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しおりを挟む「挙式は両家と君たち、あとはケインだけ招待して後日盛大な披露パーティーを行おうと考えてるよ。差し支え無ければどちらも参加してくれるかい?」
「ああ。……ミハエル」
「ん?」
「シルビアは?」
アシュレイ様がそう言えば、すぐにミハエル様の顔つきが変わる。さっきまで優しかった彼の表情が険しくどこか嫌悪感すら感じられた。
「招待しない、と言いたいところだがバレイン男爵夫妻とうちの親は仲良いからね。挙式には呼ばないが後日開かれる披露パーティーには誘うつもりだ」
「……そうか」
「実を言うと2,3日前にシルビアがうちに来てね」
シルビア嬢が?
疲弊した様子でミハエル様はため息をついた。
「挙式に招待しろ!と怒鳴り込んできたよ。親友なのに、アッシュが出るのに何で私は呼ばれないんだって騒いでそりゃもう大変だったんだ」
「まぁ……」
「その場にはエリザベスがいたから穏便に済ませるためにパーティーの話を出した。そしたらアイツ、コロって態度を変えてね。それなら良いんだって満足げに帰っていったよ」
シルビア嬢の我儘っぶりには脱帽してしまう。
ゲスト側から結婚式に出せと迫る話は聞いたことがない。
(しかもアシュレイ様が参加されるなら自分もって……彼女は自分がアシュレイ様の婚約者だと思ってるのかしら)
噛み合わない彼女の言動に疑問が残るばかりだ。
「でも……エリザベスさんはそれで良いの?」
ふと彼女にそう聞けば、ニコニコと可愛らしい笑顔で頷いた。
「ええ。何か問題を起こせば即刻潰すだけですから」
「た、頼もしい限りね」
(もしかしてこの場で一番強いのは彼女かも)
美人が怒ると迫力が増すとは本当だわ。
「噂には聞いておりましたがなかなか強烈な人なんですねバレイン男爵令嬢は。グラシャさんはもうお会いになりまして?」
「ええ、女学校が同じなの。その……最近はよくちょっかいをかけられる程度の仲かしら」
「完全に嫉妬ですわ。だってこの間いらっしゃった時も、しきりにスプラウト様のお名前を連呼していましたから」
やっぱり。
シルビア嬢はもうアシュレイ様への想いを止められなくなっている。だからこんな暴走した行動ばかり起こしてしまうんだろう。
(きっと、この間アシュレイ様に突き放された事がよっぽどショックだったんだ)
「ご安心下さいグラシャさん、私たちはお二人の味方ですから!ねぇミハエル様」
「もちろん。まぁ身分の差があるんだから変な事はしないと思うけど……」
「甘いですわミハエル様!恋に狂った女は何をしでかすが分かりませんのよ!」
「は、はい」
完全に尻にひかれるミハエル様。
そんな二人のやり取りに思わず笑ってしまった。
「心配には及ばない」
それまで静かだったアシュレイ様はポンと私の頭を撫でた。
「俺がグラシャの側にいる」
「アシュレイ様……」
「どんな状況でも、君をちゃんと守るから」
真っ直ぐな瞳と言葉が心に響く。
いつの間にか自分の中でアシュレイ様が頼もしくてかけがえのない存在になったと、今この瞬間自覚してしまった。
(私、やっぱりアシュレイ様のこと)
「おいおい、見せつけてくれるね君たち」
「あっいや、えっと」
「照れなくていいよノーストス嬢、アッシュが君にベタ惚れなのは随分前から知ってるからね」
「随分と、ですか?」
その言葉にちょっと引っかかってしまった。
(私たちの婚約は少なくとも数年前。それを随分とと言うのはちょっと変じゃないかしら)
もしかして私たちはもっと前から知り合っていた?だとしたら一体どこで……。
「シルビアの件で何かあったらすぐに報告するよ。その方がアッシュも安心出来るだろ?」
「ああ、助かる」
「全く。何であんな女になっちゃったんだろうね」
困ったように笑うミハエル様に、アシュレイ様はただ黙って目を伏せる。
私は彼女をよく知らないけど、多分彼女自身が変わってしまったんじゃないと思う。彼女はまだ身分差や礼儀というものをちゃんと理解出来ていないだけだ。だから今でもアシュレイ様たちにタメ口で話したり気安く触れようとする。
『幼馴染』という言葉が、彼女の中で無敵の言葉だと思っているんだろう。
(そんなの、この世界じゃ通用しないのに)
男装の麗人は、周りからちやほやされ自分の立場を見失ってしまったんだわ。
「グラシャ?」
ぼうっとする私はアシュレイ様の声で我に帰る。
(アシュレイ様は私のことをどう思ってるの?)
法律上、彼は私のものだ。でも心まで私がどうこう言っていい訳じゃない。シルビア嬢に、彼は私のものだから手を出さないでと言えたらどれだけ楽なんだろう。
アシュレイ様も私と同じ気持ちなら良いのに……。
そんな気持ちを抑え込みながら私はもう一度笑顔を作り直した。
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