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私が能力に目覚めたのは5歳くらいの時だった。
ごく普通のパパとママ、それからおばあちゃんとの4人暮らし。
パパは優しいしママは怒るとちょっと怖い。おばあちゃんは物知りで、私の知らないことをいっぱい教えてくれた。

そんなある日、ルスダン王国から使者が来て、強引に私を連れていった。理由は……私の能力が危険だから処刑するっていう何とも残酷な内容。
パパもママも、おばあちゃんもみんな泣いてて私だけがポカンとしてた。

どうしてみんな泣いてるの?
なんで私が連れて行かれるの?

そして処刑台に上がったあの日、突き付けられた剣先が頬を掠めた瞬間、一人の女性が目の前に現れた。すっごく綺麗で、キラキラしてて、カッコいい。

サリファ様があの時止めてくださらなければ、間違いなく私は殺されてたんだろうなぁ。

「んぐぅ……ふっ、ふっ」
「ああごめんごめん、つい昔を思い出しちゃった」

牢の中で暴れ回るギルバートを見て苦笑する。


私の能力は、他人の情報を第三者に移せる力。
自身の記憶は保ちつつ、他者の記憶や人格などの情報を追加できる。モニカやアズミと違って物理的な効果はないけれど、その能力は危険度SSとして国家機密保護能力として監視下には置かれている。まぁサリファ様のおかげでその監視もだいぶ楽になってるけど。

ただ厄介なのは私自身が直接情報者から抜き取らないといけないってこと。おかげでここ数日間寝不足よ、まぁこの日のためにちょっとずつ収集はしていたんだけど……そんなのはどうでもいっか!

問題なのはここからだから。


「ぁあ……はぁっ、ぁっ!」
「こ気分がいかがですか、ギルバート様?」

私が声を掛ければ瞳孔が開きっぱなしの目で私を睨みつける。

「ギルバート?あんな殺人鬼の名でを呼ぶなぁ!」
「あら失礼」
「ケインだ!ケイン=ブーストだ!」

ケイン、ああ、最初に読み上げた騎士団の。
ギルバート様はきっと今苦しいでしょうね、元々の人格がはっきりしているのに他者の記憶が今彼の体を占拠してるんだから。

「あのクソ野郎っ!あいつが……あいつさえ居なければ、今頃母さんは……母さんは、」
「でも今や王国騎士団所属ですよねぇ?立派になったじゃないですかぁ」
「立派?俺は元々魔導師になりたかったんだ!王国騎士団に入ったのだって、いつか背後からあいつを斬りつけてやろうと思ったから」
「なるほどなるほど、そこまでお嫌いなんですねぇ」
「嫌い?ああそうさ、この国であいつを好きな奴なんかいねぇだろ!」

ハッと笑っているが、彼の目は血走り涙が流れている。
そうですよね、まさか自分の口から自分への殺意ある恨みごとを言うと思わないですよね。でもそれが出来ちゃうのが私の能力なんです!

そりゃあね?私だって素敵な使い方したかったよ?
この能力があれば、死ぬ間際、喋れない人間の幸せな記憶や感謝の気持ちを第三者に伝えることだって出来るんだし。

「ギルバート=ルスダン……最悪の王めぇっ!」
「……じゃあそろそろ違う人に交代しましょうかぁ」

パチンと指を鳴らせばガクンと気を失うギルバート。しばらくしてゆっくりを顔を上げる。

「許さない……ゆるさない、絶対に!」
「誰を?」
「ギルバート=ルスダンよ!あいつのせいでパパは死んだの!うちには小さい子がいるのに……」

パチンっ!

「許さねぇ!くそっ!くそっ!」

パチンっ!

「ジェームス!親友だったのにぃ!うわぁぁあん」

指を鳴らせばどんどん人格を変えていく。
ちなみに今日まで仕入れた記憶は約500人分。被害者はまだまだ沢山いるけど、とりあえず1日5人成り代わるとして……うん、100日は遊んで暮らせる!その間、しっかり息子と遊んであげなきゃ!

息子……そうだ、名前を決めなくちゃ。
ギルバートは候補があると言ってたけど、しばらく後宮に近付けなかったから聞きそびれたんだった。

「ねぇ、あの子の名前は……」
「ギルバート=ルスダン!死ねぇ!苦しんで死ねぇ!」

あらあら、これは話にならないなぁ。

「まぁいっか!サリファ様に付けてもらおっと!じゃあまたストックがなくなる頃合いを見計らって来ますねぇ」

ひらひらとギルバートに手を振る。

「あぁ……嫌だ、嫌だ、いやだ」

縋るような声と目。
きっと毎日毎日違う記憶で掻き乱されるから、最後には元の人格も記憶も無くなっちゃうだろう。自分がギルバート=ルスダンってことも忘れちゃうかな?そして、恐らく私との記憶も……

私はニコッと微笑み地下牢を立ち去っていく。




「んー!外、眩しいなぁ!」

自由になった私は久しぶりの故郷の青空に向かって叫んだ。

「そうだ!パパとママに会いにいこっ!おばあちゃんは……元気かなぁ」

沢山のお土産話をしよう。
友人たちの話を、愛する息子の話を。そして……尊敬すべき命の恩人の話もしよう。

自由になった私は久しぶりに帰る我が家へと駆け出したのだった。
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