かの騎士、王子殿下専属につき

久保 ちはろ

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第五章 4

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 ミカの肩に縋るように手を置き、その丸い体を擦り寄せていた。内緒話をするように頬が触れ合うほどに顔を近づけていた。帰りしなのミカの体は香水の残り香をまとっていた。
 あの女が殿下に囁いた時、唇は殿下の耳たぶをくすぐったのだろうか。殿下はカード遊びの間中、女を膝の上に乗せていたのだろうか。彼女の唇に挟まれたぶどうを口移しで食べたのだろうか。あの広く開いた胸元の盛り上がりに頬を寄せたのだろうか……。
――嫌だ。殿下が他の女に触れるのは。他の女が殿下に触れるのは……。
 その瞬間、嫉妬の嵐が欲望の炎を大きく吹き散らした。アストリットはミカの上で激しく跳ねた。男の手は女の腰に添えられ、動きに合わせて下から激しく迎え打つ。
「殿下……殿下………っ……………」
――殿下、私だけを見てください。私だけに触れてください。そのお体を他の者に触れさせないでください……。
 言ってしまえばどんなに楽だろう。受け止められずとも、せめてこの自分の想いを打ち明けてしまうことが出来たらどんなに幸せだろう……。しかし、それは決して許されない。
「っ………ン、ん……でん、か……ぁ……っ。いい……すご……く…………っ」
 アストリットの眦《まなじり》から涙が一筋流れた。それを見たとたん、ミカは何かに突き動かされるように体を起こし、彼女を組み敷いていた。
「きゃっ!」
「ほらみろ、落馬した。注意が散漫なのだよ、大尉殿。全く無様な姿だ。乗馬には手綱捌きも要求される……このように」
 アストリットの脚の間に己を割り込ませたまま、彼は仰向けになった女の両手首を掴んで自分の方へと強く引き寄せた。
 雄と雌の結合部が深くなり、それらは錠と鍵のように最奥でがっちりと固定される。妖淫に濡れそぼった花弁がめくり上がらんばかりに左右一杯に広がり、猛々しく膨れ上がった男根を咥え込んでいる様を目にすると、ミカはさらに奮い立った。
 そのままがつがつと攻撃的な抽送を繰り返すと、狂おしいほどの快感に揺さぶられる。アストリットは、体内で暴れまくる官能から逃れようと身を悶えさせるが、腕の拘束に体の自由が利かず、ただ頭を振り涙を流すだけだ。上で揺れるミカも美しい顔に眉を寄せ「はっ、はっ」と鋭い呼気を漏らす。
「私から……目を離すな……。私だけを、見るのだ…………私だけで……いい……」
 その言葉は、自分の頭に渦巻いていた思いを代弁してくれたようで、アストリットの胸は悦びに熱くなる。涙をあふれさせた瞳でミカを見上げながらガクガクと何度も頷いた。
 それを見下ろしながらミカは暴れ馬のごとく攻め続けた。鋭く、力強い抽送で貫く度に、濃度を増した体液が卑猥な水音とともに結合部からじゅんと溢れ出す。
「だめ……っ……っは……あ、や……っ! やっ! ……あっ…………あっ!」 
 好き……殿下が、好きです……。激しい官能に押し出されそうになる一言を飲込み、それを嬌声に変えて叫び続けた。
「普段は大人しい顔をして……こんなに激しく男を貪るとはな……その闘志は褒めてやろう………」
 熱く息を乱してミカは低く囁きながら屈み込み、獰猛に口付けた。唾液の溢れる口の中で二人の舌は身を捩らせて泳ぎ、激しく巻き付いた。ミカは最奥にこれでもかと肉幹を捻り込み、喉の奥で小さく唸る。女をかき抱き、ぶるりと全身を震わせた後、アストリットもその体にしがみつき、果てた。 
 アストリットに被さっていたミカはやがて落ち着くと、女の体に腕を回したまま身を反転させた。慌てて自分の上から下りようともがきだした彼女の顎を指で掬い上げ、キスでその動きを抑えてしまう。
 軽く唇を啄むキスに相手が躊躇いながらも応え始めると、ふっくらした上下の唇を舌で交互になぞりったり、めくり上げるように吸い付いたり、時折舌先を、軽く開いた口に浅く差し入れた。
「は……ぅん」
 アストリットが媚びるように小さく鳴く。
 その声に唆《そそのか》され、ミカは顔の角度を替えてさらに女の舌を弄びながら、自分の逞しい胸をくすぐるように掠めていた女の二つの小さな赤い実を摘んだ。
 しこったそれを指先でくるくると転がし、爪の先で強く弾く。乳房を捏ねながら突き出た尖端を指先で潰す。びくん、とアストリットの体が反応する。それでも逃げる様子を見せず、彼女は従順にその手に身を委ね、突起への繊細な愛撫に喉を鳴らして彼女は幾度も身を震わせつつ、絡み付いてくるミカを甘噛みし、口の端から甘い溜め息を漏らした。
「随分上達が早いようだが……」
 顔を離したミカは低く言った。まだ吐息が絡む位置の、澄んだ青い瞳は自分の全てを見透かすようだ。アストリットは思わず目を伏せた。立場を忘れて乱れ、貪欲に求めた自分を主人は軽蔑しているのだ。
「本当に、他の男と関係を持っていないのだな」
 思わぬ言葉に瞠目し、強く頭を振ったあと、ミカを見据える。
「別におまえを責めているのではない。おまえも一応女だ。城内には男が多い。言い寄る者もいるだろう。何かあっても不思議ではない」
 その言葉に心は折れる。私が誰と関係しようと殿下は構わないのだ……。胸を詰まらせながら言葉を絞り出した。
「殿下だけです……」
 その心に偽りは無かった。これまでも、きっとこれから先も……。
「確かか?」
「はい……。殿下お一人だけです……誓っても……」
 ぐい、と後頭部を強く引き寄せられ、噛み付くような口づけをされる。一方的にねじ込まれた舌は、口内で傍若無人に振る舞った。粘膜に身を激しく擦り付け、相手を捜し出して噛み付き、強く吸い上げ、侵した。
 そして興奮からか、頬を紅潮させて向かい合うミカは荒い息とともに一言零した。
「おまえをもっと味わいたい」
 味わう、と言うのがどういう意味かわからない。しかし、切実を浮かべた瞳に、アストリットの胸がとくんと脈打った。
――自分にとっては殿下だけ。その気持を証明出来る手段は、ミカの要望に応えるに尽きる。
「よいか?」
 甘美な予感に目元が熱くなるのを感じながらこくりと頷く。ミカは子供を褒める手つきでアストリットの頭を撫で、やんわりとベッドに押し倒すと、首筋に、鎖骨に、身体中にキスをまぶしながら降下して行った。キスはやがて臍に、恥骨を覆う恥毛に落される。手が両の太腿にかかり、押し広げられる。
「で……殿下、あの……」
 どうにも不吉な予感にアストリットは我に返ると、手を伸ばし、内腿に音を立ててキスをしている主人の筋肉で包まれた丸い肩に触れた。
「おまえは寝ていればよい」
 ちらりと上げらた視線と、有無を言わさぬ語気にアストリットの頭は再び枕に沈んだ。ドキドキと、耳の中で鼓動が高鳴る。
 そっと襞を左右に分ける指の感触に、下腹に思わず力が入る。
 ミカの顔が吸い込まれるように女の秘裂に近づく。ふっと、秘裂を呼気が撫でた。
 殿下が、見ておられる……あんなところを……。そう思うだけで羞恥に肌が粟立つ。ミカは、若い雌から立ち昇る甘酸っぱくも甘露な芳香を胸いっぱい吸い込んだ。
「いい匂いだ……。酔ってしまう」
「や……お許し、くだ……さい」
 そうだ、きっと殿下はアリアス卿の会合で少し悪酔いされたに違いない。酒に負けて……自分を見失われている……。
 これ以上辱められたら、自分は今後、ミカと顔を合わせる自信はなかった。彼女はその先の行為を止めるのに必死になった。
「殿下……、殿下はすでに、酔っておられるのです……そんな所から、どうぞ……」
「だまれ」
 ずずっ、と水音を立てながら蕾を強く吸われたアストリットは息を詰まらせ仰け反った。一瞬の緊張を過ぎ、弛緩した体がベッドに堕ちる。それも束の間、再び彼女の背は襞を撫で上げたミカの舌の動きと連動するかのようにゆっくりと弓なりになった。体の奥から打ち寄せる強い官能に、くらくらとめまいがした。
「なかなかよい味だ」
 そんな、そんな場所に顔を埋めるなんて。舌を……這わせるなんて。良い味だなんて……。殿下ともあろうお方が、正気の沙汰ではない。やはり野盗に襲われた時に頭を強く打たれたか、首でも締められて、ショックから少々おかしくなられているに違いない。
 強い刺激に散ったアストリットの理性の欠片が、まだどこかでこのミカの狂乱の正当な理由を探していた。再び、舌が粘膜の内側を這う。彼女はシーツを握り込むことでやっと意識を保った。
「殿下……っ、どうか…………っああんっ」
 牽制の最後の言葉は、自分を吸い上げる高い水音に消された。じゅ、じゅっと肉芽をさらに強く吸われ、震える内腿は思わず男の頭を挟み込んだ。
 ミカはそれを両手でやんわり開き、舌先で蜜口をなぞるように何度も弄《まさぐ》った。そして舌全体を押し当て、襞が左右に広がるほどにねっとりと下から上へ舐め上げた。襞の内の粘膜がぬるぬるっと擦られる。指でも、陽根でもない、それらとは比べ物にならない甘美で淫猥な愛撫がアストリットの芯をとろけさせる。
「あ……、あっ……あ…………」
 悩ましげに歪んだ口元から甘い吐息を漏らして首を左右に振っていた彼女は、無意識のうちに主人の髪に手を差し入れ、指を絡めていた。疼いた腰が小刻みに動いてしまうが、腰骨を覆ったミカの手にしっかりと押さえつけられ、逃げ場の無い愉悦が身体中を駆け巡る。やがて、一方の手が乳房を掴み、揉みしだく。下から掴み上げたまま、人差し指が乳首を擦り、弾く。
「ん……あぁ………」
 脚の付け根に顔を埋めたミカは柔肉に深々と舌を潜り込ませ、潤みをすくいながら蜜を吸い上げることを怠らない。くちゅ、ずずっという卑猥な音は断続して続き、彼女の鼓膜をも犯す。ミカの舌を包む粘膜は戦慄き続けた。
 ミカはふと顔を上げ、女の顔を伺った。伏せられていた瞼は、中断された愛撫で不安げに開く。
 顔も体も桃色に染め、涙で目の縁を滲ませる専属護衛。
 自分がこの騎士を淫らな女に変えている。そう思うとミカの口元が綻ぶ。
「いくら飲んでも、涌き出してくるぞ……」
「や……ぁ」
 初めて与えられた、舌による蜜壷への刺激と官能に意識を朦朧とさせたアストリットに、もはや答える言葉は無かった。
「感じているのか?」
 ぽってりと膨らみ、色づいた秘部からおびただしく溢れ出す蜜を見ればそれは瞭然だ。それでもミカは聞かずにはいられなかった。どこまでも自分の欲望を煽る女の口から聞きたかった。
「……は、い……」
 アストリットは小さく頷く。
「どのように?」
 ほとんど泣き顔で、女は下唇を噛んでいる。
「おまえの気に召さねばやめよう」
 相手は勢いよく首を左右に振る。そして目を伏せながら震える声で言った。
「きもち……いい……です。殿下の…………舌が……」
 それだけ聞くと、ミカは再び花弁にむしゃぶりついた。女の濃くなった匂いに陶酔する。
 深く挿入させた舌で中をかき混ぜると、新たに涌き出した蜜が尻の曲線に流れ、筋を付ける。それもじっくりと舐め上げる。指の腹で充血した花芯に愛液を塗り付け、転がし、根元を扱く。舌は依然うるみを奥深く抉《えぐ》る。
 全身を悶えさせ、アストリットは掴んだ枕に顔を埋めながら切なげに鳴き続けた。
 ミカは指を離すと、露に濡れた淫花をすっかり覆うように唇をぴたりと密着させ、舌を固く尖らせ抜き差しを繰り返した。潜らせたまま、熱を持ってぬめる内を撹拌し、粘膜を擦り上げる。蜜が口一杯に溜まり、じゅるるっと突起ごと吸い上げれば、アストリットの体が大きく波打つ。女の呼吸は浅く、速い。行き着く高みは近かった。
 尖らせた舌先を、細かく震える雛鳥の翼の動きさながらに、つるりと固い蕾の上でそよがせた。それ自体がビクビクと戦慄き、ミカを求めているようだ。
「や……、や、いい……あ、あ…………あッ……はっ…………」
 太腿を腕でがしりと抱え込み、跳ねる腰をベッドに押し付ける。女の平らな腹が戦慄く。
「っ、あ、あ……あ、……っは、はぁーーーーっ!!」
 押さえつけた体が硬直しても、ミカは勃ち上がり震える花芯の上で舌を動かし続けた。それを唇で挟み、何度も強く吸い立てた。
「ひゃ……あぁん!!」
 ひときわ鋭く鳴き、腕に抗って浮いた腰はミカの口元に強く押し付けられた。戦慄く襞の中で狂ったように舌をくねらせながら、彼は自分の下腹に片手を伸ばし、血管の浮いた猛る分身を激しく扱き続けた。
 アストリットの弛緩した体はベッドに沈み、その腹の上にミカの煮えたぎった欲望がたっぷり注がれた。
  
 ミカ腕の中で、アストリットは大人しく主人の胸に頭を載せていた。時折彼の手は首筋を、肩を、腰をくすぐった。その度に甘い痺れが肌を走る。熱い視線が自分に注がれていることはずっと気がついていた。それでも自分がたった今晒した痴態の恥じらいから、顔を上げることが出来なかった。
 それでも、沈黙の重さに耐えかねアストリットはぽつりと零した。
「殿下。殿下は人を斬る時、どんなお気持ちになりますか」
 頭の下の肩が動いた。ミカはさらに自分の方へ身を寄せていた。
「私は人を斬ったことなど一度も無い」
 アストリットは訝しげに、すぐ近くにぼんやりと浮かぶ顔を見た。その瞳は全てを悟ったように、一点の曇りもなかった。
「人と思わねば、罪悪感など湧かないだろう? 人は人のかわりに神にヤギの生け贄を捧げる。神も人とヤギの区別がつかないのだ。私が人をヤギだと思っても仕方あるまい……と言いたい所だが、残念なことに所詮、私もおまえと同じ人の子だ。おまえが人を斬る時に感じることを私も感じるだろう」 
 彼女は、ミカが自分に素直に答えたことに驚きを隠し得なかった。そして、ミカは自分と同じ気持だと告白した。――きちんと問えば答えてくれる――ヨシュアの言った通りだった。
 言葉を継げずに主人を凝視していると、一瞬、ミカはどことなく嬉しそうな表情を浮かべ、すぐに体をずらして額を乳房の間に押し付けた。低い声が肌に振動する。
「馬車を頼んで来い。城の近くまで乗って行こう。おまえはもう歩けんだろうからな」
 アストリットは我に返り、護衛の顔に戻ると手早く服を身に着け、階下に下りて行った。
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