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年頃の女子が好きなのは、おしゃれと恋愛話だと相場は決まっている。
そして何より、一際厄介なのは人の恋路を応援しようとするお節介な女子集団だ。
「まぁ!ではでは!シル様はあのスプラウト様と両想いなんですの?!」
昼休みの中庭。
貴族令嬢たちが通う女学校。この場所は普段淑女を強いられている彼女たちにとって唯一の憩いの場となっている。
中でも賑わっているのは、立ち入り禁止の札が立てられているサクラの木の下でわいわい話し込んでいるグループ。
(入ってはいけない場所で、しかもあんな大声で談笑するなんて……品がないわね)
一目で分かる、私には苦手なタイプの集団だ。
そのリーダー格であるのは、周りの女子たちより頭ひとつ分背の高いパンツスタイルの制服を見に纏った人物。男装の麗人と噂されるシルビア=バレイン男爵令嬢だ。
「こ、ここだけの秘密だよ?」
焦ったように制するシルビア嬢だがその表情はどこか嬉しそうだ。
「ですがスプラウト様には婚約者様が……」
「ええ、グラシャ=ノーストス伯爵令嬢ですわ」
「ああ、あの有名な」
「美人で成績も良くて。夜会では周りの男たちにいつもちやほやされているあの」
好きでちやほやされている訳ではない。
そんな会話を盗み聞きする私、グラシャ=ノーストスは心の中で毒づく。
彼女たちが言っているのは私の婚約者、アシュレイ=スプラウトのことだろう。確かアシュレイ様とシルビア嬢は両親同士が仲が良く、小さい頃からよく遊んでいたとか。つまり身分は違えど幼馴染なのだ。
「アッシュは騎士学校を卒業したと同時にグラシャ嬢と結婚するらしいんだ」
そう言ってシルビア嬢は悲しげに微笑む。
女ばかりのこの女学校でどうやら彼女は王子様的存在らしい。長身で美形な彼女にはファンクラブも存在するくらいだ、そんな彼女が悲しそうな顔をしていれば当然取り巻きたちが黙っていない。
「そんな……想い合っているのはお二人なのに」
「何とかなりませんの?」
「爵位は伯爵といえノーストス家はここ数年で急成長した家ですから……きっとスプラウト様も強くは言えないんですよ」
「まぁ!家の力を使ってまでなんて酷い!」
取り巻きたちは次々に私の悪態をつく。
そんな彼女たちを見兼ねたシルビア嬢はニコッと微笑み、その場の空気を変えようと明るい声で笑った。
「ごめんね、君たちにそんな顔をさせたかった訳じゃないんだ」
「「「シル様……」」」
「ただ……その、やっぱり私はアッシュのことをちゃんと諦めきれなくて」
苦しそうに笑う彼女へ同情の目が集まる。
(……なんか、私の方が悪者じゃない?)
この婚約はスプラウト家からの申し出がきっかけ。まぁ息子であるアシュレイ様の本心はどうか分からないけど……だからって、まるで私が無理矢理2人を引き裂こうとしているみたい。
「ご安心下さいシル様!私たちはシル様の味方です!」
「はい!この恋、必ず成就させましょう!」
「家の力で引き離されたお二人を、私たちの家の力を使ってでも元通りに致しますから!」
鼻息の荒い令嬢たちに愕然としてしまう。
(女子の団結力って怖いわ)
そんな彼女たちにシルビア嬢は優しく微笑んだ。
「ありがとう。優しい君たちに応援して貰えるなら、もうちょっとだけ諦めずに頑張ってみようかな」
「その意気ですわシル様!」
「はい!邪魔な伯爵令嬢なんかやっつけましょう!」
(悪かったわね邪魔な伯爵令嬢で)
私は中庭からゆっくりと離れた。
一人で歩きながら彼女たちの会話を思い出す。
シルビア嬢曰く、彼女とアシュレイ様は両想いだと言ってたわ。2人の関係はよく知らないけど本人が言うならまず間違いないとは思うし……。
(身を引いた方が賢明なのかしら)
そもそもアシュレイ様とは政略結婚だ。
名家であるスプラウト家と、最近頭角を表してきた我が家。あちらから婚約の話があったと聞かされた時、侯爵家の後ろ盾があれば今よりもっと事業がし易いと思って申し出を受け入れたけど……。
アシュレイ様の立場になってみれば確かに可哀想な気がしてきた。
(……よし!本人に聞いてみよう)
もしアシュレイ様がシルビア嬢を好きだと言うなら私は潔く身を引こう。婚約破棄となれば当然慰謝料が発生するけど、そこは何とか最小限に抑えてもらって……うん、そうしよう。
こうして私は放課後になるのを待ち、アシュレイ様が通う騎士学校へ出向くことを決めたのだった。
そして何より、一際厄介なのは人の恋路を応援しようとするお節介な女子集団だ。
「まぁ!ではでは!シル様はあのスプラウト様と両想いなんですの?!」
昼休みの中庭。
貴族令嬢たちが通う女学校。この場所は普段淑女を強いられている彼女たちにとって唯一の憩いの場となっている。
中でも賑わっているのは、立ち入り禁止の札が立てられているサクラの木の下でわいわい話し込んでいるグループ。
(入ってはいけない場所で、しかもあんな大声で談笑するなんて……品がないわね)
一目で分かる、私には苦手なタイプの集団だ。
そのリーダー格であるのは、周りの女子たちより頭ひとつ分背の高いパンツスタイルの制服を見に纏った人物。男装の麗人と噂されるシルビア=バレイン男爵令嬢だ。
「こ、ここだけの秘密だよ?」
焦ったように制するシルビア嬢だがその表情はどこか嬉しそうだ。
「ですがスプラウト様には婚約者様が……」
「ええ、グラシャ=ノーストス伯爵令嬢ですわ」
「ああ、あの有名な」
「美人で成績も良くて。夜会では周りの男たちにいつもちやほやされているあの」
好きでちやほやされている訳ではない。
そんな会話を盗み聞きする私、グラシャ=ノーストスは心の中で毒づく。
彼女たちが言っているのは私の婚約者、アシュレイ=スプラウトのことだろう。確かアシュレイ様とシルビア嬢は両親同士が仲が良く、小さい頃からよく遊んでいたとか。つまり身分は違えど幼馴染なのだ。
「アッシュは騎士学校を卒業したと同時にグラシャ嬢と結婚するらしいんだ」
そう言ってシルビア嬢は悲しげに微笑む。
女ばかりのこの女学校でどうやら彼女は王子様的存在らしい。長身で美形な彼女にはファンクラブも存在するくらいだ、そんな彼女が悲しそうな顔をしていれば当然取り巻きたちが黙っていない。
「そんな……想い合っているのはお二人なのに」
「何とかなりませんの?」
「爵位は伯爵といえノーストス家はここ数年で急成長した家ですから……きっとスプラウト様も強くは言えないんですよ」
「まぁ!家の力を使ってまでなんて酷い!」
取り巻きたちは次々に私の悪態をつく。
そんな彼女たちを見兼ねたシルビア嬢はニコッと微笑み、その場の空気を変えようと明るい声で笑った。
「ごめんね、君たちにそんな顔をさせたかった訳じゃないんだ」
「「「シル様……」」」
「ただ……その、やっぱり私はアッシュのことをちゃんと諦めきれなくて」
苦しそうに笑う彼女へ同情の目が集まる。
(……なんか、私の方が悪者じゃない?)
この婚約はスプラウト家からの申し出がきっかけ。まぁ息子であるアシュレイ様の本心はどうか分からないけど……だからって、まるで私が無理矢理2人を引き裂こうとしているみたい。
「ご安心下さいシル様!私たちはシル様の味方です!」
「はい!この恋、必ず成就させましょう!」
「家の力で引き離されたお二人を、私たちの家の力を使ってでも元通りに致しますから!」
鼻息の荒い令嬢たちに愕然としてしまう。
(女子の団結力って怖いわ)
そんな彼女たちにシルビア嬢は優しく微笑んだ。
「ありがとう。優しい君たちに応援して貰えるなら、もうちょっとだけ諦めずに頑張ってみようかな」
「その意気ですわシル様!」
「はい!邪魔な伯爵令嬢なんかやっつけましょう!」
(悪かったわね邪魔な伯爵令嬢で)
私は中庭からゆっくりと離れた。
一人で歩きながら彼女たちの会話を思い出す。
シルビア嬢曰く、彼女とアシュレイ様は両想いだと言ってたわ。2人の関係はよく知らないけど本人が言うならまず間違いないとは思うし……。
(身を引いた方が賢明なのかしら)
そもそもアシュレイ様とは政略結婚だ。
名家であるスプラウト家と、最近頭角を表してきた我が家。あちらから婚約の話があったと聞かされた時、侯爵家の後ろ盾があれば今よりもっと事業がし易いと思って申し出を受け入れたけど……。
アシュレイ様の立場になってみれば確かに可哀想な気がしてきた。
(……よし!本人に聞いてみよう)
もしアシュレイ様がシルビア嬢を好きだと言うなら私は潔く身を引こう。婚約破棄となれば当然慰謝料が発生するけど、そこは何とか最小限に抑えてもらって……うん、そうしよう。
こうして私は放課後になるのを待ち、アシュレイ様が通う騎士学校へ出向くことを決めたのだった。
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