コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき

文字の大きさ
43 / 107

第43話 オルカに乗ったイングリド

しおりを挟む
「あはははは! これはすごい! 楽しいー!」

 水面から、大きなオルカが飛び跳ねる。
 その背中には、専用の鞍馬にまたがったイングリド。
 彼女を乗せたオルカも、気持ちよさそうに飛んでは潜り、そして泳ぐ。

「やるな嬢ちゃん! 初めてでそれだけ乗りこなせるなんて、すげえ才能だぜ! まるであつらえたみたいに、相性がぴったりだ!」

 またも仕事をしたか、幸運スキル。

 俺たちは今、船の上だ。
 オルカ騎士団が所有する船は三隻あり、そのどれもが二つの帆柱を持つブリガンティンタイプ。
 これはそのうちの一つ、レッドオルカ号だ。

「驚くべき熟達速度です。いや、彼女がイングリドに合わせてくれているのか。あれほど相性がいいことは珍しい」

 キルステンが驚いている。

「恐らく彼女は、天才の類いだと思うね。そして、ユニークスキルの力で、その能力が十二分に発揮されている。それにこの俺と、ドワーフの魔術師がいるんだ。大船に乗った気分になってこないか?」

「なりますね。オーギュスト師だけで充分だとも思ったんですが」

「それは俺を買いすぎだ。幾ら俺でも、たった一人では何もできないよ」

「それは謙遜しすぎです!」

「何言い合ってるのさ、あんたたち。しかしまあ、あたいは海の風景は好きだけど、ここから落ちたらと考えるとゾッとしないねえ」

 船べりにしっかりとしがみつき、じっと海を見下ろしているギスカ。
 彼女が言うように、本当にドワーフは水に沈むのだろうか。
 詳しいことは分からない。

 試してみたいと思ったが、意図を読み取られたらしく、ギスカにギロリと睨まれた。
 やらないやらない。

 さて、オルカ騎士団withイングリドと並走しながら、大型帆船レッドオルカは海を行く。
 このままの風向きで半日も突き進めば、キングバイ王国の本国になるのだろうが……。
 そこで問題が出たわけだ。

 突如、海の流れが変わる。
 海流は一箇所に向けて、渦を巻き始め、いかに風を味方につけても船は先へと進めなくなった。

「これは一体? どれ……」

 俺の船乗りスキルが唸る。
 水の流れはある場所から急激に変化している。
 これは自然現象ではない。

 魔法によって、海の一区画が大きく区切られているのだ。

「しかもこの規模……かなりの大魔法を行使していると見える。この先はどうなっているんだね?」

「大渦潮です。船が巻き込まれれば、無事には戻れないでしょうね」

「それを使って、キングバイ王国を外に出てこられないようにしているわけか。なるほど、それをやって誰が得をするのか、明らかになってくるな」

 今現在、キングバイ王国と反目している組織は、ただひとつ。
 マールイ王国である。

 俺が考えるに、これはマールイ王国が何らかの手を使って、キングバイ王国に嫌がらせをしているのだ。
 それも、この状況を解消しようと挑んだ人間が死んでしまうような、たちの悪い嫌がらせだ。

「魔法であることは我々も察知しています。キングバイ王国でも、所属する魔法使いをかき集めて対抗しているのですが……。攻略に手間取っているようです」

「なるほど。そしてこれを行っているのが魔族と」

「はい。それも、かなり純血種に近い魔族だと思われます」

 魔族というものは、過去の大戦で召喚された異世界の存在だ。
 その上位種は、人族を遥かに超える強大な力を持ち、単体で戦場を支配することができる。
 悪魔、あるいは魔神とも呼ばれる。

 俺は、そのうちの一柱、炎の悪魔と呼ばれるバルログが、戯れに残した子孫なのだ。
 バルログを始めとする魔族たちは、ほとんどが退治され、純血種……召喚されたままの本物の魔族はもう残っていないとされている。

「それは実に、具合が悪いね。俺は魔族とは言えど、せいぜい一割程度しか血を受け継いでいない半端者だよ?」

「ですが、オーギュスト師。強大な上位魔族たちは、そのことごとくが人族によって倒されたのです」

「その通り」

 俺とキルステンは笑い合う。
 キングバイ王国の魔法使いを束ねたよりも強大な魔法を行使する、純血種に近い魔族。
 どれほど強力であろうと、勝てぬ道理は無いのだ。
 それは歴史が証明している。

「では、船で周囲を回り、魔族についての情報を集めて行こう。俺の戦いは、情報をきちんと集めてからが本番だからね」

「戦わないのか? そのために来たんだろうが」

 他のオルカ騎士団が、不満げに問う。

「相手の手の内を知らずに戦うなんて自殺行為だよ。とりあえず五割。相手の姿形、手の内が分かるだけの情報があればどうにかなる。それ以降は、幸運の女神が突破してくれるさ」

「幸運の女神?」

 疑問を感じるオルカ騎士団。
 彼女の力は、ともに戦わねば分からないだろう。

 おっと、話をしていたら、船が軽く傾ぎ出した。
 これは渦に向かって引き込まれる予兆だろうか?

 操舵手が慌てて操作し、団員が帆柱に取り付いている。

「キルステン団長、一つ聞きたいのだが」

「はい、なんでしょう?」

「我々はここまで来ても、渦潮による不自然な海流操作しか確認できていない。これは特殊な自然現象だと見ることもできると思うが……どうして、相手が魔族だと確認できたんだい?」

「ああ、それはですね。敵が宣戦布告してきたんですよ」

 キルステンの表情が険しくなった。

「巨大なイカを馬のように乗りこなす、青い肌をした魔族でした。確か名前を……ネレウスと名乗りまして」

 魔族ネレウス。
 それが今回戦う相手の名前か。
 エルダーマンティコアよりは、よほど厄介な敵であろう。
しおりを挟む
感想 115

あなたにおすすめの小説

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

魔法物語 - 倒したモンスターの魔法を習得する加護がチートすぎる件について -

花京院 光
ファンタジー
全ての生命が生まれながらにして持つ魔力。 魔力によって作られる魔法は、日常生活を潤し、モンスターの魔の手から地域を守る。 十五歳の誕生日を迎え、魔術師になる夢を叶えるために、俺は魔法都市を目指して旅に出た。 俺は旅の途中で、「討伐したモンスターの魔法を習得する」という反則的な加護を手に入れた……。 モンスターが巣食う剣と魔法の世界で、チート級の能力に慢心しない主人公が、努力を重ねて魔術師を目指す物語です。

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

ガチャで破滅した男は異世界でもガチャをやめられないようです

一色孝太郎
ファンタジー
 前世でとあるソシャゲのガチャに全ツッパして人生が終わった記憶を持つ 13 歳の少年ディーノは、今世でもハズレギフト『ガチャ』を授かる。ガチャなんかもう引くもんか! そう決意するも結局はガチャの誘惑には勝てず……。  これはガチャの妖精と共に運を天に任せて成り上がりを目指す男の物語である。 ※作中のガチャは実際のガチャ同様の確率テーブルを作り、一発勝負でランダムに抽選をさせています。そのため、ガチャの結果によって物語の未来は変化します ※本作品は他サイト様でも同時掲載しております ※2020/12/26 タイトルを変更しました(旧題:ガチャに人生全ツッパ) ※2020/12/26 あらすじをシンプルにしました

処理中です...