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133 心菜が眠ったあと

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「私、久遠さんと家が近いので、帰り送って行きます。学校からの距離も結構近いですし、一応お家の人へのお手紙だけ書いていただけると嬉しいです」
「そう?分かったわ。じゃあ、夕方にお迎えに来てね」
「はい」

 優奈は神妙に頷くと、立花を連れて保健室の外へと歩みを進めた。心菜を置いていくのがなんだか不安で、何度も何度も保健室の奥にある、心菜の眠っているベッドへと視線を向けてしまうが、そうこうしていても状況が変わらないことを理解している優奈は、時計を一瞬だけ確認した後に保健室の外に出た。

「私、教室の手伝いに戻ってくるね」
「?」
「ここながいなかったら、文化祭回ってもつまんないだろうし、私、今お菓子禁止中だから」

 ひらひらと手を振って、未だに後ろを振り返り続けている立花を置いて歩き始めた優奈は、適当に文化祭の出し物を見つめながら、さっきまでいた教室へと歩みを進める。

(あーあ、体重が増えてなかったら、ここな同様好きなだけお菓子爆食いするのにな~………。ま、恨み言を言っても仕方がないか。明日はちょっとだけ食べることにして、今日は我慢我慢)

 生徒がたくさん集まる順路。そんな空間を見ることさえも楽しい文化祭。心菜がもう十分に文化祭を堪能したことを知らない優奈は、心菜が早く回復して、ちょっとでも文化祭を楽しめたらいいのにと、願わずにはいられなかった。

▫︎◇▫︎

 優奈の背中を見送った立花は、うずうずと保健室の前を行き来していた。もう30分で部活動の役割が回ってきてしまうが故に、クラスの出し物の手伝いはできない。けれど、何かやることが欲しくて、どうしてもうずうずとしてしまうのだ。

 ーーーガラっ、

「あら、まだいたの?」

 のんびりとした声に振り返ると、保健室の中から保健の先生が顔を出していた。

「不審な影がうろちょろしているのが窓越しに見えていたのだけれど、あなただったのね。どうかしたの?」
「………いえ、なんでも」
「………ーーーもしかしてっ!久遠さんが心配なの?まあまあ!いい彼氏さんじゃない!!」

 いきなりハイテンションになり始めた若い先生に目を丸くしながら、立花は呆然と立ち尽くしてしまう。

「さあさあ入って!彼女思いの彼氏さんは、私大好きなの!!」

 そして、先生に無理矢理引っ張られる形で、立花は保健室へと再び戻ることになってしまった。

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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