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冴えない私の助走編

第15話 収益化伝説

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 兄からDMが来た。
 何かな……?
 私のアーカイブ編集が甘いぞっていうお叱りかな……?

 あの人はめちゃくちゃ優秀だったので、私は子どもの頃から「こんな化け物と血が繋がっていると思えないほど自分はゴミクズ!」と自己肯定感をめちゃくちゃ下げて育ってきた。
 なんで今普通のサラリーマンしてるの、あの人。

 それがいきなりこの間、「お前のマネージャーをやる。仕事は辞めてきた」とか言うんだから何考えてるんだろう。

 恐る恐る、ツブヤキッターのDMを開いてみたら。

『喜べ。収益化が通ったぞ。確認してみろ』

「えっ!? 収益化が!?」

 収益化というのは、冒険配信者の配信に、リスナーが直接投げ銭できるようになること。
 ある程度配信の数が多くて、ダンジョン探索の成果を上げていると認められた配信者は、こういう収益化という恩恵を受けられるようになる。
 アーカイブが再生されてもお金が入ってくるのだ!

「参ったなあ、私、お金持ちじゃん」

 Aフォンを抱きしめて、ニヤニヤしながらベッドの上でじたばたする。
 母が部屋の前を通って、それをちらっと見た。
 私の奇行はいつものことなので、うんうん頷いてから立ち去っていく。

 理解のある親がいると助かるなあ。

『それからこちらは水面下で交渉中だが、恐らく……案件を受注することになる。そちらは俺に任せろ』

「頼りになるなあお兄ちゃん!」

 子供の頃は恐ろしい完璧超人だと思っていたけど、完璧超人がマネージャーしてくれるというのは本当にありがたい!
 交渉とか私絶対無理だものね。
 案件を受注とかもう、夢のまた夢……。

 ……案件?
 案件って何よ。
 もしかして……企業……案件……!?

「あ、あ、あひーっ!?」

 私の脳が許容限界を超えたので、とりあえず叫びながら仰け反っておいた。
 私はこうやってよくダメージを受けて暴れるので、まあまあ体の柔軟性が高い。
 その柔軟性を使いこなせないくらい身体能力がクソ雑魚なんだが!

「と、と、とりあえずツブヤキッターで報告しとこ……。みんな、こんきらーっと……」

 こんにちきら星は、ちょっと冗長ではないかと兄とリスナーに言われて、略することにしたのだ。
 知恵者が多いと助かる……。
 私の代わりに考えてくれるもんね。
 今後も頼むぞ、私の外付け頭脳。

『お前ら~! こんきらー! ついに私、収益化が通りました~! どれもこれもお前らのお陰だ~! 愛してるぞ~~~~!!』

 ふ、ふふふふ。
 ちょっと過激すぎるラブコールだったかな……?
 投稿してから、ちょっと読み直して、恥ずかしくなったので削除しようとした。

 その時。
 ピコン、と横に通知マークが出る。
 一つ、二つ、三つ、七つ、十……!!

「う、う、うわあああああああああああ!!」

 超速で通知が増えていく!
 なんだこいつら!?
 暇か!?
 それともリアルタイムで私を監視してたのか!?

 あ、そ、そう言えばフォロワー数が増えてたんだった! い、い、10.000人!?
 私を監視してる奴が10,000人もいるのか!?

 挙動不審になる私。
 いつ増えた!?
 あ、この間のチャラウェイさんとコラボした時からか!
 増えすぎでしょフォロワー……!!

 ちょっと前まで3000人だったでしょ!?

 これはきっと、調子に乗ったツイートをした私への罵倒通知ではないか……!
 あひーっ!
 え、え、炎上する~!?

 ぶるぶる震える指先で、通知を押した私。
 すると……。

『こんきらー! おめでとう!』『本当におめでとう!』『はづきっち頑張ってたもんね!』『垢BANからのドラマチックな復活見てた!』
『収益化報告配信する? 絶対見に行く!』『はづきっちがダンジョン潜ってくれるお陰で平和だよ~! おめでとう~!』

 ああああああ~~~~~~。
 優しい世界ぃぃぃぃ~~~。

 汚れきっていた私のハートが今、浄化された。
 ゴボウについてた泥が落ちるように、心が晴れやかになる。

 この世界には優しみが溢れているんだ。
 私、生きていていいんだね……!!

 とりあえず、コメントをくれた全員にハートを付けて回る。
 あまりにもハートを付けすぎたので、ツブヤキッターから制限されてしまった。

 くっそー。
 これはもう、収益化報告を配信するしか無い。
 雑談配信だ!

「お母さん! 私、今夜雑談配信するから部屋に入らないでね!」

「はいはい。配信するようになってから元気になって、嬉しいわー」

 ああは言っているけど、夕飯前に配信すると絶対ご飯に呼びに来る。
 それだけは避けなければならない。

 私はタイムスケジュールを綿密に立てて、午後八時開始とした。
 七時の夕食を高速で食べる。
 私は会話せず食べるので、かなり食べるのが早い。

 早食いは太るよ、と母に言われるが、確かに胸元とか腰回りがどんどんきつくなってきてる気がする……。
 ゆっくり食べるのも覚えなくちゃいけないか……。
 どうやればゆっくり食べられるの。

「ごちそうさま!」

「はい、おそまつさま」

 食器を重ねて流しに運び、私は自室に飛び込んだ。

「バーチャライズ!」

 Aフォンを起動して、きら星はづきの姿になる。
 もうすぐ、ダンジョンコアを使ってデザイナーに発注した専用衣装も完成するし。
 このジャージ姿も見納めかなー。

 配信、開始!

「お前ら~! こんきら~!! 新人冒険配信者の、きら星はづきで~す!!」

※『こんきら~』『こんきら~』『こんきら~』

【赤スパ¥20.000:団子郎『こんきら~』】

「う、う、うわーっ!!」

 真っ赤なスパチャが飛んできたので、私は腰を抜かした。

※『画面から消えたぞ!』『腰抜かしてて草』『スパチャでこんな驚く人はじめてみた』『純粋~』

「お、お、お前らー!! む、無理するなー!! いきなり赤とかとんでもないだろー!! はあ、はあ、心臓止まるかと思った」

【赤スパ\15,000:ろいえんたーる『とまれ、心臓! 収益化おめでとうございます!』】

「あひーっ」

※『鳴いた!』『風情がある』

 ここからスパチャが止まらなくなった。
 こ、こ、これが御祝儀!?
 とんでもない金額が集まってくるんだけど!?

「か、勘弁してくださいお前らー!? もう、もういいから! スパチャ嬉しいけど私の心臓が持たないから!」

 私がリスナーに手加減を懇願していたら、後ろの扉がガチャっと開く。

「ねえリンゴ剥いたけど食べる~? ちょっと一息入れて~」

「お、お母さん!? 配信中入ってこないでって言ったでしょー!!」

※『マッマきた』『毎回何かしら起こるよな』たこやき『撮れ高を発揮せずにはいられない女』

【赤スパ¥50,000:たこやき『いつも切り抜き作らせてもらってます。これおすそ分け』】

 とんでもないのが最後に来て、あまりの衝撃で私はこの配信の記憶がぶっ飛ぶのだった。
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