スパダリかそれとも悪魔か

まめ太郎

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「せっかくここまで来たんだ。観光していかないか?」
 西條の提案に俺は笑顔で頷いた。

「わあ、俺水族館なんて子供の時以来かも。」
 西條の運転で俺は江の島にある水族館を訪れていた。
「走ると転ぶぞ。」
 西條は券売機に駆け寄る俺に苦笑しながらそう言った。
 平日の水族館は割と空いていて、俺たちはゆったり大きな水槽を見て回った。

「西條、あいつの顔すごくね?」
 俺が黒い大きな魚を指さすと西條が壁に貼られた説明を読み上げる。
「オオカミウオか…。古典の源藤に似てないか?」
「分かるっ。源藤いっつもあんな仏頂面してたよな。」
「だろ?」
 俺が吹き出すと西條も楽しそうに笑った。
「西條、ペンギンの赤ちゃん見れるって。行こう。」
「だから、走るなって。」
 西條がまた走り出しそうな俺の手を掴んで言った。

 ペンギンの水槽の前は人だかりができていた。
 小さなペンギンがよちとちと親のあとについて歩く姿に俺の胸は打ち抜かれた。

「ねえ、僕にもあれして。」
 隣で小学校に入る前くらいの男の子が母親に言う。
 男の子の指さす先には父親に肩車された男の子が嬌声を上げていた。
 母親が男の子に「たっくん、お母さんは無理だよ。」と困り顔で言い、男の子は泣きだしそうだった。
 その時隣にいた西條がすっと動き、無言で男の子を肩車した。

「見えるか?」
 男の子はいきなり高くなった視界に最初はびっくりしていたが、すぐに楽しそうにキャッキャとはしゃぎ始めた。
「すみません。」
「いえ、これくらい気になさらないでください。」
 西條に微笑まれた母親の頬がぽうっと染まる。
 親子と別れた西條の肩を俺は軽く殴った。
「かっこいいじゃん。」
 西條は何も言わずにただにこりと笑った。
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