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第13話『宰相の試練、王妃の資質』
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「“王宮女性懇談会”……ですか?」
朝食の席でリセルが放った一言に、リアーナは手を止めた。
王妃候補に与えられる“社交のお披露目”だとは聞いていたが、それが今日とは。
「正式には“王宮女性懇談会”。
でも、実際は“令嬢たちによる観察と牽制の場”だと思ってください」
リセルの声には、わずかに迷いと不安が混じっていた。
「率直に申し上げて、嫌な空気しかいたしませんわ」
リアーナは溜息を一つつき、ナイフとフォークを揃えた。
「……断れますよ。もし不安があれば――」
「いえ、出席します」
即答だった。
一瞬驚いたように目を見開いたリセルに、リアーナは微笑む。
「王妃になるには、“選ばれる”だけでは足りませんもの。
母様も、こういう場で幾度も刺されながら、刺し返して生き延びてこられましたし」
「……刺し返す、とは……」
「優雅に微笑んで、言葉で一撃。それが“悪役令嬢流”ですのよ」
---
白銀の間――
王宮の中でも、貴族女性のみが集まる上位階級専用の社交サロン。
本日集まっているのは、王族に縁ある貴族の娘たちと、宰相リステラ公の親族。
全員が整った衣装に身を包み、すでに“戦場”のような気配を放っていた。
扉が開き、リアーナが入室した瞬間――場の空気が、ぴたりと止まる。
(これほどあからさまに空気が変わるとは……歓迎の意志はゼロ、ということですわね)
リアーナは、慣れた動きで軽く会釈した。
「遅れてしまい、申し訳ありません。
アルヴェルト王国の“空気”を肌で覚えようとして、少し風にあたっておりましたの」
それだけで、軽く笑いが漏れる。
その中で、一人の女性が歩み寄る。
漆黒の髪に紫のドレス、完璧な立ち居振る舞い――宰相の姪、シルヴィア・アシュレイン。
「ごきげんよう、リアーナ様。
異国の空気はいかがかしら? アルヴェルトの冬は少し厳しいでしょう?」
「ええ。ですが、わたくし“寒さには強くなる家系”ですのよ。
少し風が刺すくらいで怯えていたら、母に笑われてしまいますわ」
シルヴィアの笑顔が、ほんの少し固くなる。
「さすがですね。……母上は確か、ラクリエルでも名を馳せた“強いお方”だったと聞いております。
まさか、令嬢も同じ“気性”でいらっしゃるとは」
「母ほどではありませんわ。
わたくし、言葉選びはもっと丁寧にしておりますので。
母は“皮肉で殴るより、沈黙で刺す”派でしたから」
(あら、意外と引きませんわね。……では、こちらから“揺さぶり”を)
リアーナは笑みを崩さず一歩踏み出す。
「シルヴィア様。
“宮廷の空気”に馴染めない方は王妃には不向き――そんなお声があると、耳にしましたの。
でも、それを決めるのは、“空気”ではなく、“意志”ではないかしら?」
「……意志、ですか?」
「ええ。国を動かすのは“品位”でも“血筋”でもなく、
“どれだけその国を愛し、選ぶか”だと思いますの。
わたくしはこの国に嫁いだのではなく――この国と、彼を“選んで”来ましたのよ」
室内が静まり返った。
――上品な言葉に包まれた、明確な宣戦布告。
リアーナはにっこりと微笑みながら、席に着いた。
「本日のお茶はどちらの銘柄かしら?
わたくし、緑の香りが強いものより、香ばしさのあるものが好みですの」
誰も何も言えなかった。
---
しばらくして、室内の空気がようやく解け始めたとき。
サロンの扉が開き、宰相リステラ公が姿を現した。
「令嬢方、良き茶のひとときであったと信じよう。
さて――今日の懇談会。私はこれにて“判断”を下す」
彼の視線が、リアーナへと向く。
「……強く、柔らかく、しなやかであれ。
“王妃の資質”とは、ただ従順であることではない。
……本日、それを確認させてもらった」
「ありがたきお言葉ですわ。ですが――わたくし、“従順”とは縁が薄うございますので、
その分、努力させていただきますわね」
リステラ公の口元が、わずかに緩んだ。
「……なるほど。噂通り、“悪役令嬢”の血筋か。
だが、その娘の剣は、確かに“王家”の楯となるやもしれぬ」
---
その夜。
リアーナは寝室の鏡前で髪を梳かしていた。
ドアが控えめにノックされ、リセルが入ってくる。
「……大丈夫だった?」
「はい。初戦としては、上出来だったと思いますわ」
「何か言われたこと、辛いことがあったなら――」
「リセル様」
リアーナは振り返り、鏡越しに静かに笑った。
「辛い言葉を浴びる覚悟は、初めからありましたの。
むしろ――ようやく“戦える場所”に来た気がしていますわ」
「……リアーナ」
「母に教わったのです。“選ばれるだけでは、王妃にはなれない”って」
そして、彼女は髪を一つにまとめる。
「これからですわ。
この国で、わたくしの“名”を刻むのは――」
朝食の席でリセルが放った一言に、リアーナは手を止めた。
王妃候補に与えられる“社交のお披露目”だとは聞いていたが、それが今日とは。
「正式には“王宮女性懇談会”。
でも、実際は“令嬢たちによる観察と牽制の場”だと思ってください」
リセルの声には、わずかに迷いと不安が混じっていた。
「率直に申し上げて、嫌な空気しかいたしませんわ」
リアーナは溜息を一つつき、ナイフとフォークを揃えた。
「……断れますよ。もし不安があれば――」
「いえ、出席します」
即答だった。
一瞬驚いたように目を見開いたリセルに、リアーナは微笑む。
「王妃になるには、“選ばれる”だけでは足りませんもの。
母様も、こういう場で幾度も刺されながら、刺し返して生き延びてこられましたし」
「……刺し返す、とは……」
「優雅に微笑んで、言葉で一撃。それが“悪役令嬢流”ですのよ」
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白銀の間――
王宮の中でも、貴族女性のみが集まる上位階級専用の社交サロン。
本日集まっているのは、王族に縁ある貴族の娘たちと、宰相リステラ公の親族。
全員が整った衣装に身を包み、すでに“戦場”のような気配を放っていた。
扉が開き、リアーナが入室した瞬間――場の空気が、ぴたりと止まる。
(これほどあからさまに空気が変わるとは……歓迎の意志はゼロ、ということですわね)
リアーナは、慣れた動きで軽く会釈した。
「遅れてしまい、申し訳ありません。
アルヴェルト王国の“空気”を肌で覚えようとして、少し風にあたっておりましたの」
それだけで、軽く笑いが漏れる。
その中で、一人の女性が歩み寄る。
漆黒の髪に紫のドレス、完璧な立ち居振る舞い――宰相の姪、シルヴィア・アシュレイン。
「ごきげんよう、リアーナ様。
異国の空気はいかがかしら? アルヴェルトの冬は少し厳しいでしょう?」
「ええ。ですが、わたくし“寒さには強くなる家系”ですのよ。
少し風が刺すくらいで怯えていたら、母に笑われてしまいますわ」
シルヴィアの笑顔が、ほんの少し固くなる。
「さすがですね。……母上は確か、ラクリエルでも名を馳せた“強いお方”だったと聞いております。
まさか、令嬢も同じ“気性”でいらっしゃるとは」
「母ほどではありませんわ。
わたくし、言葉選びはもっと丁寧にしておりますので。
母は“皮肉で殴るより、沈黙で刺す”派でしたから」
(あら、意外と引きませんわね。……では、こちらから“揺さぶり”を)
リアーナは笑みを崩さず一歩踏み出す。
「シルヴィア様。
“宮廷の空気”に馴染めない方は王妃には不向き――そんなお声があると、耳にしましたの。
でも、それを決めるのは、“空気”ではなく、“意志”ではないかしら?」
「……意志、ですか?」
「ええ。国を動かすのは“品位”でも“血筋”でもなく、
“どれだけその国を愛し、選ぶか”だと思いますの。
わたくしはこの国に嫁いだのではなく――この国と、彼を“選んで”来ましたのよ」
室内が静まり返った。
――上品な言葉に包まれた、明確な宣戦布告。
リアーナはにっこりと微笑みながら、席に着いた。
「本日のお茶はどちらの銘柄かしら?
わたくし、緑の香りが強いものより、香ばしさのあるものが好みですの」
誰も何も言えなかった。
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しばらくして、室内の空気がようやく解け始めたとき。
サロンの扉が開き、宰相リステラ公が姿を現した。
「令嬢方、良き茶のひとときであったと信じよう。
さて――今日の懇談会。私はこれにて“判断”を下す」
彼の視線が、リアーナへと向く。
「……強く、柔らかく、しなやかであれ。
“王妃の資質”とは、ただ従順であることではない。
……本日、それを確認させてもらった」
「ありがたきお言葉ですわ。ですが――わたくし、“従順”とは縁が薄うございますので、
その分、努力させていただきますわね」
リステラ公の口元が、わずかに緩んだ。
「……なるほど。噂通り、“悪役令嬢”の血筋か。
だが、その娘の剣は、確かに“王家”の楯となるやもしれぬ」
---
その夜。
リアーナは寝室の鏡前で髪を梳かしていた。
ドアが控えめにノックされ、リセルが入ってくる。
「……大丈夫だった?」
「はい。初戦としては、上出来だったと思いますわ」
「何か言われたこと、辛いことがあったなら――」
「リセル様」
リアーナは振り返り、鏡越しに静かに笑った。
「辛い言葉を浴びる覚悟は、初めからありましたの。
むしろ――ようやく“戦える場所”に来た気がしていますわ」
「……リアーナ」
「母に教わったのです。“選ばれるだけでは、王妃にはなれない”って」
そして、彼女は髪を一つにまとめる。
「これからですわ。
この国で、わたくしの“名”を刻むのは――」
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