スパダリかそれとも悪魔か

まめ太郎

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 初日は俺にできることは何もないので、明日から頑張ってと言われ定時の18時30分には退社することになった。

 このままだと怜雄に指定された待ち合わせ時間に余裕で間に合う。
 俺は会社の前で立ち止まり、自分の革靴をじっと見つめると、顔を上げた。

 怜雄と会って、最後にちゃんと話そう。
 正直真昼ちゃんの話も気になるし、自分の気持ちにもちゃんと区切りをつける意味でも会ったほうがいい。

 俺は駅前の花屋に置いてある小さなブーケをしばらく見つめ、買うか悩んだが、結局手ぶらでホテルに向かった。

 ホテルの入口で、怜雄は壁にもたれ、俯いて立っていた。
「待ち合わせロビーじゃなかったっけ?」
 そう言う俺に怜雄は照れたような笑みを浮かべ言った。
「優が来るか分からないから不安で、外で待ってた。」
 俺はそんな怜雄に花束位買ってやるんだったと思いながらも何も言わなかった。

 レストランを予約しているからと怜雄がエレベーターに俺をいざなう。

 俺は案内された高級レストランで、急に昼間付けたカレーの染みが気になりだし、そこの部分に水をかけて擦ったりしたが、増々染みが広がるだけだった。
 そんな俺を見て、怜雄がふっと笑う。

「三年ぶりなのに、お前はちっとも変わっていない。」
「それ、褒めてるんだよな?」
 俺が怜雄にそう聞くと、怜雄は「当たり前だろ。」と声を出して笑いながら言った。

 怜雄はとても楽しそうで、正直その笑顔を見ていると、俺も過去のことを全て忘れて一緒に笑いたくなった。
 でもそんなことできやしない。
 俺たちの間にあったことは紛れもない事実なのだから。

「でも、怜雄が父親の会社に入ったって聞いて驚いた。その…お父さんのこと嫌ってたみたいだったし。」
 俺は怜雄の選んだ赤ワインに口を付けながらそう言った。

「ああ。本当は入社するつもりなんて全くなかった。でもあの女が、うちの会社に入って結果をだせば、優の連絡先教えてやるって言うから。」
「えっ?」
 俺は驚いて怜雄をじっと見つめた。

「いや、実際は入社しても教えてはもらえなかったぜ。もうちょっと真面目に働いたら、もうちょっと商品が売れたらって引き延ばされて…まあ、今日会えたから良いけど。」

 怜雄が俺のためにわざわざ嫌いな父親の会社に入社したとまで言われて戸惑った。そこまでして怜雄は俺に会いたかったんだろうか。
 そこまでして何故。
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