【完結】男装の麗人が私の婚約者を欲しがっているご様子ですが…

文字の大きさ
2 / 26

しおりを挟む
 
アシュレイ様の通う騎士学校は私のいる女学校のすぐ隣りにある。だから仲の良い婚約者同士なんかは校門前で待ち合わせをし、デートを兼ねて一緒に帰るのが主流ではあった。

が、私とアシュレイ様はこれまで一度も一緒に帰った事はない。

(仲が良い、とは少し違うのよね)

アシュレイ様はいつも仏頂面で何を考えているか分からない人。顔面の偏差値が高いから余計怖くて迫力がある、そんな印象だった。
彼を騎士学校の校門前で待っていると、すれ違う男子生徒たちがチラチラとこっちを伺っていた。

(んー……やっぱり出直そうかしら)

敷地の外とはいえ女子禁制のこの学校では少し目立ってしまう。こういう時はやっぱり事前に連絡を入れておいた方が良いわね。
校舎に背を向け帰ろうとした時だった、

「グラシャ嬢!」

後ろから声を掛けられて振り返る。

「アシュレイ様……」

さっぱりと切られた黒髪とガタイのいい体が遠くからでも分かってしまう。小走りに駆け寄って来たアシュレイ様はいつもと違って少し余裕のない表情をしている。
私はすかさず深く頭を下げた。

「突然押し掛けてしまい申し訳ありません」
「いや、構わないが……どうしたんだ?」

ものすごく不思議そうな顔をしているアシュレイ様に苦笑する。そうよね、今まで一度も会いに来なかった名ばかりの婚約者が急に来たんだもの。

「少しお話したいことがありまして……その、この後お時間ありますか?」
「話……夜の訓練までなら、」

そう言って気まずそうに視線を逸らされた。

(……シルビア嬢の話、本当なのかも)

彼はいつだって私と話すときに目を離す。
よっぽど私のことが嫌いなのか、それともシルビア嬢への罪悪感からなのか。いずれにせよ良くは思われてないんだろう。

「ここで済むような話ですが、出来れば人気のない場所の方が良いので……差し支えなければ我が家の馬車の中ではいかがですか」
「ああ。……いや、」
「え?」
「どこでも良いなら場所を決めてもいいか?」
「え、ええ」
「ならうちの馬車に乗ってくれ」
「?はい」

訓練で忙しい身なので手っ取り早く話を済ませようとしたが、アシュレイ様は少し悩んだ後そう言った。そして私の返事を待ち、そのままスタスタと馬車が待つ場所へと歩き出してしまった。

(えっと……ついて行けばいいのよね?)

小走りでアシュレイ様の後を追った。




*****

「えっと……」
「………」

辿り着いたのはこじんまりとしたお洒落なカフェ。美味しくて可愛らしいスイーツと外国からも仕入れている茶葉が有名で、令嬢たちの間で流行っていると聞いたことがある。
放課後の時間だというのに誰もいないテラス席で、私とアシュレイ様は無言のまま紅茶を飲んでいた。

「………」
「………」

(気まずい!ものすごく気まずいわ!)

わざわざ貸し切りにしてくれたのだろう、こんな人気店をすぐに貸し切りに出来るところが流石スプラウト家だ。
気まずさから目の前に置かれているケーキをぱくぱくと食べ進めて行く。ちなみにもう3個目だ。

「美味いか?」
「え?あっ、はいとっても!実はここのカフェに来てみたかったので嬉しいです」
「そうか」
「………」
「………」

会話が続かない。

(そもそも何でここ?別に人が居なければどこだって良かったのに)

これじゃまるで放課後デートみたいだ。
そう思えばちょっとだけ恥ずかしくなってきた。

「それで、話とは?」
「あっ……えっと、お聞きしても宜しいですか」
「何だ」

持っていたフォークをテーブルに置き、真っ直ぐにアシュレイ様を見つめる。

「私たちの婚約についてです。単刀直入にお聞きしますが、アシュレイ様は私との婚約を破棄したいのではないですか?」
「……何?」
「もしも心に思っている女性がいるのであれば私は全力でアシュレイ様たちを応援いたします。円満に解決出来るように私からお父様に計らいましょう」

スラスラと話す私とは対照的にアシュレイ様の顔色はどんどん曇っていく。

(あれ、なんだが……怒ってる?)

ただでさえ険しい顔が見る見るうちに不機嫌なものに変わっていく。怯んでしまいそうになるが、これも私が穏便に生活していくため。そして何より、アシュレイ様が望まぬ結婚をしないようにするためなんだから。

「もう一度言ってくれ」
「で、ですから私がお父様に……」
「誰が婚約破棄を望んでいるだと?」

低い声が聞こえた瞬間、ガタンと机が音を立てる。

「俺が君を手放すと、そう思っているのか?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染と夫の衝撃告白に号泣「僕たちは愛し合っている」王子兄弟の関係に私の入る隙間がない!

ぱんだ
恋愛
「僕たちは愛し合っているんだ!」 突然、夫に言われた。アメリアは第一子を出産したばかりなのに……。 アメリア公爵令嬢はレオナルド王太子と結婚して、アメリアは王太子妃になった。 アメリアの幼馴染のウィリアム。アメリアの夫はレオナルド。二人は兄弟王子。 二人は、仲が良い兄弟だと思っていたけど予想以上だった。二人の親密さに、私は入る隙間がなさそうだと思っていたら本当になかったなんて……。

【短編版】憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化進行中。  連載版もあります。    ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    義務的に続けられるお茶会。義務的に届く手紙や花束、ルートヴィッヒの色のドレスやアクセサリー。  でも、実は彼女はルートヴィッヒの番で。    彼女はルートヴィッヒの気持ちに気づくのか?ジレジレの二人のお茶会  三話完結

我慢しないことにした結果

宝月 蓮
恋愛
メアリー、ワイアット、クレアは幼馴染。いつも三人で過ごすことが多い。しかしクレアがわがままを言うせいで、いつもメアリーは我慢を強いられていた。更に、メアリーはワイアットに好意を寄せていたが色々なことが重なりワイアットはわがままなクレアと婚約することになってしまう。失意の中、欲望に忠実なクレアの更なるわがままで追い詰められていくメアリー。そんなメアリーを救ったのは、兄達の友人であるアレクサンダー。アレクサンダーはメアリーに、もう我慢しなくて良い、思いの全てを吐き出してごらんと優しく包み込んでくれた。メアリーはそんなアレクサンダーに惹かれていく。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

【完結】義妹と婚約者どちらを取るのですか?

里音
恋愛
私はどこにでもいる中堅の伯爵令嬢アリシア・モンマルタン。どこにでもあるような隣の領地の同じく伯爵家、といってもうちよりも少し格が上のトリスタン・ドクトールと幼い頃に婚約していた。 ドクトール伯爵は2年前に奥様を亡くし、連れ子と共に後妻がいる。 その連れ子はトリスタンの1つ下になるアマンダ。 トリスタンはなかなかの美貌でアマンダはトリスタンに執着している。そしてそれを隠そうともしない。 学園に入り1年は何も問題がなかったが、今年アマンダが学園に入学してきて事態は一変した。

母が病気で亡くなり父と継母と義姉に虐げられる。幼馴染の王子に溺愛され結婚相手に選ばれたら家族の態度が変わった。

ぱんだ
恋愛
最愛の母モニカかが病気で生涯を終える。娘の公爵令嬢アイシャは母との約束を守り、あたたかい思いやりの心を持つ子に育った。 そんな中、父ジェラールが再婚する。継母のバーバラは美しい顔をしていますが性格は悪く、娘のルージュも見た目は可愛いですが性格はひどいものでした。 バーバラと義姉は意地のわるそうな薄笑いを浮かべて、アイシャを虐げるようになる。肉親の父も助けてくれなくて実子のアイシャに冷たい視線を向け始める。 逆に継母の連れ子には甘い顔を見せて溺愛ぶりは常軌を逸していた。

【完結】順序を守り過ぎる婚約者から、婚約破棄されました。〜幼馴染と先に婚約してたって……五歳のおままごとで誓った婚約も有効なんですか?〜

よどら文鳥
恋愛
「本当に申し訳ないんだが、私はやはり順序は守らなければいけないと思うんだ。婚約破棄してほしい」  いきなり婚約破棄を告げられました。  実は婚約者の幼馴染と昔、私よりも先に婚約をしていたそうです。  ただ、小さい頃に国外へ行ってしまったらしく、婚約も無くなってしまったのだとか。  しかし、最近になって幼馴染さんは婚約の約束を守るために(?)王都へ帰ってきたそうです。  私との婚約は政略的なもので、愛も特に芽生えませんでした。悔しさもなければ後悔もありません。  婚約者をこれで嫌いになったというわけではありませんから、今後の活躍と幸せを期待するとしましょうか。  しかし、後に先に婚約した内容を聞く機会があって、驚いてしまいました。  どうやら私の元婚約者は、五歳のときにおままごとで結婚を誓った約束を、しっかりと守ろうとしているようです。

姉の婚約者に愛人になれと言われたので、母に助けてと相談したら衝撃を受ける。

ぱんだ
恋愛
男爵令嬢のイリスは貧乏な家庭。学園に通いながら働いて学費を稼ぐ決意をするほど。 そんな時に姉のミシェルと婚約している伯爵令息のキースが来訪する。 キースは母に頼まれて学費の資金を援助すると申し出てくれました。 でもそれには条件があると言いイリスに愛人になれと迫るのです。 最近母の様子もおかしい?父以外の男性の影を匂わせる。何かと理由をつけて出かける母。 誰かと会う約束があったかもしれない……しかし現実は残酷で母がある男性から溺愛されている事実を知る。 「お母様!そんな最低な男に騙されないで!正気に戻ってください!」娘の悲痛な叫びも母の耳に入らない。 男性に恋をして心を奪われ、穏やかでいつも優しい性格の母が変わってしまった。 今まで大切に積み上げてきた家族の絆が崩れる。母は可愛い二人の娘から嫌われてでも父と離婚して彼と結婚すると言う。

処理中です...