かの騎士、王子殿下専属につき

久保 ちはろ

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第五章 3

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 渡されたランプを手にしたアストリットが先を行く。行きは道がわからずただミカに付いてきたが、帰りは心得ていた。
 霧が出ていた。ランプの明かりは闇にぼんやりとかすみ、肺に湿った空気が入り込んだ。
 街は静まり返っていた。申し合わせたわけではないが、二人共急ぎ足だった。コツコツと石畳に響く足音も、霧に吸い込まれていく。
 突然、アストリットの頭上でばさり、と大きく鳥の羽ばたく音がした。フクロウだろうか。そう思った刹那、「ぐっ」とくぐもった声が後ろで聞こえた。振り向くと、揺れるランタンの光に、ミカを襲う二つの影が浮かび上がった。ミカは頭から布を被せられ、そのもがく体を抱え込まれているところだった。彼女はランタンを手放し、短剣を取り出すと手前の影に切り掛かった。
「っあ!!」
 手応えはあった。手負いの男は怯んだが、ミカを押さえつけていた男が横から反撃に出た。ひゅっと、アストリットの耳を棍棒なようなものが風を切り、それを間一髪で避ける。体を翻し、さらに突きを加える。刃が布を割く感触。相手の気配を追いつめ、さらに突く。相手はかわすことに精一杯で、攻撃は仕掛けてこない。
 最初に痛手を負ったほうはすでに護衛の気迫に諦めてるのか、襲いかかる気配がない。アストリットの剣を棍棒が制した。すかさずそこに蹴りを入れると、固い腹に踵が食い込んだ。「うっ」とうめき声を漏らした相手は、退く様子を見せて「ちくしょう……! 行くぞ」仲間に呼びかけた。
 あっという間にバタバタと重い靴音が遠ざかって行く。
 アストリットは道に膝をつき、うずくまるミカに駆け寄って肩を抱いて身を起こす。
「殿下! お怪我はありませんか……! 近くの診療所へ行きましょう。一つ角を曲がった所にありますから」
「大丈夫……だ。不意打ちに少し動揺しただけだ」
「殿下。ここは大事を取って、医者に見せましょう。どうぞ私の肩に……」
 立ち上がり、歩き出そうとしたミカはふらつき、女騎士の肩に縋った。ミカは素直に護衛の肩に腕を回したが、助言には従おうとしなかった。
「医者に見せるより、少し休みたい」
 アストリットは仕方なく頷く。頭に地図を浮かべ、心当たりのある道へ足を進めた。
「それでは近くの宿へご案内します」
「いや、宿なら……」
 ミカは宿の名を告げた。そこは路地を二つほど戻ったところにある、高級の部類に入る宿だった。もちろん、護衛にはそれに否を唱える理由が無い。ミカの体を庇いながら、アストリットは目的の宿へ入った。
 台に据え置きのベルを鳴らし、主人を呼び出す。すっぽりと頭からフードを被った真夜中の客に、警戒した主人の声は固かったが、アストリットがミカから預かった金貨をちらつかせると大人しく二階の奥の部屋へ案内した。
 それなりの宿には、やはり普段もわけありの客が来るのだろう。全てを心得たように、燭台を置き、要望があれば飲み物と食事も用意ができると一言添えて主人は出て行った。
 部屋は一番上等であるらしく、厚い絨毯に、壁には趣味のよい絵と、年代物のテーブルと揃いの椅子のセットで装飾されていた。どっしりとしたベッドには刺繍の施されたベッドカバーがかけられている。
「殿下、どうぞ楽になさってください。何か飲み物を貰って来ましょうか。ワインでも、お茶でも……」
 フードから顔を出しただけで、マントも脱がずに近くの椅子に身体を沈ませるように腰を下ろしたミカは、それには応えずに、代わりに妙な注文をした。 
「そんなものは不要だ。おまえは今から下に行き、この金で人払いをしろ。主に言ってここの宿泊客一人残らず追い出して来い。ついでに主も裏の母屋に引っ込んでいるように言っておけ」
「そんな……!」
 ちゃり、と音を立てて小さな革袋が目を見開くアストリットに差し出された。有無を言わせぬ支配者の強い眼差しに追われるように彼女は部屋を出た。宿の主人に、ミカの言葉を伝えるとさすがに一度は拒否を示した。しかし、革袋の口から中身の一部が台の上に流れ出し、煌めくと彼は黙って頷いた。
 アストリットが戻るとすぐに客の低い声と、引っ越しのざわめきがドアを通して聞こえた。彼女は部屋を見渡した。王子のマントは抜け殻のように椅子にかけられているが、中の人の姿が無い。胸騒ぎを覚えたが、よく見ると、ベッドの掛布が盛り上がっていた。
「殿下?」
 返事は無い。燭台の光の届かない枕に、掛布から出た髪の先が見えるくらいだ。アストリットがベッドに近づくと、足の先に何かが当たった。ミカの長靴《ちょうか》だった。ベッド脇には、脱ぎ捨てられた服が小さな山を作っている。アストリットは眉を寄せた。身に着けているものを脱ぐほど気分が悪いのだろうか。やはり医師を呼んだほうが……。
「殿下、お加減はいかがですか。やはり医者を呼んできましょう……。あっ!」
 主人の方へ乗り出すようにして聞いた彼女の腰の辺りに手が伸びたと思うと、次の瞬間にその体は掛布の中へ引きずり込まれていた。
「隙だらけだぞ、大尉殿。刺客が隠れていたら命は無かったな」
 仰向けにされ、手首を押さえつけられたアストリットの視線は、覆い被さる全裸のミカを避けるように落ち着き無く彷徨った。
 そしてミカに抱きすくめられ、額に、頬に、唇にと深くなるキスに翻弄されている間、すっかり服を脱がされてしまう。露になった肩や乳房に吸い付きながら、彼はゆっくりと裸の身体を撫で回す。 
「どう……して……」
 アストリットは愛撫に身じろぎながら喘いだ。
 どうして自分を抱くのか。もはや処女ではない自分に殿下の興味を引くものなど残っていないはず。器量にしろ技量にしろそのどちらも、殿下の目を、体を満足など出来やしないのに。
 その疑問を読み取ったミカは、ねっとりと舌を這わせていた乳房から顔を上げて言った。
「おまえが女だからだ。私は玄人の女に興味は無い。しかし私も男だ。女が欲しいときもある。そしておまえが側にいる。これ以上の理由はないだろう」
 アストリットの視界が闇で覆われる。目の前のミカの輪郭さえ怪しくなる。
 なにも「好きだ」という言葉を期待していたわけではない。しかし、ミカの率直過ぎる答えは、アストリットの淡い思いを打ち砕くのに十分だった。絶望に瞳を震わせるアストリットの上でミカはさらに続けた。
「おまえは今まで男を知らなくて一体どうして闘ってこれたのだ。敵がおまえの手にかかった最期の瞬間、幸せだったと思えるような殺め方をしていたのか? 剣を交える短い間、おまえに惹き付けられ、惑わされ、心奪われ、命をも奪われる。その悦びを与え、快感の絶頂で息の根を命を絶ってやる。女騎士の唯一の価値といえば、それに尽きるだろう。大尉殿、もっと男を知れ。今まで虫けらのように殺された不憫な者たちのために、そしてこれからの闘いのためにおまえは男というものを知るべきだ。私を感じろ。そして私の全てを奪ってみろ」
 今まで築き上げて来た騎士としての自分をも全否定され、すっかり打ちのめされた彼女は無意識にミカの下から逃げるように這い出ていた。ミカはそれを追わず、欲望に満ちた眼差しと不敵な笑みを見せただけだった。
「まずは手始めに……そうだな、おまえは私を馬鹿に出来るほど乗馬が得手らしい。それなら今ここで披露してみろ」
「え……?」
「私を馬だと思って大尉殿の馬術を見せてみろというのだ」
 膝立ちになり、くいと突き出された下腹部にミカの、臍の辺りまでそそり立ったものが誘うように揺れた。くっきりとエラの張ったそれは鎌首をもたげる毒蛇を彷彿させ、アストリットを威嚇する。
「もう私には……お願いでございます……」
 シーツを胸の前で掴んで彼女は項垂れた。肩から一房の髪が流れ落ちる。
「私の命令を聞けぬのか」
 その言葉は鞭となり、アストリットを打った。
 諦めたようにシーツを離すと、仰向けになったミカに、様子をうかがう猫さながら近づいて行く。
 その体を跨ぎ、引き締まった下腹に片手を付く。膝立ちの姿勢で主人の方を見ると、目が合った。慌てて顔を伏せ、覚悟を決めると、もう一方の手を屹立した怒張へ恐る恐る伸ばした。軽く握ると、熱い脈動が掌に伝わる。それを自分の脚の付け根に引き寄せ、腰をゆっくりと沈めていく。
「ん………」
 ぬちゅりと尖端が蜜の溢れた口を舐め、その丸い頭が襞に包まれ姿を消していく。抵抗する狭い肉の間を押し分けて奥へと進む感触が生々しく伝わる。手を放し、ミカの腰骨に両手を添える。陽根がじわじわと奥に侵入していくほどに、目を閉じたアストリットの背中がゆっくりと反り返る。
「は……ン」
 やがてそれがすっかり飲込まれると、柔らかな尻がミカの逞しい腿の上に着地した。溢れ出た体液が二人の結合部で広がり、彼の脚を伝い落ちた。
「まずは並足からだ。ほら、どうした」
 アストリットがその先の行為に戸惑い、座ったままでいると、早速ゆるりゆるりと下から腰が動き始めた。その拍子に、中にみっちりと埋まった物が、濡れた内壁に身を擦り寄せる。
「あん」
 艶声に、中のミカが質量を増した。
 並足は馬体の前後のゆるやか動きに合わせて股がっていればいい。
 瞼を閉じたまま彼女は軽く頭を揺らして、自分をかき混ぜる熱い塊の感触をうっとりと味わった。
 自分はろうそくの炎。体に埋め込まれたミカという芯に纏わり付き、揺らめく炎。熱でとろとろに溶け、溢れたお互いの体液を芯はたっぷりと吸い、さらに官能という炎を燃え上がらせる……。
 ミカと体を合わせるのは二度目だ。それでもこんなにも自分が求めている。ミカが自分に馴染んでいる。ひくひくと伸縮する自分の中いっぱいに埋まった男の形が伝わってくる。
「そうか、軽速足のほうがリズムが取りやすいだろうな。ほら、どうした……おまえの乗馬の技術は口ほどでもないのだな」
 緩やかな刺激に物足りなくなったのか、馬であるはずのミカは苛ついた声を出すとさっそく一定の動きで腰を突き上げ始めた。
 速足で走る馬のリズムに合わせ、一歩置きに騎手の尻を浮かす、落す、と言うのを繰り返す技術を要するのが軽速足で、内腿の筋肉を使い、座る時に馬の背に全体重をかけないように動かなくては行けない。もちろん、彼はそれを要求しているのだった。
「……ンぁ……や…………」
 繰り返し、ぐっと奥を突かれる衝撃に息を詰まらせ、前のめりになったアストリットは慌ててミカの固い腹に手を付き、それでも上下に揺れ続ける”馬体”の上でリズムを取り始めた。とたんに、ぬちゅぬちゅと卑猥な水音が高まり、部屋に響き渡る。
 自分が、ミカの上で動いている。自分の中に直立している雄を、自分の意志で、膣で擦り上げている。最も感じる部分に、固い尖端を食い込ませるように腰を振っている。尻を浮かせては、ミカの肌に濡れた音を立てて打ち下ろしている。
 内腿を緊張させて動いているため、ミカを飲込んでいる部分が嫌でも敏感になる。さらに硬度を増したミカの怒張が粘膜を擦る感触が、熱が粘膜を通して滲み伝わる。摩擦の刺激がみるみる高まり、目の奥で愉悦の螺旋が渦を巻く。
「あ、あっ……ぁ……や…………ん」
「嫌だと言うが、私を絞り上げているのは気のせいか? 大尉殿……」
 アストリットのけぶった眼下に、官能に喘ぐ自分の痴態を見上げて薄笑うミカを見つけ、恥ずかしさで全身にさらに熱が広がった。ミカの手はずっと尻や太腿の辺りをゆるりゆるりと撫でていたが、おもむろにそれが持ち上がったかと思うと、奔放に揺れていた両の乳房をもぎ取るかのように強く掴んだ。
「ああっ……!」
 穿たれている部分から、掴まれた乳房から流れた刺激が全身を駆け巡る。狂おしいほどの興奮に体がぐらりと大きく揺れた。そんなアストリットを支えるようにミカはきめ細かなメレンゲのような乳房を手で包んだまま、食い込んだ自分の指を弾力で柔らかく愛撫する肉を捏ね回し、固い乳首をつまんでは捻ることを繰り返していた。
「だ……っ、だめ……です…………、それ、は…………やめ………っ……」
 髪を乱して頭を振り、それが男を扇情する自虐行為とも知らずに女騎士は甘く艶を含んだ声で哀願する。もちろん、その言葉を聞き入れるミカではない。それどころか片手を乳房から下し、ぬめりを増した結合部に擦り付けられている女の秘部に指を差し入れると、恥毛に隠れた蕾を探り出し、軽く押し上げた。
「ひぁ…………っん!」
 ビクッと女の背がしなる。収縮した膣がミカをさらに締め付けた。ぞくぞく、と痺れに似た快楽がミカの腰の辺りから脊椎を這い上る。可愛いほどに素直な女の反応に味を占め、ミカは充血して包皮の剥けたその突起を粘液の中で転がし、扱いては執拗にいたぶる。
「や……、だ、め……」
 体は、与えら続けられるあまりにも強過ぎる快楽にバラバラになりそうだった。今やすっかり膝の力が抜けてしまい、ミカの上に座り込み、突き上げる律動に喘ぎながら白い喉を反らして、ただ体を委ねていた。ぬめりの中で嬲られている肉芽からじんじんと絶え間なく快感が這い上る。これ以上の刺激は耐えられない。この淫靡な愛撫から逃げなければと思いつつ、腰は意志に反して自ら、ミカの指の動きを助長するように前後に揺れてしまう。
「だめと言われても、こうすると……おまえの中が……波打つのだが………?」
 ミカの呼吸も浅いものに変わっていた。陶酔するような彼の目の焦点は定まらず、そこに女の陰影をぼんやりと写すだけだ。
「二度目で、こんなにも……淫らになれるとはな………それとも、私の目を盗んで他の男とでも睦み合ったか……」
「ちが……っ」
 殿下に……、殿下に触れられるから……殿下だけです…………。こんなに心も体も感じてしまうのは……。
 胸の内を言葉にして殿下の疑惑を晴らせたらどんなにいいか……アストリットは唇を噛んだ。そして、激しくも甘美な愛撫で朦朧とした脳裏に、ふとさっきの娼婦が浮かんだ。
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