公爵令嬢、過保護な父と毒舌な弟に結婚を妨害されています~誰かこの家の男どもを止めてください~【完】

午前3時の雨音

文字の大きさ
2 / 39

第2話『家族会議という名の尋問タイム』

しおりを挟む
「では、次の候補者について話し合いましょうか」

そう切り出したのは――母だった。

まさかの発言に、私は思わず紅茶を吹きそうになった。

「……母様、まさか“賛成”されるおつもりですの?」

「いえ、ただ“話し合い”と言っただけですわ」

微笑みを浮かべる母は相変わらず美しく、優雅で、そしてどこか恐ろしい。
あの“悪役令嬢”と呼ばれた過去は、やはり伊達ではない。

グランツレーヴ家のサロン。
朝食後の落ち着いた空気の中、父・母・弟・私の4人が揃ったこの空間にて、
“第12回・リアーナの結婚相手を真剣に考える会”が、粛々と開始された。

父は腕を組み、弟は資料を広げ、母は茶器を整え、私は――早くも自室に戻りたい。
この場における私の存在価値は、“議題”でしかないのだから。

「次の候補者ですが、年齢は25歳。侯爵家の次男。現在は学術院に所属し、魔導器の研究を行っているとのことです」
弟のレオンが、事務的な口調で説明を始める。

「……魔導器研究、ですの?」

「ええ。詳細は不明ですが、古代文字の解読と転写機構の改良に関わっているとか。王立図書院にも論文を寄せているようです」

魔導器――それは、魔力を利用して動く道具の総称である。
照明、水の浄化、遠話通信など、現代では生活に欠かせないものとなっている。
ただし、構造が複雑なため、研究者は限られており、貴族社会ではやや“変わり者”扱いされることもある職業だ。

「実務能力があり、知性も十分。調査によれば貴族学院時代も品行方正で問題なし」

「だが研究職だ。魔導器の研究など、どこで何をしているのか外からは見えにくい」
父が静かに、しかし明確に難色を示す。

「……お父様、それは少々偏見では?」

「私は“職”を疑っているのではない。“人間性の見えづらさ”を懸念している」

「姉上のような方が、研究者と性格的に合うとも思えません」
レオンが横から挟んでくる。

「どういう意味ですの?」

「率直に言えば、姉上は人とのやり取りが上手すぎる。無口な相手だと、会話が成り立たず、ストレスを溜めるのではと」

「……ちょっとくらい静かな方でも構いませんわよ?」

「“ちょっと”では済まない場合がほとんどです」

この弟、13歳にしてこの物言い。いったい誰に似たのかしら。
――……たぶん、父ね。

「魔導器の話なら、わたくしも少しは心得がありますし、話は合うかもしれません」

「趣味の一致で結婚するほど、甘くはない」
父、またもや即答。ある意味で信頼できる判断スピードだとは思うけれど、今はそういう問題ではない。

「姉上が、本気で“この人と共に生きたい”と願えるような相手でなければ意味がない。書類のスペックでは判断できません」
レオンが最後にそうまとめた。冷静、かつ的確。まるで小さな判事。

……わたくしの人生は、いつから公開審理になったのでしょうか。

「……こうして、わたくしの結婚は家族会議で決められていくのですのね」
思わずぼやくように呟けば、母が優雅に笑ってお茶を注ぎなおしてくれた。

「それだけ、大切に思ってくれているということよ」

「重すぎますわ、母様」

「ふふ。貴族の娘にとって、重すぎるほどの愛情は、時に一番の鎧になるものよ」

――なるほど。けれど、わたくしが求めているのは、“結婚の許可”という名の鍵なのですが。

そして今日も、また1人、候補者が静かに消えていく。

もはや恋ではなく、尋問。そして、審問ですわね……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子に理不尽に婚約破棄されたので辺境を改革したら、王都に戻ってきてくれと言われました

水上
恋愛
【全18話完結】 「君は中身まで腐っている」と婚約破棄されたエリアナ。 そんな彼女は成り行きで辺境へ嫁ぐことに。 自身の知識と技術で辺境を改革するエリアナ。 そんな彼女を、白い結婚のはずなのに「膝枕は合理的だ」と甘やかす夫。 一方、エリアナを追放した王都では、彼女の不在の影響が出始めて……。

ガハハと笑う公爵令嬢は、王太子の自由を縛らない ~水戸黄門ムーブでざまぁします~

ふわふわ
恋愛
「公爵令嬢? 柄じゃねえな!」 前世の記憶が蘇った瞬間、 ウィンタースイート公爵令嬢ガラリアは“貴族らしく生きる”ことをやめた。 怒鳴る、笑う、現場に出る。 孤児院、病院、工事現場―― 権力ではなく足で歩き、不正を正す水戸黄門ムーブが彼女の日常。 その振る舞いを理由に、婚約者からはあっさり婚約破棄。 しかしガラリアは気にしない。 「オーケー、俺もそう思う」 ところがその自由さに目を留めたのは、 理解できないまま理解しようとする王太子ディーンだった。 「あなたの自由を縛るつもりはありません」 型破りな公爵令嬢と、束縛しない王太子。 静かなざまぁと、現場主義の信頼が積み重なる、 “笑っているのに強い”逆転恋愛譚。

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

役立たずと捨て石にされたコミュ障皇女は、死地に送られ愛される

なかの豹吏
恋愛
   テオリカンの皇女、ヴァレリア。  三姉妹の末娘である彼女は社交性も乏しく、挨拶をしてもどもるばかり。  年の離れた公爵令息に言い寄られるも、それを狙う姉に邪魔だと邪険に扱われる始末。  父親から社交界では使えないと評され、ヴァレリアは十三歳にして滅亡寸前の弱小国、ドミトリノ王国へ謀略の為の『生贄』として差し出されるのであった。  そこで結婚相手となる皇子、マリウスと出会い彼と接するうちに恋心が芽ばえるヴァレリア。  だが今回の結婚の目的は、テオリカンがドミトリノ王国を奪い取る為の謀略だった。  負け戦とわかっていてもなお決起に燃えるマリウス率いるドミトリノ王国軍。  その出陣前にヴァレリアは―――。

無能な私を捨ててください!と婚約破棄を迫ったら溺愛?

萩月
恋愛
公爵令嬢のルルナには悩みがあった。それは、魔力至上主義のこの国で、成人を過ぎても一切の魔力が開花していない「無能令嬢」であること。 完璧超人の第一王子・アリスティアの婚約者として相応しくないと絶望した彼女は、彼を汚点から守るため、ある決意をする。 「そうだ、最低最悪の悪役令嬢になって、彼に愛想を尽かされて婚約破棄されよう!」

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

冷徹王子に捨てられた令嬢、今ではその兄王に溺愛されています

ゆっこ
恋愛
 ――「お前のような女に、俺の隣は似合わない」  その言葉を最後に、婚約者であった第二王子レオンハルト殿下は私を冷たく突き放した。  私、クラリス・エルデンは侯爵家の令嬢として、幼い頃から王子の婚約者として育てられた。  しかし、ある日突然彼は平民出の侍女に恋をしたと言い出し、私を「冷酷で打算的な女」だと罵ったのだ。  涙も出なかった。  あまりに理不尽で、あまりに一方的で、怒りも悲しみも通り越して、ただ虚しさだけが残った。

処理中です...