7 / 26
7
しおりを挟む「挙式は両家と君たち、あとはケインだけ招待して後日盛大な披露パーティーを行おうと考えてるよ。差し支え無ければどちらも参加してくれるかい?」
「ああ。……ミハエル」
「ん?」
「シルビアは?」
アシュレイ様がそう言えば、すぐにミハエル様の顔つきが変わる。さっきまで優しかった彼の表情が険しくどこか嫌悪感すら感じられた。
「招待しない、と言いたいところだがバレイン男爵夫妻とうちの親は仲良いからね。挙式には呼ばないが後日開かれる披露パーティーには誘うつもりだ」
「……そうか」
「実を言うと2,3日前にシルビアがうちに来てね」
シルビア嬢が?
疲弊した様子でミハエル様はため息をついた。
「挙式に招待しろ!と怒鳴り込んできたよ。親友なのに、アッシュが出るのに何で私は呼ばれないんだって騒いでそりゃもう大変だったんだ」
「まぁ……」
「その場にはエリザベスがいたから穏便に済ませるためにパーティーの話を出した。そしたらアイツ、コロって態度を変えてね。それなら良いんだって満足げに帰っていったよ」
シルビア嬢の我儘っぶりには脱帽してしまう。
ゲスト側から結婚式に出せと迫る話は聞いたことがない。
(しかもアシュレイ様が参加されるなら自分もって……彼女は自分がアシュレイ様の婚約者だと思ってるのかしら)
噛み合わない彼女の言動に疑問が残るばかりだ。
「でも……エリザベスさんはそれで良いの?」
ふと彼女にそう聞けば、ニコニコと可愛らしい笑顔で頷いた。
「ええ。何か問題を起こせば即刻潰すだけですから」
「た、頼もしい限りね」
(もしかしてこの場で一番強いのは彼女かも)
美人が怒ると迫力が増すとは本当だわ。
「噂には聞いておりましたがなかなか強烈な人なんですねバレイン男爵令嬢は。グラシャさんはもうお会いになりまして?」
「ええ、女学校が同じなの。その……最近はよくちょっかいをかけられる程度の仲かしら」
「完全に嫉妬ですわ。だってこの間いらっしゃった時も、しきりにスプラウト様のお名前を連呼していましたから」
やっぱり。
シルビア嬢はもうアシュレイ様への想いを止められなくなっている。だからこんな暴走した行動ばかり起こしてしまうんだろう。
(きっと、この間アシュレイ様に突き放された事がよっぽどショックだったんだ)
「ご安心下さいグラシャさん、私たちはお二人の味方ですから!ねぇミハエル様」
「もちろん。まぁ身分の差があるんだから変な事はしないと思うけど……」
「甘いですわミハエル様!恋に狂った女は何をしでかすが分かりませんのよ!」
「は、はい」
完全に尻にひかれるミハエル様。
そんな二人のやり取りに思わず笑ってしまった。
「心配には及ばない」
それまで静かだったアシュレイ様はポンと私の頭を撫でた。
「俺がグラシャの側にいる」
「アシュレイ様……」
「どんな状況でも、君をちゃんと守るから」
真っ直ぐな瞳と言葉が心に響く。
いつの間にか自分の中でアシュレイ様が頼もしくてかけがえのない存在になったと、今この瞬間自覚してしまった。
(私、やっぱりアシュレイ様のこと)
「おいおい、見せつけてくれるね君たち」
「あっいや、えっと」
「照れなくていいよノーストス嬢、アッシュが君にベタ惚れなのは随分前から知ってるからね」
「随分と、ですか?」
その言葉にちょっと引っかかってしまった。
(私たちの婚約は少なくとも数年前。それを随分とと言うのはちょっと変じゃないかしら)
もしかして私たちはもっと前から知り合っていた?だとしたら一体どこで……。
「シルビアの件で何かあったらすぐに報告するよ。その方がアッシュも安心出来るだろ?」
「ああ、助かる」
「全く。何であんな女になっちゃったんだろうね」
困ったように笑うミハエル様に、アシュレイ様はただ黙って目を伏せる。
私は彼女をよく知らないけど、多分彼女自身が変わってしまったんじゃないと思う。彼女はまだ身分差や礼儀というものをちゃんと理解出来ていないだけだ。だから今でもアシュレイ様たちにタメ口で話したり気安く触れようとする。
『幼馴染』という言葉が、彼女の中で無敵の言葉だと思っているんだろう。
(そんなの、この世界じゃ通用しないのに)
男装の麗人は、周りからちやほやされ自分の立場を見失ってしまったんだわ。
「グラシャ?」
ぼうっとする私はアシュレイ様の声で我に帰る。
(アシュレイ様は私のことをどう思ってるの?)
法律上、彼は私のものだ。でも心まで私がどうこう言っていい訳じゃない。シルビア嬢に、彼は私のものだから手を出さないでと言えたらどれだけ楽なんだろう。
アシュレイ様も私と同じ気持ちなら良いのに……。
そんな気持ちを抑え込みながら私はもう一度笑顔を作り直した。
151
あなたにおすすめの小説
我慢しないことにした結果
宝月 蓮
恋愛
メアリー、ワイアット、クレアは幼馴染。いつも三人で過ごすことが多い。しかしクレアがわがままを言うせいで、いつもメアリーは我慢を強いられていた。更に、メアリーはワイアットに好意を寄せていたが色々なことが重なりワイアットはわがままなクレアと婚約することになってしまう。失意の中、欲望に忠実なクレアの更なるわがままで追い詰められていくメアリー。そんなメアリーを救ったのは、兄達の友人であるアレクサンダー。アレクサンダーはメアリーに、もう我慢しなくて良い、思いの全てを吐き出してごらんと優しく包み込んでくれた。メアリーはそんなアレクサンダーに惹かれていく。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
幼馴染と夫の衝撃告白に号泣「僕たちは愛し合っている」王子兄弟の関係に私の入る隙間がない!
佐藤 美奈
恋愛
「僕たちは愛し合っているんだ!」
突然、夫に言われた。アメリアは第一子を出産したばかりなのに……。
アメリア公爵令嬢はレオナルド王太子と結婚して、アメリアは王太子妃になった。
アメリアの幼馴染のウィリアム。アメリアの夫はレオナルド。二人は兄弟王子。
二人は、仲が良い兄弟だと思っていたけど予想以上だった。二人の親密さに、私は入る隙間がなさそうだと思っていたら本当になかったなんて……。
勇者様がお望みなのはどうやら王女様ではないようです
ララ
恋愛
大好きな幼馴染で恋人のアレン。
彼は5年ほど前に神託によって勇者に選ばれた。
先日、ようやく魔王討伐を終えて帰ってきた。
帰還を祝うパーティーで見た彼は以前よりもさらにかっこよく、魅力的になっていた。
ずっと待ってた。
帰ってくるって言った言葉を信じて。
あの日のプロポーズを信じて。
でも帰ってきた彼からはなんの連絡もない。
それどころか街中勇者と王女の密やかな恋の話で大盛り上がり。
なんで‥‥どうして?
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
【完結】婚約相手は私を愛してくれてはいますが病弱の幼馴染を大事にするので、私も婚約者のことを改めて考えてみることにします
よどら文鳥
恋愛
私とバズドド様は政略結婚へ向けての婚約関係でありながら、恋愛結婚だとも思っています。それほどに愛し合っているのです。
このことは私たちが通う学園でも有名な話ではありますが、私に応援と同情をいただいてしまいます。この婚約を良く思ってはいないのでしょう。
ですが、バズドド様の幼馴染が遠くの地から王都へ帰ってきてからというもの、私たちの恋仲関係も変化してきました。
ある日、馬車内での出来事をきっかけに、私は本当にバズドド様のことを愛しているのか真剣に考えることになります。
その結果、私の考え方が大きく変わることになりました。
わたくしのせいではありませんでした
霜月零
恋愛
「すべて、わたくしが悪いのです。
わたくしが存在したことが悪かったのです……」
最愛のケビン殿下に婚約解消を申し出られ、心を壊したルビディア侯爵令嬢。
日々、この世界から消えてしまいたいと願い、ついにその願いが叶えられかけた時、前世の記憶がよみがえる。
――すべては、ルビディアのせいではなかった。
※他サイトにも掲載中です。
侯爵様と婚約したと自慢する幼馴染にうんざりしていたら、幸せが舞い込んできた。
和泉鷹央
恋愛
「私、ロアン侯爵様と婚約したのよ。貴方のような無能で下賤な女にはこんな良縁来ないわよね、残念ー!」
同じ十七歳。もう、結婚をしていい年齢だった。
幼馴染のユーリアはそう言ってアグネスのことを蔑み、憐れみを込めた目で見下して自分の婚約を報告してきた。
外見の良さにプロポーションの対比も、それぞれの実家の爵位も天と地ほどの差があってユーリアには、いくつもの高得点が挙げられる。
しかし、中身の汚さ、性格の悪さときたらそれは正反対になるかもしれない。
人間、似た物同士が夫婦になるという。
その通り、ユーリアとオランは似た物同士だった。その家族や親せきも。
ただ一つ違うところといえば、彼の従兄弟になるレスターは外見よりも中身を愛する人だったということだ。
そして、外見にばかりこだわるユーリアたちは転落人生を迎えることになる。
一方、アグネスにはレスターとの婚約という幸せが舞い込んでくるのだった。
他の投稿サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる