楽園の在処

まめ太郎

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 全員が集合すると藤崎は俺の手に一万円札を握らせた。
「俺は星と月と買うもんがあるから、これで硝と時間潰してろ」
 あの小物入れを買ってやるのか。俺は黙って頷いた。
 三人がエスカレーターで下の階に降りて行くのを見送ると、俺は頭の後ろで手を組んだ。

「さて、どっかでコーヒーでも飲むか」
 本当は久々にパチンコでもやりたかったが、このデパートを出たら藤崎は良く思わないだろう。デパートから一歩でも外に出たら、後ろのスーツの男が直ぐに藤崎に知らせるのは間違いない。たった一万じゃ、スロットやってもあっという間にすっからかんだろうしな。
 俺はそんなことを考えながら、喫茶店の位置を確認しに、館内の見取り図を見ようと歩き始めた。

「あの、もしかしてモデルさん?それとも俳優さんですか?」
 女子大学生に見える二人組が、俺の後ろにいた硝に話しかけている。硝の容姿に目を奪われた通行人までもが立ち止まり、事の成り行きを伺っていた。
「直子。だめだよ。英語じゃなきゃ分かんないって」
「あっ、そうか。えっと、ホエアアーユー…」
 硝の眉間の皺が、深くなる。もう一人の女が硝の顔を興味深げに見つめた。
「顔の火傷、メイクかな?」
 こんな失礼なことを素で言う奴がいるのか。硝が日本語を理解できないと本気で思っているのだろうか。
 俺はカッと頭に血が上り、硝の手を引くと足早に歩き出した。
「お前もボケっとしてないで、ああいうのはとっとと追い払えよ」
「ごめん」
 エレベーターに乗り、最上階のボタンを押す。
 最上階は屋上庭園と書かれていたが、座るところくらいはあるだろう。少しでも人の少ない場所に行きたかった。

 思った通り、真冬の吹きさらしの屋上で休む人間はほとんどいなかった。
 俺は気持ちが落ち着くと、エレベーター脇の飲料の自販機を指さした。
「ちょっと寒いけど。ここでいいよな?お前だって、他人にじろじろ見られんの嫌だろ」
 俺の言葉に硝はぼんやりと頷いた。
 自販機で万札が使えないことに気付いた俺が舌打ちすると、後ろから伸びた手が500円玉を投入した。
 スーツの男の一人だった。
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