてる菜花を見て、なるほどと思う。
そうか。考えつかなかった。
なのかちゃんは女の子だから、結婚したらお母さんになるのか。
じゃあぼくはお父さんに?
お父さんて…… 何をすればいいんだろう?
ウチの父ちゃんを思い浮かべても、皆目分からない。
商船で国外回ってる船乗りだから、家に居ないことが多過ぎて、たまに居るときにキャッチボールしてくれることはあっても、他のときはいつもゴロゴロしてて。
家のことは母ちゃんが一人で何でもこなしてる。
まだたまにおねしょしてる俺と、よだれ垂らしてる弟と、母ちゃんの腹の中で産まれてくるのを待ってる…… “今度こそ女の子かなぁ~”なんて言われてるヤツを抱えて。
あの頃は父ちゃん、一年の内3回くらいしか帰って来なかったから、母ちゃんほんとに大変だったと思う。
帰って来ても父ちゃんは何するでもなく、母ちゃんに甘えて面倒見られてばかりで。
それでも母ちゃんは父ちゃんのことが大好きなんだよなぁ。
帰って来ると、玄関口で抱き付いて泣いちゃうくらいに。
父ちゃんは、そんな母ちゃんをいつも優しくぎゅう~って抱っこする。
何も言わずに。
本当は父ちゃんも、母ちゃんのことが大好きなんだよな。
そうだ。
ぼくは、近くでお仕事して毎日お家に帰ってきて、子どもといっぱい遊んでくれるお父さんになるぞ。
そして、お母さんを…… なのかちゃんを、なのかちゃんよりもいっぱい好きなお父さんになる!
なのかちゃんには、ぜったいにさびしい思いをさせたくないから、大好きだよ、って、毎日毎日抱っこするんだ……。
そう考えた俺は、菜花をぎゅーっと抱っこした。
ただ純粋に大好きな気持ちで。
あの時の、菜花のびっくりした顔。
目をまん丸にして、ちょっと恥ずかしそうにしてて、でも嬉しそうで。
すごく可愛いくて、この顔絶対忘れたくない、って思った。
「ひろくん」
「?」
身体を離した俺の口に、菜花がちゅっ、と唇を当てた。
「ずーっと、いっしょにいようね」
ななななんだ?今のは。
動揺して返事も出来ずに居る俺に、菜花が小2にあるまじき色っぽい表情で囁いた。
「ひろくんも、なのかにチュウして?」
「…………⁈」
目を閉じて待つ菜花の唇に、ドキドキしながら自分の唇を当てた俺は、もう、身も心も菜花に捧げた気分だった。
「2人だけのひみつね。やくそくだよ?」
「…… うん!」
あの後しばらく俺たちは、2人で遊ぶ度に、抱き合ってキスしてた。
菜花の母ちゃんに見つかって、“そういうことするのは大人になってから!”って叱られるまでは……。
少し落ち着いてきて、しゃくりあげながら、菜花の柔らかい二の腕のひんやりした感触を頬に感じて、ちょっと恥ずかしくなってくる。
菜花、引いてねぇかな。わんわん泣き散らかしちゃって。
でも…… こんなのが元々の俺だったよなぁ……。
『…… おまえと、キャッチボールしたかった。
何遍も家の前まで行ったよ。
でも、もう昔みたく遊べねぇんだなー、って。
いつの間にかおまえのがずーっと先行っちゃってて、俺は置いてかれた気がして……』
胸に抱えた俺の頭を撫でながら、菜花が優しい声で囁く。
「あたしも誘ってもらえなくなって寂しかったよ。
男の子だったら良かったのに、って。
そしたら、ずっと一緒に野球できたのになぁ、って。
ヒロが陰ですっごい頑張ってるの解るから、結果出せてんの自分のことみたいに嬉しかったし誇らしいと思ってたけど…… 何だかどんどん遠くに行っちゃう気がして……」
少し身体を離して、菜花が腕の中の俺を覗き込む。
顔を上げると、菜花の顔が近付いて、互いに吸い寄せられるように自然に唇を重ねる。
想いが通じるって、触れ合えるってシアワセなことなんだなぁ、って噛み締める。
「やっぱりあたし、ヒロがいい。他の誰かじゃ嫌だ。
…… 話、聞いてたんでしょ?」
話って、昼間の女子トークのことか。
頷く代わりに、菜花の瞳をじっと見つめる。
うん、なんだよ?
「ちょっと前、去年卒業した先輩から付き合おうって言われて、迷ってたことがあったの。
ヒロは女の子達に囲まれて楽しそうにおしゃべりしてるしさー…… なんかもうあたしのことなんかどうでもよくなっちゃったのかなーって不貞腐れてた頃だったから。
先輩いい人そうだし、話面白くて、案外楽しくやれそうかなーなんて。
でも…… 車の中で急にキスされそうになって、思いっきり鼻に頭突き食らわして逃げてきちゃった。
顔近付いて来たら、“うわ、気持ち悪っ!”って思って。
ヒロの顔浮かんで…… 。
やっぱり嫌だ!って思ったの。ヒロ以外とじゃ」
頭突きか。やるな、菜花。
昼間パンチを食らった鼻のツーンとした痛みを思い出す……その後の金的も。
誰か知らんけどパイセン、鼻だけで済んで良かったっスね……。
「サッカー部の彼からは、“岡田のこと、どう思ってんの?”って聞かれたよ。
あたしが答えずにいたら、“そっか、そうだと思ってた”って……。
彼、ヒロのこと思って、あたしの気持ち確かめに来たみたい。
いい友達持って幸せだね、ヒロ」
う…… そんなことが。
でも多分、あいつはホントにおまえのこと好きなんだと思うよ。
おまえをずっと見てたから、おまえの視線の先にも、おまえのこと見てるヤツのことにも気付いてたんだよ。
…… クソっ。俺、マジクソだな。
あいつには本当に悪いことした……。
でもやっぱり、菜花は譲れないわ。
菜花だけは、誰にも。
見つめ合って気持ちを確かめ合い、抱き締め合うと、心の底から安心する。
この先どうなろうと関係ないってくらいに。
「…… いい加減告って来いって、思ってたよ」
気付いてたよ。自信はなかったけど。
わざわざ突き放すような…… 試すようなことばっかやって、何してたんだろうな、俺。
『…… 俺だけは“ナイ”んじゃなかったのかよ』
泣き顔見られて恥ずいのを誤魔化したくて恨み言を言う俺に、菜花、
「あ、あれは、…… あの中にヒロのこと好きな娘が居たから……」
『あぁ?』
「あたしがヒロのこと取られるのが嫌で、必死でガードしてる!みたいに言われたからさ。
ヒロも、もしかしたらあたしみたいなのよりこんなコの方が…… って思ったから…… “告ってみたら?”って言っちゃった。
“でもあいつ大事な時期だから、今はやめといた方がいいかも”なんて、分かり易い牽制しちゃったりもしたけど。
…… バカだよね」
何だ。お互いに同じようなことしてたって訳か。
ほんとバカだな、俺もおまえも。
こんなことでもなければ、互いに後悔を残したまま、別の誰かと付き合って、でも結局忘れられなくて…… って女子達が観てるドラマみたいなことになってたかも知れない。
「知らないでしょ。ヒロってさ、結構モテるんだよ?」
『はぁ…… 慰めどーも 』
「や、慰めとかじゃないから!
中学のときから結構モテてたよ。
ほら、何だっけ、あの…… 英一先輩みたいなアイドル的な感じじゃなくてさ」
何だっけって。失礼なヤツだなー。
おまえ、周りの女子と一緒に散々騒いでたじゃねぇかよ。
英一さんカッコいい~♡抱かれたい~♡って。
まぁ、あの頃のおまえらには“抱かれる”の意味なんか分かってなかっただろうし…… あの人、男の俺から見てもカッコよかったからなー。
あの無敵の王子感。憧れるのも無理もねぇわ。
実際、中身は結構計算高くて大分腹黒かったけどな…… そういうとこも含みで、全部カッコ良かった。
「ヒロには割とガチめに想いを寄せてる娘、居たんだよ?陰ながら」
どうせなら表立ってモテたかったよ俺は……。
まぁ、告られたとしても断ったとは思うけどな。
「ヒロのこと好きなコはね、大体“性格良いから”とか“優しいよね”とか“おかん系だよね”って。
“筋肉スゴイ”、“キャッチャー体型カワイイ”、“野球部っていうより柔道部っぽい”」
あー、それは知ってるよ。
“褌似合いそう!”なんて言われたこともあるし。
勝手なこと言いやがるよなぁ…… 元々ガリの俺がこの身体造って維持するのにどんだけ苦労してると。
「“あんだけカラダ良かったら顔とか関係ないよねー”」
『…… それ普通にディスってね?』
「あたしは顔も割といいと思ってるけどね」
言っといて自分で恥ずかしくなったのか、
「…… 何ぁんでもいいでしょ!あたしにモテてんだから!」
聖母の抱擁がヘッドロックに代わり、実際逝きかける。
ぐえ。こいつのおっぱい、半分くらいは胸筋だろ……。
苦し紛れに菜花の腕を掴もうとして、何やら弾力のある膨らみを掴んでしまい、焦る。
な、なんだこれ。
ソフトテニスのボールみたいな感触の…… えっ何これ手が勝手に。
「ちょっ…… ちょっと」
怯んだ菜花が腕を弛めた隙を突いて、しっかり掴み直して揉んでみる。
や、マジで柔らかい。気持ちいい。
永久に揉んでいられるわ、この感触。
薄い布地の下、ポチッと浮き上がってる場所を指先が掠めると、菜花が微かに甘い吐息を漏らす。
「…… んっ……」
え、感じてんのかこれ?
俺に触られて?
俄然、興奮する。
ガバッと跳ね起き、菜花の上になる。
胸元を隠してる菜花の両手を掴んで脇に退かすと、下着の薄い生地を透かしてまん丸い膨らみとその先っぽの形が露わになる。
「…… やぁん……」
とか言いつつ菜花、全く嫌そうじゃない。
むしろそんな悩ましい声上げてみせちゃって、誘ってんだろ。
ほら俺、着てた筈のシャツ無くなって上裸になってるし。
てかまず、この下ノーブラじゃねぇかおまえ……。
ゴクリ。
馬乗りになって菜花の両手を掴んだまま、一応確認する。
『…… してもいい、つったよな?』
俺の下で、菜花が上目遣いに見上げる。
「…… うん…… 」
恥ずかしそうに目を潤ませて、
「…… いいよ。
ヒロの好きにして」
…… たまんねぇな。
言われてみたかった台詞、ナンバーワンだ!
菜花の言葉に興奮した俺、かぶり付くみたいにキスする。
菜花の唇、他の何にも喩え難いほど柔らかくて、ぷるんとしてて、気持ちいい。
下唇をはむはむ。
口を開いて、下唇も一緒にはむはむ。
普段あんだけ俺に対して強い態度とってるクセに、俺にされるままになってるのが可愛いくて、食っちまいたくなる。
あぁもうほんとに食っちまうぞ、こうなったら!
ガシッと背中ごと頭を掴んで舌先で唇をくすぐりながら差し込もうとすると、戸惑いがちにうっすらと開く。
本能のままに舌を差し挿れ、唇の裏側や口蓋を愛撫しながら更に奥へと舌を伸ばし、菜花の小っちゃな舌を誘い出すように根元を舐めて、出てきたところを絡め取って吸い上げる。
「んんっ…… んぅっ……」
俺の胸に置かれた菜花の手を掴み、指を絡めて握って引き寄せる。
こういうエッチなキス、してみたかったんだよな。
あぁ、ゾクゾクする。
菜花の口ん中、俺の舌で犯してるみたいで。
「はぁっ…… はぁっ……」
唇を離すと、息をするタイミングが分からなかったようで、菜花が息を切らしながらゆっくりと目を開く。
濡れた瞳が俺を捉える。
…… 何やら疑わしそうな眼差し。
「なんかヒロ、慣れてる……?」
『は?…… 俺、初めてだけど』
「ほんとに?」
俺の唇に目を落としながら、細い人差し指の先で触れる。
「じゃあ…… あの時から、誰ともしてない?」
『…… してねぇよ、』
する訳ねぇだろ、おまえ以外の女子には全く興味無いこの俺が。
他の女子には、誘うみたいに振られた下ネタ、媚びるような上目遣いや甘ったるい声、無遠慮なボディタッチにすら反応しないで、身も心もガッチリ貞操守ってきたんだぜ。
おまえにだけなんだよ、傍に居るだけで性的に興奮するのなんか…… 多分、あの時から植え付けられちゃってるから。
思い出しながら、唇に触れてる菜花の指先を掴んで自分の手の中に包み込み、両手を捕まえて再びキスにのめり込む。
小学2年のとき。
ここ…… 菜花の部屋でままごとに付き合わされてた俺は、何故か唐突に思ったことを口にしてたんだ。
このままなのかちゃんと、ずーっといっしょにいられたらいいのにな……。
「…… なのかちゃん。
大人になったら、ぼくとけっこんしてくれる?」
「いいよー」
即答だった。
あ、いや、そんな、“あーそーぼ” “いーいーよ” みたいなノリじゃなくて…… なんかもうちょっとさー、なんて、子ども心にも思った。
つーか言ったはいいが、結婚てどういうことなんだ?
「けっこんて、なにするか知ってる?」
「えーと、けっこんしたら、赤ちゃんうまれるよー」
人形を抱っこしてあやしてる菜花を見て、なるほどと思う。
そうか。考えつかなかった。
なのかちゃんは女の子だから、結婚したらお母さんになるのか。
じゃあぼくはお父さんに?
お父さんて…… 何をすればいいんだろう?
ウチの父ちゃんを思い浮かべても、皆目分からない。
商船で国外回ってる船乗りだから、家に居ないことが多過ぎて、たまに居るときにキャッチボールしてくれることはあっても、他のときはいつもゴロゴロしてて。
家のことは母ちゃんが一人で何でもこなしてる。
まだたまにおねしょしてる俺と、よだれ垂らしてる弟と、母ちゃんの腹の中で産まれてくるのを待ってる…… “今度こそ女の子かなぁ~”なんて言われてるヤツを抱えて。
あの頃は父ちゃん、一年の内3回くらいしか帰って来なかったから、母ちゃんほんとに大変だったと思う。
帰って来ても父ちゃんは何するでもなく、母ちゃんに甘えて面倒見られてばかりで。
それでも母ちゃんは父ちゃんのことが大好きなんだよなぁ。
帰って来ると、玄関口で抱き付いて泣いちゃうくらいに。
父ちゃんは、そんな母ちゃんをいつも優しくぎゅう~って抱っこする。
何も言わずに。
本当は父ちゃんも、母ちゃんのことが大好きなんだよな。
そうだ。
ぼくは、近くでお仕事して毎日お家に帰ってきて、子どもといっぱい遊んでくれるお父さんになるぞ。
そして、お母さんを…… なのかちゃんを、なのかちゃんよりもいっぱい好きなお父さんになる!
なのかちゃんには、ぜったいにさびしい思いをさせたくないから、大好きだよ、って、毎日毎日抱っこするんだ……。
そう考えた俺は、菜花をぎゅーっと抱っこした。
ただ純粋に大好きな気持ちで。
あの時の、菜花のびっくりした顔。
目をまん丸にして、ちょっと恥ずかしそうにしてて、でも嬉しそうで。
すごく可愛いくて、この顔絶対忘れたくない、って思った。
「ひろくん」
「?」
身体を離した俺の口に、菜花がちゅっ、と唇を当てた。
「ずーっと、いっしょにいようね」
ななななんだ?今のは。
動揺して返事も出来ずに居る俺に、菜花が小2にあるまじき色っぽい表情で囁いた。
「ひろくんも、なのかにチュウして?」
「…………⁈」
目を閉じて待つ菜花の唇に、ドキドキしながら自分の唇を当てた俺は、もう、身も心も菜花に捧げた気分だった。
「2人だけのひみつね。やくそくだよ?」
「…… うん!」
あの後しばらく俺たちは、2人で遊ぶ度に、抱き合ってキスしてた。
菜花の母ちゃんに見つかって、“そういうことするのは大人になってから!”って叱られるまでは……。
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